177.アベルくんと王城との別れ。
177.アベルくんと王城との別れ。
「アベル!帰るのか!お前だけでも残らんか!」
そう言ってデカい手で俺の肩をつかむのはグスタフ閣下だ。
勘弁してくれ、もうここには居たくないんだよ。
「グスタフ侯爵閣下、僕はまだ5歳ですし、家族と一緒に居たいんですよ。」
「むう、お前のように強力な魔法使いは、ここに居るべきだと思うのだがな。」
「お引止めいただき、ありがとうございます。ただ、僕もヴァレンティアでやり残したことが沢山ありますので、ご承知いただけるとありがたいです。」
「ほう、なんだと言うのだ。」
「そうですね、まず、先ほども話したヴァレンティアの官僚学校。それに冒険者ギルドの学校、これらはすでに走っていますが、まだまだ、順調とは程御遠いものですので、見届けなければ。」
「ふん、内政など、エドワードとローランドにさせておけばいいのだ。」
「勿論大人の方々が中心ですが、口を出した以上やらなければならないこともございますので。」
「それだけじゃあるまい。エドワードとの剣の修練がやりたいのだろう?」
「あれ、バレていましたか。」
俺は、苦笑い全開で言い返した。
「分からいでか!しかしアベルが帰るとなると、ルミナも悲しがるな。」
「ええ、ルミナ夫人とは、爺ちゃんたちの家でいろんな話を聞きましたから。僕も寂しいですよ。」
「ああ、帰る前にまた会ってやってくれ。嫁にはやらんがな!」
「頂けませんよ!夫人の冗談を真に受けるんだから。」
だれがNTRなどするものか。
「うむ、気をつけて帰るのだぞ。名門貴族は襲われやすい。来た時のようにちゃんと切り抜けるのだぞ。」
「はい、ご心配頂き有り難うございます。十分気をつけて帰ることにします。」
「うむ、ではな。」
「はい、有難うございました。」
と言った挨拶を各人と交わしながら、時は過ぎた。
閣僚の方々が帰ると、またドアが開く。
来たな。
「おう、ローランド卿待たせたな。」
これが王の謁見の間以外のあいさつだ。
軽いよね。
「アリアンナ夫人も、子供たちも息災の様で良かった。もう二日後には帰ってしまうのか。寂しくなるな、アベルが騒ぎを起こさなくなるのは。」
相変わらず失礼な奴だ。
まあ、もうしばらく会わなくていいからな、これくらいの憎まれ口はスルーしおいてやろう。
「僕が騒ぎの発端ではなのですけどね。でもご批判は甘んじて受けましょう。」
「あら、陛下も私もアベルのことを批判などはしておりませんよ。可愛い義理の息子がいなくなるのは、寂しいと申しているのです。」
的外れな答えを言うのは勿論王妃だ。
誰が義理の息子だっていうんだよ、まったく。
「義理の息子だなどと、とんでもない話でございます。辺境の一貴族の小倅でございますれば、首都の王城の方々など、憧れるくらいで丁度良いのです。」
「まあ、ご謙遜。あなたがそんな小倅で済むわけないでしょうに。」
「あまりアベルを持ち上げないで下さいませ、王妃様。この子もまだ5歳、これからもっと吸収することもあるでしょう、次セイナリアに来るのは10年後、その時にまた評価して頂けると有り難く存じ上げます。」
母さんが、フォローかな?フォローなんだ蝋を入れてくれる。
「そうでございます、アベルが義理の息子などと飛んでもございません。誰にも渡したりは致しませんの。」
もちろんこんなアホなことを言うのはロッティーだ。
クマのぬいぐるみじゃないんだぞ。
「まあ、義姉様、アベル様の独占は禁止法を作りますわよ。」
そう言ってきたのはオリビエ王女。
もうこの二人の言い合いはレクリエーションを様相を呈してきたな。
「そうか10年後か、せっかく仲良くなれたのに寂しくなるな。」
こうしおらしいのはオスカー王子。
「そうですね、出会いは最悪でしたが、ようやく仲良くなれたのに残念です。」
「出会った頃を言うのはやめてくれ、取り巻き達にそそのかされたとはいえ、今は母様の教育の下、自分でもマシになったと自負しておるのだ。」
「ええ、王子様はとても聡明な方になられておいでです。このまま、王太子として民草を導いてくださるよう、臣下として友人として望んでおります。」
「だから、アベル、堅苦しいのはやめてくれ。もう友人なのだ。」
「はい、そうですね。次に会う時までに、剣の腕を磨いてくださいよ。俺も爺ちゃんの元で修練しますから。」
「ん?アベルは魔法を止めるのか?」
王子は驚いて俺に聞き返す。
それに俺はひそひそ声で王子の耳元を借り、答えた。
「親友として内緒にして頂けるとありがたいのですが、実は、どちらも使えるようになったのです。」
「なんと!」
とまで叫んで、王子も声を潜めた。
「そのようなことが、やはりアベルは特別であるな。」
「いやいや、それほどでもありますよ。」
「貴様というやつは。」
俺の答えに王子は子供らしい苦笑いをたたえた。
「セイナリアにもガウェインとバルドという凄腕が居るからな。どちらかに師事し腕を磨いておこう。騎士学校では、私の方が1年上だからな、下級生の貴様に負けぬようにせねばなるまい。」
「下級生として、上級生を叩き潰してあげますよ。」
「なにを!!負けんからな。」
そう言うと、俺たち二人が笑って握手をした。
「元気だな。」
「王子様も息災で。」
その向こうで、他の皆がこちらを見ていた。
途端に俺たちは気恥ずかしくなり
「こちらを見ないで下さいよ、恥ずかしいな。」
「そうです、皆様の見世物ではないのですよ!」
俺と王子がそう反発した。
なんだか、王妃と母さんは涙組んでいるし、王と父さんはニヤケている。
ロッティーと王女は自分の手を胸の前で組み合わせ、顔を紅潮させていた。
おまえら、王子×俺とか想像しているんじゃあるまいな。
許さんぞ。
と思いながら、キッ!と皆を睨んだ。
そうしたら、オリビアが急に俺の胸に飛び込んできた。
そして、驚く俺の頬に可愛く口づけをして
「10年後お待ち申し上げております。私も立派なレディとしてお迎えいたしましょう。大好きなアベル様。」
そう言ったと思ったら、そそくさと王妃の元に帰って行った。
まあ、見事に俺も含め、皆が見事に虚を突かれ唖然とする中、絹を割くような悲鳴が聞こえるた。
「キャー、アベルの純潔が奪われた!!」
もちろんロッティーだが、頬にキスごときで純潔って大げさな。
まあ、俺に対しての溺愛ぶりならわからんでもないが。
いい加減、俺に推し活はやめろと。
「まあ、なんだ。これでオリビアを他の嫁に出すわけにはいかなくなったな。」
「いやいやいやいや、それは無いですよ。」
俺は慌てて否定する。
王女はそんな俺を微笑みながら見据え
「アベル様は照れておいでなのですね。わかります。」
お前は古のちゃねらーか!
「さあ、我々も次の公務が待っておるぞ。ローランド卿。またいずれ来てくれ。うまい酒を用意しておくから。アリアンナも、シャーロットも息災でな。アベル、逃げるなよ。皆、道中気をつけて。それではな。」
他の3人も軽く会釈をし王の後ろについて、食堂を出て行った。
俺たちはその後ろ姿に深々とお辞儀をした後、王城を後にした。
第三章終わり。
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