149.アベルくんとセイナリアorヴァレンティア。
149.アベルくんとセイナリアorヴァレンティア。
婆ちゃんは紅茶を一口含み、サッパリしたって顔してから、また話し始めた。
「申し訳ありません、続けます。先ほども言いました通り、アベルを宰相閣下と私に預けていただけられるのでしたら、誰にも負けない政治家にいたします。どの席の後釜に着かせてもいいくらいの。もちろん宰相でもです。」
各大臣の喉が鳴るのが見えた。
迷惑な。
政治家とかありえないよ。
確かに王城で飼い殺しよりましかもしれないけどね。
「そうだの。アベルと話していると、時折、歳の近しいものと話をしている錯覚に陥りそうになる。知性的な部分においても、精神的落ち着きにおいてもだ。これが更に宰相夫婦に手によって教育されたら、クリス夫人の言も理解できるというもの。」
王が口を挟む形で言葉を発した。
「そのとおりでございます。彼の成熟度合と知的さは、我が娘より上なのではと見違える時がありますが、まあそれは置いておきましょう。」
婆ちゃんがそう言うと、母さんはキッ!っと婆ちゃんを睨んだ。
もっとも、婆ちゃんはどこ吹く風だ。
「しかしです、これがヴァレンティアにおいて教育されたら、別の頭角をもって表せるのは確実の話でございます。」
「ふむ、それはエドワード先生に支持しての剣術のことかや?」
またも王が口をはさむ。
「それだけではございません、彼はすでにヴァレンティアの内政に対しても改革を行っています。これはここだけの話になりますが、冒険者ギルドの改革にも口を出しています。どちらも現時点では成功と言っていい実績を上げているようですが、皆さんご存じでしょう?」
「その話は世も存じておる。しかし領内の改革は、宰相の官僚制をなぞらえたと聞いたが。」
また王が口をはさみ、そこで爺ちゃんが話し出した。
「官僚制についてはほぼそのとおりでございます。しかし、さらに付け加えますれば、官僚学校も彼らは準備しておるのです。永続的な職員の採用を見越してすでに動いておるのです。」
「一つ補足宜しいでしょうか。」
俺は思わず口をはさんでしまった。
「ん?アベルなんだ?発言しても良いぞ。」
と王の許可が出た。
「そんな重要な話ではないのですが、補足として。冒険者ギルドの改革案については、学校を作るものとして、補助金の支払いが決定しておりますので、オフレコじゃなくなりました。堂々と口をはさむつもりだったのですが。」
「なるほどな、既にヴァレンティアのギルド支部を取り込んだという事か。」
「いえ、そこまで大それたことではなく…」
「良い、良い、それぐらいの手腕を見せたという事であろう?」
だから違うって言ってんだろ!このスットコ陛下!
などと王を睨みつけようとした俺のをふさぐように、婆ちゃんが口を開いた。
「とにかく、ヴァレンティアでアベルは確たる実績を積んでおります。しかも陛下の弟弟子として、剣では無敵、エドワード・ヴァレンタイン元辺境伯の下で剣術の修練に励んでいるわけです。魔法では、わが娘がシャーロット共に修練を行い、先に言われたような天才を開花させ、新魔法の開発にもいそしんでいるわけです。これはヴァレンティアにそれぞれの優れた師匠がいるからです。」
一気に話した婆ちゃんは、ちょっと失礼と言ってお茶を一口含んでからまた口を開いた。
「うちで預かれば政治全般の教育でもって宰相閣下の片腕、もしくは後釜として育てて見せます。しかしヴァレンティアに帰れば、武術、魔法、内政、ともすればダンジョンの開発にも頭角を現すことになるでしょう。」
そして優しい顔で俺を眺めて
「この子が次期辺境伯になり、剣では無敵、一閃の剣と並べばより一層国境防衛は盤石になるでしょう。」
「むう。」
そんなため息とも唸りとも似た響きが会議室に響いた。
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