174.アベルくんと帰り支度。
174.アベルくんと帰り支度。
やっとだ。
やっと帰るんだ。
ヴァレンタイン辺境伯領、ヴァレンティアへ。
てなわけで、皆朝からバタバタしているが、今日出発ってわけでもない。
まだ、セイナリアでやらなきゃいけないことが盛りだくさんらしい。
領主さん的に。
まあ、なんというかセイナリアに来る道中に大規模な盗賊団から襲われたり、馬車に爆弾しかけられたり、王子に呪詛がかかっていたり、これらほぼ未解決というありさまでね。
盗賊団は捉えてはあるんだけど、規模が大きすぎて、あからさまに裏に誰かいるでしょって状態なんだけど、その裏が分からない。
実行犯たちも、話すくらいなら死ぬって覚悟らしい。
まあ、俺の魔法で強度の熱傷を受けた者は、ほとんど死んだんだけど。
反省はしている、悔やんではいないが。
爆弾犯の方も、爆弾を仕掛けた御者のおっちゃん以外は、精鋭揃いの特捜隊をもってしても尻尾を見せない。
呪詛の方も人間ではなくなってしまったルーファス・メイフィールド男爵の領地へ調査団は向かったが、証拠を隠されたら一巻の終わりだしね。
実はこれらが全部つながっているのかもしれない。
つながっていたら、大規模、広範囲過ぎて手が出せないんじゃないかな?
なんて不安も家族は抱えていたりする。
父さんも母さんも口には出さないけれどね。
爺ちゃんと婆ちゃんも、俺たちが知っている情報以外は全くおくびにも出さない。
良く訓練された貴族たちだぜ。
リーサは俺が見た範囲の事しか話さない。
ヒューマンを見守るだけという、神としての矜持かあるのかもしれないね。
そんなことは一言も話さないけれど。
まあ、あいつが肩に乗っているだけで、俺はシ〇ンテックの、〇ートン先生に守られるより強いのだ。
今日も今日とて、父さんとヨハンは特捜隊関連で出ずっぱり。
もっぱら別邸内でバタバタ帰り支度をしているのは、母さんとメイド勢、アーサーだ。
俺とロッティーは、庭で魔法のイメージと魔力操作の自主練習。
これはほぼ毎日のルーティンだ。
それは帰り支度をしている非日常と、自主練を行っている日常の狭間の一言から始まった。
「アベル、あなたの使っている魔法の概念、“酸素”と言ったかしら。私にも教えて下さらない?」
ロッティーが興味を持っていたのは知っていた。
もちろん母さんには酸素の説明をすると確約もしている。
さて、この知識欲の猛獣にどう説明してよいやら。
「姉さんも扱いたいってこと?」
「そうね、そうしたいわ。」
「非常に危険なものだよ。」
「ええ、それは知っている。慎重に扱っている、あなたを見ればわかるもの。」
すまん、わりと雑に扱っているんだ。
目に見えないものだから、特にね。
「では母さんに一度説明した概念のさわりだけお話しするね。」
「はい。お願いします。」
知識を得るのに弟に頭を下げるのも何も問題は無し、この娘は全くもってぶれない。
「炎を燃やすのに必要で、生きていくのにも必要、目に見えず、匂いもせず、空気の中にあるけど吸い込んでも魔素のようには感じられない。これが酸素というモノ。概念じゃないんだ。」
「うーん、まったくわからないわ。」
そりゃそうだよね。
「実験をしようか。」
「実験?」
ロッティーが小首をかしげる。
かわいい、超かわいい。俺のお気に入りのロッティーの仕草だ。
いや、そんなことはどうでもいいのだ。
丁度エミが近くを通りかかった。
「エミ!ちょっといい?」
俺は大声と手招きで笑みを呼び留めた。
「はい、ご用ですか?アベル様。」
そう言ってエミは駆け寄ってきた。
「忙しいところ悪いね。実は、ろうそくとそれがスッポリ入る透明な容器、コップでもボウルみたいなものでもいいんだ、そんなものはあるかな?」
「探してみないとわからないですね。ろうそくは有りますが、明かりの魔道具じゃなくていいのですか?」
「火が容器の中でどうなるかって実験だから、ろうそくが良いんだよ。」
「はあ…」
なんだか釈然としないという返事をエミはしたが
「わかりました。探してきます。」
「うん、よろしくね。」
そう言って俺は笑顔でエミを送り出した。
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