21.アベルくんとホラーな神様。
21.アベルくんとホラーな神様。
その日の深夜。
小さい魔道具の明かりがともるだけの子供部屋。
俺は相変わらず全身魔素タンクの実験をしていた。
もう手詰まりって感じなんだけどね。
これ以上圧縮も出来ないようだし、首より上は溜められない。
魔素の実験はこれで終わりかな?そんなことを考えていたら、俺の隣でモゾモゾ言ってる人がいる。
アンネローゼがこっちを見て手を伸ばしている。
お前、まだ起きてんの?
ませてるよな。
しかしアンネローゼは「うー、うー」と言いながら俺の方に手を伸ばしてくる。
なんだよ、手を取れってか。
仕方ねぇなぁと、俺は精一杯伸ばされているアンネローゼの手を握る。
そしたら、アンネローゼもしっかり握り返してくる。
なんだ?こう、握った手がムズムズする。
おい、なんだよこれ?
うわっ!
魔素が吸われてる!
俺は手を振りほどこうとしたが、どうにもこうにもほどけない。
なんだ、アンネローゼ、お前吸血鬼にでもなったのか?
心の中でそう思っていると、パッと手が離れた。
気付くと魔素は身体の半分以上吸われていた。
一体なんだんだと、混乱しているとアンネローゼの口が開き、明るい光が口から出てくる。
なに?ホラー?やめろよ、おい。
口から手が出て、次に頭、続いて胴ときて足で全身が現れた。
白く光る裸の女がそこにいた。
クソ!クソ!新生児の心拍数を跳ね上げんじゃねぇ、この化け物め!
「やっと出られたわ~。」
その光っている幽霊のように半透明な女は言った。
誰だお前!アンネローゼに何しやがった!おい!俺は心の中で叫んだ。
「なに、あんた、ただの赤ん坊じゃないわね。ああ、魔素をくれたのはあんただったの、助かったわ。」
だから誰だってんだよ。泣かすぞ。ん?会話できんのか?
「赤ちゃんに泣かされたんじゃ困るわね。あたしはトレーサ。この世界の神の一柱よ。会話くらいできるわよ。というか、あんたみたいな思考している赤ちゃんのほうが珍しいわ。」
神だぁ?なんで神がアンネローゼに憑りついてんだよ。
「あんた、失礼ね。憑りついちゃないわよ。この世界に顕現するのに、巫女の力が必要だったの。」
はぁ?巫女ぉ、アンネローゼが巫女ってことか?
「そうよ、トレーサ神の巫女。中には聖女って呼ぶ連中もいるわね。ところであんた、私が神だって言ってんのに敬わないわね。あたしは名乗ったんだから、あんたも名乗りなさいよ。」
名乗れだぁ?
アベル・ヴァレンタインてんだよ。
しかしあれだ、混沌のジジィが神なんてろくでもないって言っていたのは本当みたいだな。
「フーン、アベルね、あ~、あれに会ったの?あいつはホントいけ好かないわ。でも、あいつに会えるって、あんた何なの?」
俺はただの生後三か月の新生児だよ。
「ガワはそうよね。でも中身はなかなか老成してるじゃない。ははん、混沌に入れられたとか?笑えるわね。」
うっせーよ、余計なお世話だ。
なにしに顕現した。
「私、顕現するの500年ぶりなのよね。前はそれで戦争が起っちゃってさ。まあ、ヒューマンたちが何しようと関係ないんだけどね。」
500年前の戦争って、聖王国との戦争か。
聖王国の唯一神がトレーサだったよな。
「あら、新生児にしてはよく知っているわね。そうそれよ。聖王国は北に在るでしょ。あまり作物は育たないし、正直みんな飢えていたのよね。そう言うからさ、なら南の肥沃な土地貰ったら?って言ったのよ。そしたら神託を得たとか言って盛り上がっちゃってね。ここまで攻めてきちゃったのよね。程々にしなさいよって言っていたのに、負けてボロボロで帰ってきちゃってさ。ホント、ヒューマンはバカばかりなんだから。」
お前さ、まがりなりにも神なんだろ?聖王国の唯一神だろ。
そんなんが南の土地貰っちゃえば?
とか神託下せば、そりゃみんな本気で南進するだろ。
ちったぁ考えろ。
「考えろって言われてもさ、何人も、何人も飢えて死んで行くんだよ。その連中の魂を高次元へと送ってやるくらいしか、私にやってあげることがなくってさ。なんとかしてやりたいって思うじゃん。そしたら口からポロッと南進せよって、テヘッ。」
テヘじゃねぇ!飢えで死ななくても戦で死んだら元も子もないじゃねーかよ。頼むぜ。神様よ。でさ、今回はなんで顕現した?気まぐれでもあるまい?
「うーん、気まぐれ?」
張っ倒す。
「その身体で?ちょっとね、聖王国を見に行きたくなったのよ。私にだって良心の呵責くらい一寸はあんのよ。」
そうか、ご観光で。
「Yes sightseeing」
なんで英語知ってんだよ。
俺は入管のおっさんか?
まあ、いいや。
トレーサ神よ。この矮小なる新生児よりお願いがあります。
「いきなりどうしたのよ。気持ち悪いわね。いいわよ。混沌と邂逅したる新生児に免じ、我は願いを聞き入れん。転生者アベルよ、汝の願いとはなんぞや。」
あれ?俺名前言ったっけ?
言ったな、言った。
まあいいや。
この地上を混ぜっ返さないでいただきたい。
また戦争の起こるようなことはないようにさ。
頼むよ。
迂闊なことは言わないで。
俺が大人になったら、なんとか聖王国と食料の貿易も考えるからさ。
その間に聖王国側で貿易できるような特産物の開発でもしておいてくれよ。
頼む。
そう言って俺はトレーサに頼み込むのだった。
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