168.アベルくんと狡いクマちゃん。
168.アベルくんと狡いクマちゃん。
「二人ともありがとう、二人もちゃんと食べなよ。アーサーとヨハンが喧嘩したら僕が止めるからね。」
「アベル様、このようなところで喧嘩は致しません。」
ヨハンが美しく渋い顔をゆがめて俺に言ってくる。
それを見て、メイド二人がクスクスと笑った。
普段、上司である執事のヨハンをメイド達が笑うなんてことはない。
いかにこの場が使用人達にも特別でゆるい場なのかがわかる。
それで良い、今日は城の使用人の二人が主人公なのだから、父さんもヨハンも皆を叱らない。
「はい、ちゃんと休憩をとっていただきます。アベル様、お気遣いありがとうございます。」
カトリーヌは年長メイドらしく、俺に一言残し、また給仕の仕事に戻って行った。
エミも、続いてペコリと頭を下げ何処かに行く。
「さて、何か聞きたいことがあるとの話でしたが。」
俺は皿に残った魚の料理にフォークを立てながら聞いた。
「はい、率直にお伺いします。ヴァレンティアの学校、あれはここ、セイナリアでも可能なのでしょうか?」
学校に興味があるのな。
一回作っちゃえば職務の事をある程度分かる職員が出来るんだから、作りたくはなるのだろう。
「出来ると思いますよ。細かい部分の状況は違うと思いますけど。」
「なるほど、ではその細かい違いをクリア出来ればセイナリアでも学校設立は可能だとアベル君は見ているんですね?」
「そのとおりです。ヴァレンティアの状況と、セイナリアの状況が違うでしょうから今現在行われているヴァレンティアの学校のケーススタディとセイナリアに置き換えた場合を見比べる必要があるでしょうね。」
正直、人の組織に口出したくないんだよね。
金もくれないし、面倒だしさ。
「例えばここセイナリアで学校設立を我々がアベル君主導で行いたいとした場合、アベル君の協力を仰ぐことは可能ですか?」
「僕はみんなと一緒にヴァレンティアに帰りますから、セイナリアの面倒みられないと思いますよ。」
「なるほど、それはそうですよね。」
「ええ。」
あれ、引き際いいな。
それなら全然かまわないんだが。
「エドワード様に稽古つけてもらっているとか。本当に羨ましいかぎりです。お帰りになるのは当たり前のことです。」
「ありがとうございます。爺ちゃんが聞いても喜ぶでしょう。」
「それで、一つお願いがあります。」
うわ、なに?
超怖い。
「なんでしょう。」
「ギルバードからそのケーススタディとなる資料をこちらに送ってもらいます。それを精査したうえで、こちらの資料をアベル君に送りますから、セイナリア学校の草案を作っていただけませんか?」
あ、やっぱ図々しい。
一番面倒なところを俺にやれと?
「それはいささか図々しくないですか?」
「いや、本当にそのとおりなのですが、事務方育成も含めて、非常に緊急かつ必要なものなので、ここは、アベル君にお頼みするのが一番早く現実的ではないかと考えておりまして。」
「ヴァレンティアでは、ただ働きだったのですが。」
「もちろんそこは考慮して、勿論何かしらのお礼も考えています。」
「ではこちらから具体的な話をさせていただきますと、ヴァレンティアでは城でのアイディアから始まって、草案作り、それに基づいての細かい打ち合わせって感じかな、そして形になる2年間のアドバイザー料含めて、ギルドから、城への魔石の買い取り価格を年間1割引を5年間で。その上で、セイナリアの草案作りをするなら、それ相応の対価をいただこうかな。父さんどう思う?」
「アベルがそれでいいなら構わんよ。アベルのお金にならないけどいいのかい?」
「城のお金は領主家のお金だからね。そのお金で生かされておりますので、十分ですよ。」
「生意気言ってんなぁ。」
そう言って父さんは朗らかに笑った。
「商業ギルドと抱き合わせで考えていると。」
渋い顔をしたギルド長が呟く。
ほう、やはりギルド長もワグナーさんとの折衝を聞いておったか。
「ワグナーさんは案外すっぱり割り切ってくれて助かりました。」
こっちでも商業ギルドと冒険者ギルドは張り合ってんのか。
しょうもな。
でも、それなら利用させてもらおう。
「商業者ギルドは1割買取アップ10年間だったよね。父さん。」
「そうだったな、ワグナーはなかなか切れる男だった。」
「くっ、いや、そうですね。冒険者をまとめるギルドとして、報酬をしっかり決めていないというのはありえないことです。そうですね、セイナリアの草案も含めてくれたなら、1割減の10年間で如何でしょう?」
草案作りだけで魔石の買取減を1割10年か。
商業ギルドと含めると、2割お得になっちゃうんだけどいいんですかね?
いいんです!古っ!!
言い切ったギルド長は、背筋を伸ばし俺を見据える。
こうすると、すごい迫力だな。
この図体で、知能派の上に下手に出れる器の大きさか。
やっぱ、中央ギルド長ともなると違うもんだね。
得させてもらってから褒めるのはなんだけど。
エヘッ。
「それでは中央ギルドまでお出で下さい、報酬を含めた詳しい話を詰めましょう。」
彼はそう言って俺に大きな手を差し出した。
俺はその手を握って、というか、人差し指しか大きくて握れないが、握手をし
「はい、是非お伺いします。」
と、笑顔で言った。
「完敗だった。いやー、舐めていたわけじゃなかったんだけどね。よし、ローランド飲み直そう。アベル君も昔の話を聞きたいだろう?」
「そりゃ、是非。」
そう言って、和やかな席に変わるのだった。
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