144.アベルくんと若い二人。
144.アベルくんと若い二人。
また馬車の中である。
はいそうです、登城です。
「この子、本当はお城が好きなんじゃないかしら。」
今日もお綺麗なアリアンナお母様の言である。
「へ?なんで?そんなわけないでしょ。」
俺はそう言って反発する。
「何かにつけお城へ行っているでしょ?」
「まあ、そのとおりなのが悔しいですが何か?」
などと二人でじゃれあっていたら。
「あなた方は本当に仲のいい親子ね。」
ふふふ、と、上品笑いながら話し掛けてきたのはクリス婆ちゃんである。
先触れはあったのだが、なんと近衛騎士が4騎もお迎えに来てね。
まるで俺が犯罪者扱いじゃないか、プンプンと言っている間もなく、セントクレア家に婆ちゃんを迎えに行って拾ってきたってわけ。
近衛騎士が来たのは宰相閣下夫人の婆ちゃんの護衛もあるわけ。
うちの騎士団は爆弾関連で忙しいしね。
結局は王が、うちと爺ちゃん夫婦に気を使ったんだよ。
で、馬車内。
「そうやってアベルを攻めているけれど、結局は目を離してしまったあなたの管理責任なんですからね。」
婆ちゃん会心の一撃が母さんに突き刺さるわけだ。
今の言葉を聞いた母さんは一瞬顔をしかめたが、急いで背筋をただすと
「そうよ。今回は私が陛下に叱られに行くの。」
目を閉じ顎を上げてツンとして言った。
「あら、よくわかっていたわね。その保護者が私ってわけよね。」
「母様!」
婆ちゃんの言葉に着い言葉を荒げてしまう母さん。
「まあ、まあ、お二人様、落ち着いて。ね?」
俺は二人の間に入って落ち着かせた。
「あなた!ね?じゃないわよ!まったく。」
母さんは顔を赤くし、俺に食って掛かった。
おや、おや、藪蛇だったようだ。
さて、ここで馬車内の人員を見てみようか。
俺、母さん、婆ちゃん。うちのメイドのエレナ、護衛のユーリ、そして婆ちゃんのメイド。
この六人が乗っている、四頭立ての馬車である。
実はこの人員には秘密がある。
「ユーリ、エレナと結婚する気あんの?」
俺は唐突に切り出した。
「え?いや、いったい何です?急に?」
ユーリが慌てて俺に聞いてくる。
その隣でエレナが顔を俯かせた。
「そうよ、何アベルその話?」
母さんも中に入ろうとするが、それは今じゃない。
「母さんはちょっと持ってくれる?ゴメンね。」
「分かったわよ。あなたに考えがあるのね。」
そう言ってあっさり引き下がってくれた。
イノシシのように思われる辺境伯夫人は、ちゃんと空気もお読みになれるのですよ!
母さんを黙らせた俺はユーリに話しかけた。
「質問を質問で返すな。前から二人がギクシャクしてるなって思っていたんだよ。現に今ここに来るまでもそうだ。どうなんだ?これからもちゃんと付き合っていくのか?」
「もちろんキチンとお付き合いしていくつもりです。ただ、最近は距離があったと思っているのも事実です。ご心配をおかけしていたならお詫びしたします。申し訳ありません。」
ユーリも真面目だからね、真面目過ぎるのも玉に瑕ってやつか。
「うん、まあ知っていると思うんだが、そこらへんは既にエレナから聞いていた。でな、このエレナが相当めげているんだよ。ちょっと仕事に支障が出そうなくらいな。それで俺が提案したんだ。お前ら、セイナリアで結婚式せんかってね。」
「あら、アベル、それいいじゃない。ユーリ、どう?私は良い話だと思うわよ。」
ここで母さんが参戦してきた。
そう、これこそが今作戦。
別邸とかでこの話をすると、母さんはノリノリで話はじめて長くかかるだろうからね。
この馬車の中なら、婆ちゃんという制御装置もいるし、何せ王城に着くまでに話を付けなきゃならないというタイムリミットもある。
考えたでしょ?
ドヤァ。
「しかし、良いものでしょうか?私はまだ半人前。しかも団長との訓練も終わっておりません。そんな私が、妻を娶るなど。しかも地元でもないセイナリアで。エレナのご両親たちのお気持ちなど含め、時期尚早に思うのですが。」
「あら、ユーリ気にし過ぎよ。チャールズ団長があなたを訓練しているのは、時期団長にするためなんだから、もう一人前なのよ。半人前を訓練するわけないでしょ。確かに民分差の問題があるけど、アベル、抜かりはないんでしょ?」
「確かに市井の出のユーリの身分だけどさ、ユーリは騎士学校主席のエリートで騎士爵も頂いているのに何が問題あるのさ。ヴォルグレット男爵には父さんが提案内容で手紙を早馬で送ったよ。親族の代わりは、ローランド・ヴァレンタイン辺境伯さ。」
そう、ユーリはエリートなんですって、奥様。
まぁ、エレナさん羨ましいわぁ。
てな話は、またいつか。
「ふう。」
ユーリは首を振って大きなため息をついた。
「お手上げです。二手、三手上を行くアベル様達には敵いません。」
そう言うと、馬車の椅子からユーリはおもむろに降りて、エレナの前で膝間づいた。
「エレナ、急な話任っちゃったけど、僕と結婚してくれるかい?」
ユーリは俯くエレナを見つめ求婚を始めた。
うつむいたエレナの目から、大粒の涙が一粒落ちる。
そして。
「はい。喜んで。」
エレナはユーリの求婚を承諾した。
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