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170.アベルくんとそこにある危機。

 170.アベルくんとそこにある危機。




 「な、いまだオリビィはアベルに懸想してご執心だ。」

 などと、片肘付いて王は蒸留酒をグビグビ飲んでいる。


 「ふむ、これは現実味が増してきますね。しかし、王家の御令嬢が、臣下の家へに輿入れは考えられませんが。

 などと、父さんも夢見がちなことを言うわけだが、これに王が乗ってくる。

 「ま、本来、周辺国のどこぞの王子に貰われて行く身だ。しかし、それが有力貴族のそれも飛び切り有望な家臣の倅に貰われても詮無き事だな。」


 あ、本気で政略結婚の話が始まっちゃった。

 100歩譲って、仕方ないんだけどさ、片肘付いて人の命運語らないでくれない?


 「そのように仰ってよろしいのですか?他の貴族の目もありましょう。ましてパーシー公など目の敵ではありませか。」

 父さんが珍しく慎重に言葉を発していた。


 「伯父上な。南で公国でも作っているようだし、そろそろなんとかせんとな。」

 おい、こんなところで爆弾発言すな。

 

 「やはり北の我々が目障りなのでしょうね。」

 父さんの酔いが抜けたようだ。

 そりゃそうだよ、国家元首からそんな話を聞けばね。


 「まあ、そりゃ向こうの詭弁だがな。自分らの自由にしたい、それが最近にじみ出ているんだ。余も自由にさせ過ぎたかなと反省はしている。後悔する前になんとかせんとな。」


 内戦とかちょっとありそうな雰囲気か。

 いやだね、そんなの。


 俺がひとっ走り行って、あの爺ちゃん暗殺してこようか。

 出来ないことではない。


 でも、コンビニに行くような気軽なことじゃない。


 やめ、やめ、俺の考えることじゃないさ。

 そろそろ俺も楽か楽じゃないかの二元論でものを考えるのはやめようよ。


 そんなことを考えていたら、俺のおなかを支えて抱きかかえていた手の力が強くなる。

 「聞こえていても、今のあなたが考えては駄目。あなたはまだ5歳なの。内政を改革できても、歴史に思いをはせてもいい。剣術、魔法を習得するのも良いわ。でも、戦争のことを、人の命を考える歳ではない。お願い、婆ちゃんとの約束よ。」

 

 婆ちゃんは俺の耳元でささやいた。


 「うん、そうだね。僕の周りには強い大人が沢山居るから、考えないようにするよ。」

 俺がそう言うと

 

 「そうね、大人に任せるべきは任せてしまいなさい。あなたはあなたにしかできないことが沢山あり過ぎるほどあるわ。そちらに目を向けて、いつまでも優しい良い子でいてね。」


 婆ちゃんは先の会議で俺自身が兵器になりうることが良く分かっている。

 だからこそ、こんなことを言うのだろうな。


 前世では大人の奴隷でしかなかった俺が、大人に支えられている実感がこの世界に生まれからずっとある。

 幸せなことだ。


 だからこそ、その人たちのためにその力を使いたくなる。



 しかし、それは俺のエゴだ。



 ずっと悩んでいくんだろう。


 リーサは考えろと言った。

 一緒に考えてくれるとも。


 そういう人たちを増やすんだ。

 一緒に悩んでくれる人たちをね。


 それが唯一の手だろうな。


 しかし、陰キャでぼっちな俺には一番億劫なことなんだが。


 「婆ちゃん。」

 「何?アベル。」


 「でも、人の結婚の宴で話す話じゃないよね。」

 「そうね、陛下とあなたのお父さんが悪いわね。」


 しかし、考えてみれば、王は相談できる相手が少ないのかもしれない。

 父さんが来てから、父さんに愚痴ってばかりだしな。


 俺に裏の言質を取らせたのだって、あわよくば、俺が彼らを葬り去るのを期待していたのかもしれない。


 為政者は孤独なんてことはよく聞くが、本当なのかも。

 だからといって、彼を必要以上に持ち上げることもない。


 俺はヴァレンタインの男として、ヴァレンタイン領を守ることに腐心すればいいのだ。

 だからこそのオリビアの輿入れなんだろうけどさ。

 めんどくさ。


 オリビエ自身も実は国が割れそうだとか、父親がヤバいとか分かってんじゃないだろうな?

 だからこそ俺に言い寄ってくるとか。

 

 4歳の子がそこまで考えるかって?

 総合的に見れば考えられなくもない。


 あの娘はロッティーと同じく理知的で、俺と同じく合理性に富み、王家の事を、家族を愛しているんだろう。

 だからこそ、自分を追い込むことが平気で出来てしまうのだ。


 なんて、10%も当たっていないと思うがな。


 「考え事ですか?何をアベル様はお考えなのです?」

 婆ちゃんに抱きかかえられている俺を見上げ、小さな王女が疑問を呈して聞きた。


 「王女様は可愛いなって考えていたのですよ。」


 「「「「まあ!!」」」」


 女性陣が一斉に色めき立った奇声を浴びせてきた。

 当の王女は、突然のことで恥ずかしくなったのか、顔を赤らめ俯いていた。

 

 らしくないね。


 その横で別の奇声が上がる。

 ロッティーだ。

 「アベルが、私ではない他の女の子を可愛いと言うなんて!!」


 どうやらまた病気が出てきたようだ。

 本当にどうにかしないと、嫁に行かないような気がして怖い。


 俺は自分の家族には基本幸せになってほしいのだ。

 傍にいてくれれば幸せとかじゃなくてね。


 かわいい姪っ子や甥っ子を愛でてみたいという願望も一応あるのだ。

 里帰りでロッティーが連れてきた甥っ子や姪っ子に、「おっ!来たな!」とか言って、魔素タンク化を施術してやりたいのだよ。


 とりあえず、そろそろ解散じゃね?

 ユーリとエレナに死相が出ているよ。


 あの顔じゃ初夜どころじゃあるまい。

 気を使えよ、大人共。


 「母さん、そろそろじゃない?エレナ達が可哀そうだよ。やりたい人は他に移動すればいい。僕も眠いよ。」

 「あら、そうね、もうこんな時間。皆様!そろそろお開きにしましょう。続きをやりたければ、ヴァレンタイン家の別邸へおいで下さい。」


 別邸に呼ぶの?寝れないじゃん!!

 しかし、それも現実的なのかもしれない。

 メイド勢は可哀そうだけど。





 母さんの言葉で飲み足らなそうな王家の連中や妙に酒の強そうなご婦人方を残し、三々五々ゲストたちは帰って行ったのだった。


ここまで読んでいただき、有難うございます。

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