172.アベルくんと王妃という女。
172.アベルくんと王妃という女。
二次会は続いている。
今の時間は王妃につかまり、爺ちゃんと木剣を振りたいなどと考える間もなく質問攻めなわけだ。
「王女様は僕より他の国の王子様がお似合いでしょうね。」
「あら、なんでかしら。オリビィはあなたと同じ人種で気が合うと思うのだけど?」
「僕と同じ人種ですか?どういった人を指すのです?」
「まずそれよ。大人と大差ない思慮と言葉。オリビィはうまく隠しているけれど、私にはわかるわ。」
えーーーー!?
まさか、王女が転生者とかって道筋ないよね。
だとしても、俺のツレになって辺境に逃れたいって考えはどこから来る?
確かに王族として生きていくのは息苦しいだろうが、危険な国境の辺境はもっとたい…へんでもないか。
便利な魔道具のお陰で、前世ほどではないけれど、住むには不便を感じないこの世界。
ウォシ〇レットのように使える魔道具もあるんだ。
こちらの雑な紙で拭くより全然いいんだよ。
いや、問題はそこじゃない。
仮に王女が転生者だった場合、俺が確保しておいた方が良いのではないか?
情報の共有やこの国で何かを発展、もしくはスルーさせる意味でも。
「どうしたのボーっとして。」
やや困惑した顔で王妃は尋ねてきた。
おっと、考え込むとボーっとするのは良くない癖だな。
考えるときはブレインブーストを使うか。
そうすると周りの会話がわけわかんなくなるんだよね。
「なんでもないですよ。王妃陛下は綺麗だなぁっと思って。」
「あら、アベルったら、小さいくせに上手なんだから。何人奥様貰うつもりなの?」
そう、からかうように王妃は言って、グラスの蒸留酒に口をつける。
「僕は一人しか貰わないつもりなのですけどね。」
「あら勿体ない。アベルの様な器量良しで、前途有望なしかも辺境伯次期当主なら何人でも選び放題だし、貰い放題じゃないの。」
「そうですね、でも僕は父と母を見て育っていますから。」
「ああ、そこはあの夫婦の弊害よね。オシドリ夫婦も見ていて羨ましいけれど、子供の未来を摘んでしまうのは良くないわ。」
「羨ましいって、陛下と王女陛下もお二人だけじゃないですか。」
「そうね、アベルは何でも知ってると思っているから言うけれど、陛下には何人か私以外のお相手がいるわよ。」
うわぁ、こんなところで、5歳の子供にカミングアウトしないで頂きたい。
「では、王子たちの兄弟もいらっしゃると?」
俺はそう言うと、無意識に芋のフライを口に入れた。
「そうね、オスカーより年上が2人、あと下が3人くらいは認識しているわ。」
「既に7人兄弟ですか。」
「そうね、でもそんなものよ。男は種をまくものだし、私はその隣にいるしかないのよ。」
「…よろしいので?」
「よろしいも何も、そういうものなの。そして私はオスカーたちの成長を見ながら幸せをかみしめている。それでいいのよ。」
彼女は寂しそうに、しかし、強い力を目に宿して、琥珀色の液体を見つめていた。
「陛下も伴侶が王妃陛下で良かったですね。」
俺はポツリと口から漏らす。
「あら、そう?私だってわがまま言ったり、ケンカしたりするわよ。」
「でも隣に居てくれるんでしょう?」
「そうね、その席だけは誰にも譲らない。」
「そうですね。僕もそうあってほしいです。」
「あら嬉しい、どうして?」
「陛下と王妃陛下が座っている玉座に見慣れたからですかね。」
「もうあなたは5歳の辺境貴族にして何回も玉座を見ていますものね。」
そう言ってフフと上品に笑う王妃。
「見たくて見に来たわけじゃないんですけどね。」
「そうはいってもたった三回。それであなたはいろんな人と交流をもって、いろんな経験をしたわ。他の貴族じゃ考えられないことばかり。」
「したい経験じゃない方が多いんですけどね。」
「そうね、暗殺されそうになったり、人さらいに狙われたり、散々よね。けれどそれを自身で排除し、王城に報告に来る5歳児は、やっぱり傍に置きたくなるわね。」
「王妃陛下は帰らせてくれる側だったじゃないですか。」
「あの時のアリアンナの顔を見たら、帰らせないわけにはいかなかったわ。あなたも必死だったしね。」
「確かに必死でしたね。もうヴァレンティアに帰れないかと思いましたから。」
「そうね、王城でオスカーとオリビィの遊び相手になるか、セントクレア家で一流政治家目指し勉学に励むかの二択になっていたもの。」
「今、考えても怖ろしいです。」
「あら、オスカーと友達は恐ろしくないでしょ?」
母親にあいつ馬鹿だから嫌だとはとても言えないしな。
「そんな顔しなくてもわかっているわよ。あの子はあなた方からすれば、ずっと本当の子供。一緒に居てもつまらないわよね。でもね、大人になれば、あの子はあなたの親友になれる器よ。きっとね。だから見守ってあげて。」
「はい。」
オスカーはまだまだ人格形成が出来ていない。
6歳なんだから当たり前だ。
これから10年経って思春期を迎え、大人たちと関わることで、己の人格がやっと朧気に分かってくる。
そうして更に己自身が形成されるものだ。
10年か、騎士学校に入学する頃だ、また絡むんだろうな。(フラグ)
「アベル、たくさん話したわね。」
ホントだ。
思いの外、王妃と話し込んでしまった。
「貴重なお話ばかりでした。聞けてうれしかったです。」
俺がこう言って、そろそろ締めだなって時に
「もう、ずっと二人で何話しているのかしら?」
似非JCことルミナ夫人が絡んできた。
まあ、もう俺も眠いし、そろそろお暇しようかね。
「ルミナ夫人、良い所にいらっしゃいました。そうですね、ちょっとおもしろい遊びがあるんですよ。皆さんでどうです?」
俺はそう言って戸棚の上にあったカードを取り上げた。
「母さん、ホスト役もいいけど、母さんもそろそろ楽しみなよ。これで。」
そう言って俺は母さんに自作トランプを差し出す。
「あら、いいわね。」
母さんの目に力がみなぎる。
この人、勝負事好きなんだよな。
「飲んでいる騎士団長たちは置いといて、そこで辛気臭い顔で話し込んでいるお歴々もこちらに来て遊びませんか?丁度ご夫婦でペアになりますし。」
「なんなのだ?アベルよ。その賭場のカードは?」
王が珍しげな目をしながら聞いてくる。
「これは僕が賭場のカードを改造した遊びなんです。ルールはうちの両親に聞いてください。きっと気に入りますよ。あっと、陛下、今日は無礼講でしたよね。」
「ああ、そのとおりだ。なんだアベル、飲むか?」
「いえ、5歳児に飲まそうとしないでください。勝負事です、家臣が陛下に勝っても不敬ではありませんよね?」
「無礼講とはもとよりそういうものだからな。」
「皆さん、言質を頂きましたよ。さあ、始めましょう。」
あっという間に二人一組の輪になり、父さんと母さんの説明の元でカードが配られる。
その後みんな前のめりだ。
王の隣の王妃もいつになく楽しそうだ。
俺はその輪からそっと身を引いた。
「それでは皆さん、おやすみなさい。」
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