157.アベルくんと宴会場入場。
157.アベルくんと宴会場入場。
ちょっとしんみりした面持ちで、俺たちは会場入りした。
その頃には、カトリーヌを中心に、メイド勢がせわしなく働いているのが見えた。
「姉さん、メイドの皆、生き生きしてない?」
「呆れた。あの子たち、本当に働くのが好きななのだわ。」
「けど、それが僕たちの暮らしを支えてくれているんだよ。」
「そうね、アベルの言うとおりだわ。」
「アベルは前世の様な階級制度の改革はしないの?」
右肩に座るリーサが俺にこっそり聞いてきた。
まあ、しない。俺はそんな正義感や義務感にあふれた人間じゃないしね。政治形態のスクラップアンドビルドが、どれだけの血を流すか、リーサだって想像できるだろ?
『そうね、無理にいじらない方が良い事もあるわよね。1500年も続いている安定した政治形態を壊す必要はないわ。』
でも人間は間違えるからな。もちろん俺もその例に漏れない。もしリーサの目から俺がそっちの方を歩いたら教えてほしい。ダメなら一緒にYouちゃんのところへ行こう。
『またすぐ死ぬなんて言わないの!まったくあんた達世界の人間たちは、すぐに自分の責任を放棄しようとするんだから。考えなさい。考えてわからなかったら、私も一緒に考えるから。』
あら、リーサさんに諭せられちゃったよ。珍しい事もあるもんだ。
『なによ!文句あんの!』
感謝はあるけど、文句はないさ。
リーサ、ありがとう。
俺がそう思うと、リーサは真っ赤な顔になり、俺の肩から転げ落ちた。
「アベルが急に変な事言うから、落ちちゃったじゃない!」
「あれ?俺変な事言ったっけ?姉さん聞こえた?」
「いいえ、アベルはずっと黙っていたもの。」
「リーサったら、夢でも見てたんじゃない?」
俺はニヤケながらリーサに言った。
「あら、リーサちゃん、座って居眠りは危ないわ。」
ロッティーが可愛くリーサに注意を促した。
それを聞いていたリーサは
「ぐぬぬぬぬ…」
と唸るだけ。
俺は
「ふふん」
と、鼻で笑った。
などと、いい事言った後のじゃれ合いをしていたら
「嬢ちゃん、坊っちゃん、こちらにお出で下さい。」
と、アーサーが呼びに来た。
「はい。」
ロッティーがいい返事をして、アーサーの後ろについて歩きだしたので、俺も後ろに続く。
「アーサー、ちょっといい?」
「なんでやしょう?坊っちゃん。」
「リーサの席もあるよね?」
「ありますとも、坊っちゃん。こちらの席になります。」
俺の席の隣に小さいテーブルが設置されてあった。
「流石アーサー、抜かりないね。」
俺がこう言うと
「奥様がレイアウト設定なさっていたのです。流石なのはアリアンナ奥様でごぜいやす。」
ほんと流石だ。
いつまでたっても頭が上がりそうにない。
「アーサー、ありがとう。姉さんたち、座ろうか。」
そう言って、ロッティーとリーサをテーブルに促した。
それを見たアーサーは、軽く俺たちに一礼をしてロッティーの席を引き座るのを待ってから、去って行った。
ふと目の前の主賓席を見てみた。
主賓だが落ち着いた礼服のユーリと、純白のドレスをまとったエレナが緊張した面持ちで座っていた。
「うわぁ、緊張してるな、二人とも。」
「それはそうでしょう。二人の門出だもの。」
「それだけじゃないだろうけどね。」
「アベル、それは何?」
「またぁ、姉さんだって分かっているだろう?まずこの会場。首都の迎賓館で自分たちの宴会とか考えてなかっただろうな。僕も考えてなかった。すっかりヴァレンタイン家の事情に巻き込んじゃったよ。」
「そうね、今までバタバタしてしまって、王家とお爺様たちしか相手が出来なかった埋め合わせをここでやろうとしているのですもの。セイナリアに駐留している寄子の貴族、父様の昔馴染みと特捜隊で世話になった近衛騎士団とセイナリア騎士団の方々。あとは母様の親族として、お爺様ご夫婦がいらっしゃる。それに付随した貴族の方々もいらっしゃるわ。」
「各ギルドのお歴々もね。」
「そうね、商業ギルドと、冒険者ギルドの中央ギルド長はどんな狸なんでしょ?」
「姉さんは時々口が悪いよね。」
「あら、アベルには誠実よ。」
「そうあって欲しいね。」
俺達の話を聞いていたリーサが口を開く。
「あんた達の会話はもう、既にいっぱしの狸貴族よ。気付いている?」
「こちらにも口の悪いお嬢さんがいらっしゃったか。」
「あたしは見たことを言語化しただけ。10歳と5歳、周りの大人からすれば、末恐ろしいでしょうね。」
リーサはまあ見事の俺たちのことを言語化する。
神の視点は怖いわな。
しかし
「二人ともこんなに可愛いのに?ねー、姉さん。」
「あら、いやだ、嬉しい。アベルに可愛いって言われたわ。」
「こういうところだけ、根の深い病気なのね。」
リーサがロッティーの心臓に毒を差し込んだ。
「私は私に素直なだけなのよ、リーサちゃん。」
「あらそう。まあ、それが一番よね。あたしもそれを選んだのだから。」
「ふふふ」
「ははは」
二人とも、微妙な牽制をしながら、笑いあっていた。
その間にも次々とゲストが入場する。
そのゲストに対し、アーサーとヨハンが手際よくさばき、父さんと母さんがそれの対応をする。
何かのシミュレーションゲームを見ているようだね。
未来に俺もこんなことをしなければならないかと思うと、少し頭が痛くなる。
その前に、モラトリアルを楽しんでいた方が良いんだろうけど、この世界はそれほど甘くはないよな。
そして、最大のゲスト、宰相閣下夫妻が登場し、今までのゲストが一斉に立ち上がると拍手で向かい入れた。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。
よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。
どうかよろしくお願いします。
この作品を気に入ってくださると幸いです。