153.アベルくんとおめかしの後。
153.アベルくんとおめかしの後。
「あら、似合ってんじゃない。有力貴族のお坊っちゃま。」
支度を終えた俺の頭の上から声が降ってきた。
ニート神のリーサだ。
現在はフェアリーの身体に受肉し、現世に顕現済みだ。
食客という名のヴァレンタイン家の居候である。
「誰がニート神よ!」
とまあ、相変わらず言葉をすっ飛ばして人の頭を読むわけです。
このニート神はね。
「リーサも支度してよ。ま、一瞬だろうけどさ。」
俺がこう言うと、「パチン!」と指をはじく音がした。
音の先には、白を基調とし、黒い花が鮮やかに咲いた柄のドレスを纏ったリーサが空中浮かび微笑んでいる。
「おお、奇麗だ。」
俺の口から珍しく素直な感想が現れた。
そりゃ、神様だからね。語彙が無くなるほどリーサの造形は完璧なのだ。
それが今回はシックな色柄のドレスと相まって、さらに引き立っている。
「でも、白基調はまずいんじゃない?」
「あ、やっぱり?」
「今回の綺麗なリーサも凄くいいけど、いつもの可愛いリーサで攻めた方が良いんじゃない?」
「そうかしら、何かリクエストある?」
「そうだな。俺は元日本人だからね。めでたい席は紅白なんだけど、間を取ってピンクはどうだろう?ソメイヨシノの淡いピンクで。」
「いいわね。」
そう言うと、またパチンと鳴った。
そこに現れたのは、美しい桜の妖精だった。
俺は黙ったままサムズアップを送る。
リーサは自分が着たドレスを見渡し
「まあまあね。」
と、悦に入った様子だった。
*
準備を終えた俺とリーサは階段を降り、食堂に入った。
やはり準備を終えた父さん、母さん、ロッティー、メイド勢やヨハン、アーサーが俺を一斉に見た。
「「まぁ!」」
女性陣の声が大きく重なる。
「アベル、こちらにお出でなさい。」
いつになく威厳のある母さんの声に引かれ、両親の前に俺は歩み出た。
「うん、似合ってるね。ますますアリアンナに似てくるな。」
俺をマジマジ見る父さんの第一声だ。
「そうかな?」
「そうだよ。やっぱり慰謝料貯金しなきゃかな?」
俺は父さんのヤバい冗談をスルーし、母さんの方を向いた。
「良かった、ピッタリね。あなたも成長が早いから、ローズたちと相談したあつらえたのよ。」
そう言いながら、母さんは俺の紐タイの位置をを直す。
「はい、いいわ。今日は大人しくしているのよ。」
「はい、承知しておりますとも。」
俺は、軽く母さんに返す。
「どうだか。」
と母さんが言ったと同時に、俺の目の前が突然暗くなる。
俺の頭を抱えたまま、ロッティーが口を開いた。
「本当に天子様はいたのだわ!」
だめだ、早く何とかしないと。
俺は姉さんの両肩を押さえ、引きはがすと
「姉さん、整髪剤が付いちゃう、可愛いドレスが台無しになるよ!」
俺が言うと同時に、カトリーヌとリサがロッティーの両脇を抱える。
「姉さん、気をつけ!」
俺が号令をかけると、なぜかロッティーが条件反射的に気をつけをした。
その間に俺は姉さんをマジマジ観察。
赤を基調にしたドレスに、ピンクと白のレースが華やかだ。
「姉さん、可愛い。」
俺がこう言うと、ロッティーはその場でしゃがんでしまった。
「アベルに可愛いと言われたわ。」
顔を紅潮させ、呟く姉、ロッティー。
これが、ヴァレンティアの至宝と呼ばれる一人である。
「ほら、アベル。ロッティーで遊んでいないで出かけるわよ。」
母さんがそう言うと、メイド勢と執事二人も理路整然と出掛ける準備に入った。
そこへ、着替えとメイクを終えたミーとローズが登場。
着替えてと言っても、余所行き用のメイド服なのだ。
何が変わったでもなく、まあ、ちょっと綺麗なだけ。
つまんないよね。
でもミーのメイクテクニックは凄い。
どう見てもすっぴん、でも完全なナチュラルメイク。
「二人とも綺麗だね。」
俺はきちんと褒めるよ。
非鈍感主人公だからな。
「アベル様に褒められにゃ!アベル様にゃい好き!」
と言いながら、玄関へスキップで向かうミー。
ローズは顔を赤くしてモジモジしてるが、尻尾はブンブン大振りだ。。
猫と狼でこんなにも違う、生命って不思議!
まあ、性格もあるよね。
「ローズ、僕らも行こう、母さんに叱られる。」
「はい!」
そう良い返事をしたローズは、尻尾をブンブン振り回しながら、俺の横を歩いている。
さて、今日の主人公ユーリとエレナの二人だが、3台用意された馬車の最後尾に納まっている。
その主人公と同じ馬車へ乗るのは、父さんと母さん。最年長メイドのカトリーヌだ。
二組のラブラブ空間の中か。
カトリーヌ、気の毒に。
本当は、最後尾にヨハンかアーサーが乗るのがベストだろうけど、6人乗りに6人乗るのは狭すぎるしね。
というわけで、中の悪いエルフとドワーフ、100歳以上のおっさん二人は別れて乗車。
俺とロッティー、リサとローズの馬車に、ヨハンが乗った。
ちなみにリーサは俺の肩の上。
定位置だ。
程無くして馬車はアルケイオン神殿まで走り出した。
そう、式場はアルケイオン神殿。
戦争と平和の神様で、うちの氏神様、アルケイオン様の社だ。
やべ、なんだかトラブルの予感。
「リーサ、大人しくしておけよ。」
「あんた誰に向かって言ってんの?」
「お前だよ、分かんないほどボケたのか?」
「もう!」
そうかんしゃくを起こして俺の肩を蹴っ飛ばすリーサ。
まあ、痛くはないんだけどさ。
でも今回はユーリとエレナの結婚式だ。アルケイオン様とは仲良くしてくれよ。
“ここからは、アベルの脳内でお送りいたしております。”
『分かっているわよ。誰だと思ってんの?』
ニート神。
『あんたねぇ。神気で司祭操って暴れるわよ。』
ごめん、言いすぎた。
『私は大人しくするつもりよ。あんたたちに迷惑はかけたくないもの。』
そう、ありがとう。
うちの氏神様にもお願いしないとな。
『あれの方が心配でしょ。』
何もしないとは思うけどね。
二人の祝福さえしてくれればいいや。
『そうね。それが一番よね。』
などと言っている間に神殿に着いたわけだ。
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