159.アベルくんと宴会たけなわ。
159.アベルくんと宴会たけなわ。
爺ちゃんの音頭で乾杯が済むと、司会がヨハンに変わった。
「それでは皆様、ご歓談をお楽しみくださいませ。」
ヨハンはそれだけを言い、優雅に一礼してバックヤードに引っ込んだ。
まだゲストも来るだろうしね。
アーサーとそれらを捌きつつ、会場運営を任されているんだろう。
父さんは、エレナを気遣いつつ飲み始まったし、母さんは、爺ちゃん婆ちゃんのテーブルで話し始めている。
俺達はというと、リオラのジュースと、前菜やパンなどが次々目の前に置かれ、とりあえず口に運んでいる。
会場も乾杯が終わった後はガヤガヤと賑やかになった。
宴会は楽しく賑やかが一番だ。
それが新郎新婦の思い出になるのが最も良い事なのだけどね。
前菜も食べ終わった後、皿を下げようと来たクラリスに
「ちょっと、ひな壇に挨拶に行ってくるよ。次の皿は帰ってからにしてくれる?」
と、俺は言った。
「はい!行ってらっしゃいませ。」
そうクラリスは元気に送り出してくれた。
「姉さんも行く?」
「もちろん行くわ。」
そう言ってロッティーは俺の手を握り
「ああん、あたしも。」
リーサは慌てて飛んで来て俺の肩に座る。
まあ、いつメンて奴だな、この三人でひな壇に向かった。
ひな壇に着くと、ユーリとエレナの前に立つ。
ユーリたちが座っているテーブルがちょっと高くて、ギリギリ二人の顔が見える程度だが、俺が前に立つと二人が立って迎えてくれた。
二人とも少し顔色が悪い。
知った人も多いが、さすがに貴族のお歴々が多いと緊張するだろうな。
「二人とも結婚おめでとうございます。」
俺はそう言って二人に最敬礼をした。
領主の嫡男が騎士爵持ちといっても、一介の騎士に大仰なことだと思われるかもしれない。
でもね、俺は彼らにちゃんと礼を尽くしたいんだよ。
家族としてね。
「アベル様!そんなしていただか無くても…」
ユーリがそこまで行って言葉に詰まる。
「ユーリ、もう僕らは家族なんだよ。さっき父さんが言ったじゃないか。父さんが後見人だって。この場、そしてこれからは、そういう事なんだ。覚えておくがいい。」
口を抑え、感極まっているエレナの隣で、父さんはニコニコしながら俺たちを見つめ、頷いきカトリーヌから酒をついでもらっていた。
おや、さてはこの人,もう出来上がっているのではあるまいな?
「じゃ、ユーリ、この宴会も始まったばかりだけど、緊張しすぎないようにね。エレナ、食べ過ぎてドレス破くなよ。」
「そんな、味が分からなくて、口に入りませんよ。」
いつもは食いしん坊キャラのエレナが、そんなことを情けない顔をして言う。
俺はそんな二人を苦笑いで茶化しながら、父さんの席に向かった。
「やあ、アベルなかなかやるじゃないか。」
父さんは上機嫌に俺に話しかけてきた。
「いや、父さんこそ名司会だったね。それこそ宰相になってもいいくらい。」
「やめてくれよ。昔取った杵柄さ。若い冒険者の中で良く頼まれてね。仕方なくやっていたのがいつの間にか板についちゃったのさ。」
「とにかくお疲れさま。僕ら爺ちゃんたちのところへあいさつに行くね。」
「うん、僕もしばらくは離れられないから、回ってきてくれ。知った顔も多くなっただろ?アベルは城にばかり行っていたからな。」
「やめてよ、行きたくて王城なんて行くもんじゃないだろ。もう。」
「そうだな。でも知っている方々にあったらよろしく頼むよ。5歳のお前に言う事じゃないんだけど、アベルは頼りになるなぁ。」
そう言って父さんは朗らかに笑う。
「あら父様、お疲れさまでした。」
ロッティーが父さんに労いの言葉を掛けてから、カーテシーであいさつをする。
「うん、シャーロットは今日も可愛いね。」
「うふ、ありがとうございます、父様。」
「シャーロットもお爺様のところに行くかい?」
「はい、挨拶をしなければなりませんもの。」
「そうだね。じゃ、二人とも行っておいで、リーサちゃん、二人を頼むね。」
「任せておいて、ローランド。」
そう言ってリーサは自分の胸を叩いた。
そんな俺たちを見ながら、グラスをグイっと開け、それを見つけたカトリーヌが駆け寄り、父さんのグラスに酒をついだ。
「父さん、飲み過ぎないでね。」
俺が父さんを見てそう言うと
「分かっているさ。任せておきなよ。」
そう言って、父さんも胸を叩いて笑うのだった。
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