169.アベルくんと宴の後。
169.アベルくんと宴の後。
ドミトリさんはギルドの職員と一緒に帰って行った。
なかなか面白い話を聞けたよ。
あとで話すことがあるといいね。
というわけで、つつがなく宴は収束に向かい、さてゲストを全て帰そうかというその時、変な被り物を付けた家族が居るのに気が付いた。
なんぞあれ?
と、遠目に除いていると、俺の視線に気が付いたであろう一番小さい影が俺に手を振る。
なんだろう、ガウェイン団長たちがすぐ隣のテーブルで食事しているんだけど、どう見てもガードしているよなぁ。
もうね、嫌な予感しかないんですよ。
だからね。ロッティーたちと盛り上がっているふりしてね、もうパリピ決め込んで無視するわけです。
そしてチラ見していると、その小さい影が盛んにこちらに来ようとしているわけですな。
それを巧みに近衛騎士がブロックすると。
この時点でお前ら来てんのかい!って突っ込みたいのをグッと抑えて、ゲストはよ帰んないかなぁなんてソッポ向くわけです。
父さんと母さんはというと、既に変な被り物を被った親父と女性と一緒に談笑しながら飲んでいるわけですよ。
もちろん傍らに軽装備の近衛騎士が二人ほど立っているんですがね。
国家元首が騎士爵の結婚式に来るなと。
めんどくさい。
ゲストがほぼ帰ったところで、拡声魔道具が鳴り響く。
「シャーロット、アベル、おいで。」
さあ、おいでなすった。
酔っぱらった父さんと、スチャラカ国王の相手かよ。
「アベル、父様が呼んでいるわ。」
「うん、行きたくない。」
「でも呼んでいるわよ?」
「姉さん気付いている?一緒に飲んでいる人たち。」
「ええ、気づいているわ。陛下と王妃陛下でしょう?」
逃げ場が無くなったな。
では行こうか。
「お~、アベル~、見てたぞぉ~、火の玉がシュパパパパァって雪玉に変わって、あのクソガキに命中していく様はスカッとしたなぁ。」
どこをどうトリミングしても、酔っ払いのおっさんにしか見えない国王が目の前で酔っ払っている。
「そうね、あれオスカーにやったのと同じよね。あの時はオスカーが呪術にかかっていて危ないところだったけど、今回のはもう凄かったわぁ。」
このおばちゃんも酔っぱらってんのかい。
近衛も大変だ。
「御無沙汰しております、陛下、王妃陛下。」
「なんだ、なんだ、堅苦しぃなぁ。祝いの席だ、無礼講だろう。」
無礼をマジで働けない人ほどこの言葉を使いたがるんだ。
「そうよそうよ、こちらにお出でなさい、抱っこしてあげます。」
はぁ!?
やめてくれ!
俺は首を巡らせ母さんを見た。
母さんは目を伏せ、首を横に振る。
おうふ、致命傷を受けるのか。
「駄目よクラウディア、アベルは私のだからね。」
そう声が聞こえた方を見ると、立っていたのは偽JC、ことルミナ・ヴォルフガング夫人。
叔母様って事は、王妃と親族なのか。
って、落ち着いた考察などできる余裕はないのだ。
「あら、ルミナ叔母様、いつからそんなアベルと仲良しになったのです?」
「さっきよ。」
「ならば私の方が付き合いは長いですわよね。ねぇ?アベル。」
つーても、一日、二日程度の仲じゃねーか。
「あんまり変わらないと思いますけれど。」
俺がそう言うと。
「そうですよ、お母様。アベル様は私の未来の旦那様です。勝手に抱っこなど許されないのですよ?」
そこにオリビア王女まで現れ
「アベル、貴様!あのような魔法をよくもこの私に容赦なく当てたものだな!!」
と、オスカー王子が喚きたてる。
まさにそこへ
「さあ、皆さん私の孫が困っております。アベル、私の膝の上においで。」
そう言って、宰相夫人が俺を持ち上げ膝の上に座らせた。
「婆ちゃん、ありがとう。死ぬかと思った。」
「やはりあなたは女難の運命があるんじゃないかしら?」
「もう、嫌なこと言わないでよ。」
「あら、アベル様は案外甘えん坊なのですね。私にならいくらでも甘えていいんですよ。」
王女がまた異世界の夢でも見ているらしい。
「そうね、抱かれて甘えているアベルはやはり可愛いわ。私に抱っこさせてくれないかしら。」
王妃はいまだ諦めていない。
俺がこのようにもみくちゃにされている最中、大人の男どもは、そんな俺を肴に飲んでいるわけだ。
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