193.アベル君とマーティー。
193.アベル君とマーティー。
俺たちはデカいカマキリと対峙していた。
大きさ的にはおおよそ高さ2.5m、長さ5m。
やべぇ、ちとこいつは怖い。
日本のオオカマキリなら、獲物に対しては滅茶苦茶貪欲なはずだ。
「ローズは左でチクチク攻撃、フレイは正面ヘイト稼いで、俺は右から足を狙うか腹を狙う。」
「了解!」
二人の返事を聞き、俺は飛び出す。
それと同時に二人も前に出た。
目の前に出たフレイの盾を、マーティーは上から引っ掛け、振り回そうとする。
フレイは何とか盾をマーティーの鎌から外し体制を整えたが、フレイから正面に向かって右の鎌が彼を襲った。
フレイは右に持った剣でそれを何とかいなす。
こりゃのんびり出来ないな。
俺は剣を構えながらマーティーの足に突進し、中足の真ん中の関節を狙い剣を振り上げた。
なにかが俺の剣を止めた。
左の鎌で俺の剣を引っ掛けていた。
そしてそのまま引っ掛けておいて、俺の手から剣をもぎ取ろうとする。
何こいつ鬱陶しい。
俺は即座にブレインブーストを掛けた。
例のごとく目の前が薄い黄色に染まり、周りがゆっくりになって行く。
そして引っ掛けられた剣を、クルリと下側に反転させ鎌からすり抜けた。
マーティーが俺にかまけている間に、ローズが前足の関節を切断、フレイの剣がマーティーの首をかすめた。
「ぐぎぎぎぎ」
石を擦るような不快な音を立てるマーティーは、たぶん怒っているんだろう。
いきなり後ろの羽を広げ俺たちに飛び乗ろうとジャンプした。
ブレインブーストの掛かっていた俺は難なく避けられた。
ローズも持ち前の身軽さで避けられたようだった。
問題はデカい盾を持ち、プレートメイルで全身を包んでいるフレイだ。
しかし、彼は盾を投げ捨て後方に飛ぶことで何とか事なきを得た。
様に見えた。
マーティーは逃げたはずのフレイを鎌で巧みに掴み、鎧で包まれていない首に自分の口を近づけた。
羽を広げたマーティーは横にも大きく見え、さらに俺たちにプレッシャーをかける。
だが、そんなことを言ってられない。
「アンネ!魔法解禁、援護のファイアーボール!」
そう俺が言うより早く、ファイアーボールが羽に当たり散る。
やわらかく薄い羽根が焦げ穴がいた。
気がそれたマーティーの首がフレイから離れた。
その隙に発動した魔改造最強ファイアーボールXが、奴のどてっぱらに届いた。
3000度を超えるであろう、青白く光るファイアーボールがやわらかいマーティーの腹を瞬時に燃やし、炭化させながら進んで行く。
それが中央付近に届いたとき盛大に炎が噴出した。
「ぐぎぎぎぎぎ」
鎌を振り上げ、断末魔を上げるマーティーの首が一瞬下がる瞬間、をれは声を上げた。
「フレイ!首!!」
俺が言うと、両手で剣を持ったフレイが、マーティーの首を綺麗に落とした。
「やったか?虫や爬虫類はしぶとい。まだ残心だぞ。」
皆は十分警戒していたが、一応俺は言った。
と言ったが、マーティはすでに動く気配がなかった。
「あっついな、もう。だからあれは使いたくなかったんだよ。」
俺はそう言って生成した水をまだブスブス燃えているマーティーの腹にぶっ掛け続けた。
最初は湯気が上がり、なお不快な思いをしなければならなかったが、続けて冷やし続けたら、ようやく熱も冷め、快適な気温になった。
「ヤバかったなぁ。フレイ、大丈夫か?精神的に。」
俺がこう言うと
「ちょっと、ここから先、虫を見たくないですね。」
トラウマを植え付けられたような顔をしたフレイが答えた。
「帰りも虫だらけだけど、こらえてね。」
俺がこう言うと
「はい…」
と、フレイは小さい声で答えた。
「アンネとローズは良い働きだったね。前足を断ち切ったローズと、自分の判断で窮地を救ってくれたアンネ。助かったよ。」
「私、アベル様の言いつけ守らなかったのに。」
そう小さい声でアンネがつぶやく。
「いいんだよ、そこは臨機応変で。おかげでフレイの命が助かったんだ。気にしないでいいよ。」
俺がそう言うとアンネは小さく頷いた。
「うん、それでいい。で、フレイヤさん、こいつの魔石はどこ?」
俺はフレイヤさんに声を掛けた。
「あるかしらねぇ。」
「え?どういうこと?」
「お腹なのよね、魔石。アベルちゃん焼いちゃったから。あれでしょ、さっきのファイアーボール、鉄も溶かすってやつなんでしょ。奥様から聞いたわ。ほんのヤバいわね。」
「え?まじ?まだお腹は残っているから、掻っ捌いて覗いてみなきゃ。」
「あんた、掻っ捌いてってホントは幾つよ?まあ、とりあえず中を見てごらんなさいな。」
「はい、どれどれ。」
すっかり虫の中身を見慣れた俺は、ナイフを手にマーティーの腹へと近づき、文字通り掻っ捌いた。
すると、ごろりと握り拳大の魔石が出てきた。
「良かった、あったよ。」
体液でドロドロの魔石を持ち上げ、皆に見せる。
ご婦人方二人は露骨に嫌な顔をした。
とりあえず、水で洗ってと、俺は水を生成して魔石を洗い出したが、その水が腹の内容物に当たって、流された。
そして、鈍く赤く光る拳大の石が現れた。
「ドロップがあったよ!」
俺がそう皆に叫ぶと、ぞろぞろと遠巻きに見ていた連中が集まりだした。
現金な奴らめ。
「あんたたち、本当に運が良いわねぇ。赤鉱石じゃない、これ。」
「また宝石の類?」
「そうよ、緑鉱石と対って言わらているわね。赤く光る宝石よ。来る途中で見つけた緑鉱石の倍あるじゃない。これくらいで、金貨10枚、大金貨ね。」
「「「大金貨!!!」」」
俺とリーサ以外の皆が驚き叫ぶ。
まあ、大金貨なんて、普通に生きていたら見ることはないはずだからな。
「で、どうする?」
俺が皆に聞く。
「どうするって?」
フレイが疑問を疑問で返しやがるので
「どう分配するかってんだよ。」
俺の口調も悪くなる。
「いや、またアベル様が持っておいてください。俺達そんな大それたもの持てないですよ。」
振れがこのように言うと、ローズとアンネもコクコク頷いた。
「金にしないかもしれないぞ。俺がパクるかもしんない。」
「それでもいいですよ。アベル様は人の者を取るような人じゃないって分かっていますから。」
ローズの過大評価はいつものことだ。
もうちょっと穿った見方をした方が良いんだよ?
「わかった。こっちも預かっておくよ。」
赤と緑のアクセサリも悪くないだろう。
「さあ、もういい?帰るわよ。」
こちらの話が一段落ついたと見たのだろう、フレイヤさんが俺たちに声を掛ける。
「帰りも虫が出るんだよね?」
俺はわかりきったことを聞いて見た。
「当たり前じゃない、馬鹿ねぇ。」
と、当たり前の答えが返って来て、俺達はまた、虫との戦いに備えるのだった。
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