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175.アベルくんと理科の実験。

175.アベルくんと理科の実験。








 ロッティーと俺は、エミが戻るまで魔力操作の練習を行っている。


 時間は無駄にしないのだよ。




 幼~少年期は時間を無駄にしがち。




 俺は34年間前世で生きたおかげで、時間の有用性をよく知っているのだ。


 ゲームや動画もいいが、実際に残された時間はそんなに多くはないのだよ、そこの君。


 


 ラノベ?


 ラノベね、まあいいんじゃないかな。


 想像性を高めてくれることには違いは無いからな!


 たぶん。




 自分で想像してもいい、有名絵師が描いたキャラでもいい、それが好きな声優の声で紙面を動き回るわけだ。


 これほど想像性をかき立てる娯楽もなかろう、なあ、諸君。




 なんて考えながらやっているから俺の魔力操作はよくぶれる。


 隣のロッティーはコンパスが付いているのでは、って思うほど正確な円をファイアーボールが描き切るわけだ。




 「姉さんはさすがだね。」


 「アベルは集中力がないのよ。すぐ他の事に気を取られるのだから。」




 「スンマセン…」




 と、やっているところに、大きな籠を腕に下げてエミがやってきた。


 「アベル様、見つけましたよ。」




 その籐っぽい素材で出来た籠の中に、ガラスでできた大きなボウルと、小型の丁度仏壇に供えるくらいのろうそくが数本入っていた。


 偉い、大きさや本数まで言ってなかったけど、丁度いい物を持ってきてくれた。




 「ありがとう。本当に丁度いい物ばかりだ。」


 「いえ、どういたしまして。お役に立てよかったです。」




 そう言ってエミは俺を見ている。


 「あれ?もういいよ。」




 俺は怪訝になって聞いてみた。


 するとエミは




 「いえ、これで何をするのかなって、気になったものですから。見ていていいですか?」


 かわいい女の子に実験を見ていいかと言われて、断る理系男子は居ないよなぁ、諸君!




 まあ、やるのはただ火が消えるだけの地味な実験なんだけどね。




 綺麗な花が咲く庭園に白いテーブルが置かれている。


 普段、母さんが優雅にお茶をするテーブルだ。


 


 その姿は実に絵になる。


 その横で、父さんと俺とで剣の修練をして汗を流したりしているんだけどね。




 さて、そのテーブルにろうそくを立てる。


 まず火を点け、蝋が溶けたところをちょっとだけテーブルに垂らした。




 「あ!」


 ロッティーが声を上げるが気にしない。


 燭台もないのに、ろうそくを固定するにはこれしかない。




 溶けた蝋の上にろうそくを俺は立てた。


 「アベルったら、テーブルに蝋をたらしたら、母様に叱られるわ。」




 「姉さん、実験に犠牲は不可分なものなんだよ。」


 「馬鹿、知らない。」




 そう言って膨れるロッティーは可愛い。




 ああ、どうやってろうそくに火を点けたか言っていなかったね。


 ろうそくの芯に魔力を向け、火が点くイメージをするだけ。




 ね、簡単でしょ。


 便利だよね。




 さて、二人が見守る中、俺はガラスのボウルを持ち上げ、ろうそくにかぶせた。


 そして、次第にろうそくの炎は弱まり、最後に小さく炎は消えた。




 まあ、これだけの実験だが、意義は十分にある。


 「アベル、火が消えたわ。」




 「そうだね、消えた。風もボウルで遮られているのに不思議なことだね。」




 「これが“酸素”と関係するのね。」




 「そのとおり。さっき言った言葉を思い出してみよう。」




 俺がそう言うと、ロッティーは一言一句間違えず、俺が言った言葉をつぶやく。




 「炎を燃やすのに必要で、生きていくのにも必要、目に見えず、匂いもせず、空気の中にあるけど吸い込んでも魔素のようには感じられない。これね。炎を燃やすのに必要。」




 「そう、それ。炎がボウルの中で燃えて、その必要だった酸素が消費された。そしてそれを使い切り消えたってわけだね。」




 そしてもう一本ろうそくに火を点ける。


 ボウルの端をちょっとだけ持ち上げ、そのろうそくを滑り込ませる。




 あっという間に火が消えた。




 「このとおり、ボウルの中には酸素が無くなっているから、新たなろうそくを入れてもすぐ消える。」


 「うーん。つまり、ろうそくの炎が点くのは蝋の成分と、芯と、酸素が必要なわけね。」




俺の姉は天才だね。




 「そのとおり、姉さんの理解力は凄いな。」


 「アベルの実験の段取りが良いから。分かりやすいもの。」




 ロッティーはそう言って謙遜した。


 その隣、エミは釈然としない顔をしている。




 「どうしたの?エミ。」


 「お二人が今ので盛り上がっているのか分からなくて、悔しいんです。」




 「そうだね、目に見えないものは実は存在するって実験なんだ。」


 「見えないのにあるって事ですか?」


 


 「そう。今まさにそれが証明されたのを、姉さんとエミは目の当たりにしたんだけどな。」




 色即是空、空即是色ってな。


 古代インド人の発想は恐れ入るよ。




 「その見えなかったものが僕の魔法の神髄なんだ。あまり人には教えられないんだけどね。」


 「なら、私は見てよかったんですか?」




 「エミはヴァレンタイン家の人間だからね。隠す必要なんてないさ。」


 俺の言葉を聞いたエミははにかんだように微笑んだ。




 その効果は抜群だ!


 18歳の女の子が、そんな顔したら惚れてまうやろ。


 


 いやいや、と首を振るって前見るとロッティーが睨んでいた。


 怖っ!




 「エミも魔法大学校へ入っていたんだから、魔法には興味あるでしょ?」


 「勿論です!」




 「じゃ、ちょっとだけその一端を見せようかな。」


 俺はボウルを取ってろうそくを取り出した。




 そして火を点ける。


 その芯に灯るのは普通の小さな炎だ。




 「この火が普通の状態だよね。でも僕の魔法を使うと、ちょっと二人とも下がって、危ないから。」


 俺自身も危ないから、ろうそくを持った左手に身体強化を掛ける。


 


 火傷は痛いからね。


 「で、この小さな火に、僕が生成できる概念を注入すると。」




 俺はろうそくの下から酸素を生成した。


 純度100%の酸素が炎に吸い込まれ、赤い小さな火が、大きな青い炎に変わり、蝋がどんどん溶け出した。




 「これが僕の酸素魔法だよ。」


 そう言って生成した酸素を消去する。


 すると、一瞬だけろうそくの周りが真空になり、炎が消えた。




 「その見えない酸素があるというのは、今の実験で分かったわ。その酸素が炎を強くするのも今のを見ればわかる。でもそれをどうイメージすれば生成できるか、そこが問題ね。もっとイメージ力を高めるのと、酸素への理解力を高めなければダメね。」




 我が姉の飽くなき知への探求は続く。




 で、もう一方。




 「いや、もう凄すぎて訳が分かりません。なんで火が青くなるんです?」




 そこからかぁ。








 「エミ!何しているんです!仕事中ですよ!!」


 カトリーヌの声が聞こえた。


 エミへの授業はここで終了だ。





ここまで読んでいただき、有難うございます。

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