188.アベル君と解体。
188.アベル君と解体。
「ふう。」
俺はその場で大きなため息をついた。
その瞬間それが間違いと気付く。
Gの焼ける煙と臭いで充満していたのだ。
「あばばばば…」
俺はそう喚きながら、皆が潜んでいた岩陰に駆け戻った。
もちろんフレイもついてくる。
俺たちが着くと、ローズが露骨に嫌な顔をした。
「アベル様、臭いですよ。」
「そりゃそうだろうよ、ローチ焼いた後だもの。」
俺がそう言うと、女性陣全員が、ものすごく嫌な顔をした。
「では何か?お前ら連中と肉弾戦やって、体液でもぶっ掛けられたいのか?刃物で戦うとはそういうものだぞ。」
俺がこう言うと
「それは分かっていますけど、あまりに匂いが。」
と、ローズが反論する。
「よし、分かった。魔法は封印だ。これからは剣で戦うからな。フォーメーションは斥候ローズ。俺と同じく遊撃だ。状況を読めよ。俺とフレイが前衛。だが、俺は状況によって動くから、フレイは粘れ。アンネは後方。魔法は封印、でも危なかったら使って良し。リーサはアンネのヒーラーとしてバックアップ。よろしくな。」
俺が矢継ぎ早に指示を飛ばしたら、皆ポカンとしていた。
「なに呆けている、返事。」
「はい!」「はーい。」
後者はリーサだ。
「てな感じだけど、どうだろう?」
俺はフレイヤさんの方を向き聞いてみた。
「いいんじゃないかしら、アベルちゃん、立派にリーダーしてるじゃない。あたし感心しちゃった。」
両腕を胸の前で抱きしめるように組み、しなを作るフレイヤさん。
キモイ。
「ありがとう。でももう一仕事あるね。」
「そうね、みんな、魔物は殺しただけじゃダメなのよ。魔石の回収をしましょう。」
「みんな、立って、行くよ。」
俺は皆を促す。
皆、即座に立ち上がり、俺とローズについて歩きだした。
リーサは俺の右肩に座る。
定位置だ。
歩き始めると、すぐ匂いがしてくる。
鼻のいいローズは露骨に嫌な顔をした。
「ローズ、タオルか何か持ってこなかったか?」
「持ってきています。」
そう言って、ローズは背嚢からタオルを出した。
「貸して。」
俺はそう言うと、ローズからタオルを受け取ると、水を生成してタオルを満遍なく濡らしてから、絞ってローズに渡した。
「これを鼻と口を覆うように巻いてごらん、多少違うだろうから。」
そう言うと、ローズはマスクの様にタオルを巻いた。
「あ!少し楽になりました。」
ローズはそう言ってマスク越しに笑う。
でもこんなもんじゃなくなるんだろうな。
そう、死骸の解体だ。
俺たちの足元には焼かれたGが横たわっている。
近くで見るとその大きさに驚く。
全長、約90㎝、幅50㎝程だ。
「アベルちゃん、ひっくり返して。」
フレイヤさんに言われたまま、革の手袋をしてGを掴む。
まだ温かく、弾力があるそれを掴んでいるだけで気持ち悪い。
とにかくひっくり返すと、フレイヤさんの講義が始まった。
「まず、このダンジョンは、このローチと同じ、虫が中心。だから、この死体を使って、まず連中の弱点を教えるわね。」
「はい!」
俺たちはいい返事をした。
しかし押しとどめた気分は最悪だ。
「気持ち悪いでしょ?まだ序の口よ。さて、虫の弱点は関節ね。足の関節。ここ。」
そう言うと、Gの足の関節3つを指さす。
「それと首の関節ね。これを一撃で仕留められれば、いわばクリティカル。一発よ。まあ、上級者でもなかなか無理だけどね。」
「では、足の関節を責めて足止め出来てから、首を狙うってこと?」
俺はフレイヤさんに聞いてみた。
「まあそうね。足止めというより、動けなくするという方が正解でしょう。」
なるほどね、完全に動けなくしろと。
「動けなくしてから、止めで頭を落とすと。」
「そうね、頭を落とした方が魔石も取りやすいし。」
そんなことは聞いていないが、まあいう事は聞いておこう。
「では、こいつの首のところを見て、首のところを隠すように甲殻が覆っているでしょう?狙いにくいのよね。」
ほんまや。
「今はひっくり返っているから、関節が丸見えでしょ?さ、アベルちゃん、さっさとやっちゃって。」
俺の新品のミスリルの剣の最初の使用は、Gの解体かよ。
俺は剣を抜き、Gの首に切っ先を突き付け、体重を掛けた。
ところが力はほとんどいらず、関節の隙間に入った剣は、するりと首を断ち切った。
「あら、アベルちゃん良い剣持っているわねぇ。ミスリルの剣でしょう?さすが時期領主。違うわぁ。」
「うん、爺ちゃんたちからのプレゼントなんだけどね。よし、切り替える。こっからどう解体するの?」
「ああ、この虫はこれでおしまい。胴の方の関節に沿って手を突っ込むだけで魔石は取れるわよ。」
手を突っ込むだと!!
「おい、フレイやってみろよ。」
俺はフレイに仕事を譲った。
「いや、兄さんはアベル様にやれって言っていますから、貫徹してください。」
「おま、覚えてろ。」
俺はそう悪態をついてから、膝をつきGの胴体に向き直った。
「フレイヤさん、ここの隙間?」
「そうそう、そのつなぎ目の上にある隙間から手を入れるの。胸のあたりに魔石があるはずだから、引っ張り出しなさいな。」
「はいよっと。」
俺はそう返事のような物言いをしてから、その隙間に手を入れた。
ねちゃぁ
体液と繊維質のなにかが、手に絡まってくる。
「うひゅあ~、きもっ!」
俺はさすがにたまらなくなって声を上げた。
「ほら、入れたんだから、もうガッツリ行く!」
フレイヤさんが俺に容赦ない気合を入れる。
ええいままよ、とばかりに俺も腕に力を入れ、手を突き進めた。
「ん?固いのがある。」
「それよ、それもって引っ張り出しなさい。」
「あいよっと。」
また俺は返事なのか何なのかわからない物言いをしてから、魔石を掴み引っ張り出した。
Gの体液まみれのそれは確かに魔石だった。
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