185.アベル君とボータック商店。
185.アベル君とボータック商店。
俺たちは、ギルドの用事を終え、外に出た。
フレイヤさんはギルドの仕事に戻った。
今日すぐにダンジョンへ入るわけじゃないからね。
いろいろ準備があるのだ。
次は俺たちの装備を揃えなければならない。
平服じゃダンジョンに入れないからね。
ああ、リーサのタグはあの後すぐソフィアさんが持ってきてくれた。
リーサが首に掛けてもいいように、ちっこいんだがしっかり内容は読めるようになっている。
文字の彫り方があるんだろうか、魔石だからか?
わからないけど、俺の知らない技術だ。
久しぶりに異世界の技術に触れたような気がする。
とりあえず、俺たちはまた馬車に乗り込んだ。
周りは相変わらずザワザワしていたけど、もう無視、いや、ここは領主の嫡男として、愛敬でもふりまかなければならないか。
俺は馬車の窓を開け身を乗り出し、俺たちを物珍しく見ている集団に向かって手を振った。
男性冒険者の唸るような声と、女性冒険者の黄色い声がドッ!っと上がった。
俺は手を振った途端、陰キャの魂が鎌首を持ち上げ、鼓動を早くし発汗を促し、顔面蒼白になった俺はあわてて窓を閉め、座りなおしてから大きくため息をついた。
「あなたなにしているのよ?」
母さんのもっともな疑問だ。
「ちょっと、領主の嫡男として、皆に顔を覚えてもらおうと。」
「それはいい心がけだけど、あなたはどうせ目立つんだからそんなことしなくても良いわよ。」
「目立つようなことをしてなけどなぁ。」
「あなたは立っているだけで目立つのよ。いい加減認識しなさい。」
むう、確かにこのアベルの顔は素晴らしいのだが、中の俺がそれを許さないのだ。」
「アベル様、そういうところですよ。」
ローズがいきなり口を出した。
「そういうところ?」
訳が分からん。
「顔は奇麗、頭は良く回り、性格は多少問題は有りますが、皆に優しい、剣も魔法も使えて、魔法で言えば達人クラス。辺境伯嫡男で将来性抜群、ご家族も皆さん見目麗しく優しい方々ばかり、ご婦人方が放っておかない要素ばかりなのですよ。」
ハッハァ~!
お前ら、中身は非モテで陰キャの魂が巣くっているとは思うまい。
俺の評価高すぎなんだよ、馬鹿らしい。
「よくお前俺のことを持ち上げるね。」
「当たり前じゃないですか、アベル様がオムツしていたころから見ているんですよ。」
ローズがこう言うと
「あら、それだけかしら?」
そう言って母さんがニンマリ笑った。
「お、奥様お止め下さい…」
そう言いながらどんどん赤面しながら小さくなるローズ。
ローズの様子を見たリーサが邪悪な笑みを浮かべて口を開いた。
「馬鹿ねぇ、ローズ、そんなんだと私がアベル貰っちゃうわよ。」
「「「それはダメ!!」」」
母さん、ローズ、アンネの声が揃う。
「やっぱりアベル様はオモテなるんだな。」
そうぼやいたのはフレイ。
まあ、馬車の中は賑やかだった。
そして、御者さんが
「アベル様、ボータック商店に着きました。」
と、告げてくれた。
ヴァレンティアの街は、冒険者パーティーや軍属、騎士団が多数存在しているおかげで、武器、防具、それに伴う雑貨屋がかなり多い。
そして、到着したボータック商店は、ヴァレンタイン辺境伯家の御用達の店になっている。
知り合いも務めているしね。
エントランスキャノピーとか言うんだっけ?それも立派だし、玄関の構えも立派なものだ。
馬車から降りる俺たちをメイドさんたちが出迎えてくれた。
人んちのメイドをじろじろ見るのは失礼だと思って我慢はしているが、美人ばかりだなぁ。
店内に入ると、商店の店主と二人の店員が出迎えてくれた。
「アリアンナ奥様、ようこそお出で下さいました。アベル坊ちゃまもお元気そうで。」
そう言って深々とお辞儀をするのは、店主のボータック氏だ。
あとのもう二人も俺たちを見ると深々と頭を下げ
「奥様、アベル様、いつもリサがお世話になりまして。ありがとうございます。」
こう言ってくる。
誰あろう、リサの両親のネイサンとマリーナだ。
どちらもドワーフで、ネイサンはガッチリ型の体つき、マリーナはヒューマンの女性よりは横のガタイがいい、でも女性なりの丸みを帯びた体つきだ。
「姉さんからの手紙では、二人とも元気でやっているみたいだよ。」
ロッティーから、定期便のように手紙が来る。
その中のリサの部分だけをこうしてたまに両親に教えたりしていた。
「シャーロット様について行って、粗相ばかりしているんじゃないかと心配しておりました。」
リサの父ネイサンがぼやく。
「リサは頑張り屋さんだからね、別邸のメイド達とも仲良くやっているってさ。」
「アベル様にはいつも様子を聞かせて頂き、有り難うございます。リサの奴は、手紙ひとつよこさない親不孝者で、まったく。」
今度はリサの母、マリーナがぼやき始めた。
「今度手紙を書く時に、ご両親に手紙を書くようにって書き添えておくよ。」
俺はそう言って笑った。
するとリサの両親は、また深々と俺に頭を下げ
「それではアベル様、またよろしくお願いいたします。」
そう言って鍛冶場の方に戻っていった。
リサの両親は、ここの鍛冶師なんだ。
南の地、ドワーフの街ヴァルシオンから来た一家は、はじめは冒険者として一旗揚げようとしたらしいけれど、あえなく挫折。
仕事が他になくて仕方なくやり始めたみたいだけれど、みるみる腕を上げて、このボータック商店で専門鍛冶師として勤め始めたんだ。
俺とリサの両親が話をしている間、母さんとボータックもなにか話をしていたようだ。
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