166.アベルくんとメイド勢。
166.アベルくんとメイド勢。
俺はモチャモチャと料理を平らげながら、ローズやリサと話していると、ロッティーも席に帰ってきた。
「母様が怒っていたわ。」
開口一番がこれか。
内容はだいたい見当がつくけど
「へ?僕のこと?」
「いえ、父様の事よ。アベルに危険なことをやらせ過ぎだって。」
まあ、これだよね。
俺がカインに殺されたり、盗賊団の相手をしたりしてた頃から引きずっているものな。
「ああ、そういう事ね。」
「アベルは何とも思わなかったの?」
「思ったけどね、あの時はあの時でそれが合理的判断だったんだよ。」
「アベルはいつも合理、合理ね。」
「そっちの方が余計なことを考えないで済むからね。」
「余計なことって?」
「人の心。」
「呆れた。」
そう言って、ロッティーはパンをちぎり、口に放り込んだ。
こら、淑女らしくありませんよ。
「そう言いながら、いつもアベルは人のことを気にしているわ。」
「気にしているよ、それが僕にどう降りかかるのかってね。」
「もう、嘘ばかり言っちゃだめよ。」
「嘘じゃないんだけどな。」
「アベルは人を盾にしているのか自分を盾にしているのかあいまいでいて、結局は人を助けて気にかけてばかりじゃない。」
「そうだっけか?」
「そうなのよ。だから私もアベルを気にかけてしまうのだわ。」
「難しい話は僕分からないや。」
「そうやってごまかす。」
とりとめのない会話が食事中に続く。
賑やかに、そして静かに。
俺、ロッティー、リサ、ローズ、時折近くに控えていたクラリスも談笑にやってきた。
食器の動く音、周りの雑音、それさえも雨音のように静かに過ぎる。
「ローズ、そろそろ時間。」
「そうね、クラリスさん、大丈夫ですか?」
リサが指示を出し、ローズがクラリスに何か呼び掛けている。
「うん、持ってくるね。」
そう言ってクラリスはバックヤードに引っ込んだ。
「シャーロット様、アベル様、少し失礼します。」
そう言ってリサが立ち上がり、ローズもそれに続く。
「なにかな?」
俺はロッティーに聞いてみる。
「母様に確認していたことかしら。何かをやるみたいだけど。」
すると、ひな壇奥の通路から、花束をそれぞれ持ったメイド勢が現れた。
カトリーヌから一人ずつ、ユーリに一言お祝いの言葉を告げる。
そして持った花束をエレナに渡し始めた。
ああ、いい演出だね。
派手過ぎず、それでいて感傷的になり過ぎず。
あ、ローズとエレナは感傷的になっているな。
まあ、この二人はなんか似てたし。
「あんなにボロボロ泣いてしまったら、化粧が落ちてしまうわ。まったく。」
「そうだね。でも悪い光景じゃない。」
「そうね、むしろ良い風景だわ。」
二人でそんなことを話していると、父さんが拡声の魔道具を持ち上げる。
「うちのメイド達の花束贈呈でした。美しかったですね。」
そう言って父さんは拍手をした。
それにつられゲストたちも拍手をすると、メイド勢が並んでお辞儀をし、バックヤードに駆け足で引っ込んだ。
恥ずかしかったんだろう。
真の陽キャ、一閃の剣と一緒に居ると、こういうことがあるのだ。
目をはらしたローズと、ケロッとしたリサが帰ってきた。
「お疲れ様、計画していたのかい?」
俺は気になったので聞いてみた。
「何かやりたいねって話していたら、奥様が皆が談笑しているうちに花束でも渡しちゃいなさいって仰ってくれて。」
裏話をリサが話してくれる。
また裏に我が母上がいるのか。
裏で母が企画し、表で父がイベント化してしまう。
陽キャ勢のウェーイ感にはやっぱ入れんな。
そしてユーリのさすが騎士学校主席と思わせる挨拶があり、宴会も終わりに向かうのだった。
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