141.アベルくんと市井探訪。
141.アベルくんと市井探訪。
母さんと爆発事件と魔法とその運用などのお話をしていたら
「ポフン。」
と、俺に当たったものがある。
ふと上を見ると、ロッティーが泣きながら俺を抱きしめていた。
「わ、私の目の届かない所に行くものではないわ。」
「ごめんね、姉さん。油断していたら人混みの中へあれよあれよと。そうだ、母さん、ローズと騎士たちを叱らないでね。僕が悪いんだから。」
俺の言葉を聞いた母さんは俺に向かって
「わかっているわよ。私も目を離したのが悪いんだし。あなたは老成していて、何でも自分で解決しちゃうから、つい、身体の大きさまで忘れちゃうのよね。」
と、ちょっとした憎まれ口を含んだクレームを言った。
「もう、老成、老成言わないでよ。自分でも分かってんだからさ。」
俺が母さんにそう言うと
「あれ?アベル。香水の香りがするわ。」
と、ロッティーが言い、パッと俺を手放した。
「そうだったわね。なに?その匂い。」
母さんが詰問モードにスイッチを入れる。
何?まるで俺が悪いことしたみたいじゃん。
「アベル様は、ダークエルフの綺麗でグラマーな女性に抱き着かれたって言ってました!」
ここまで、メイドとして家族の間に割り込まなかったローズがいきなり口をはさんできた。
なにそのローズの告げ口言ったったみたいな顔は?
ここは下校時刻間近のホームルームの時間か?
「「へぇ~。」」
母と姉の目付きが険しく変わる。
「その人に助けてもらったんだよ。このロータリーまで案内してもらったの!安心して、泣けちゃったらその人がハグして慰めてくれたんだ。」
まあ、10%程度は嘘だが。
俺、田中信一郎の前世の憎悪が暴れたなんて、余計なことを言う必要はない。
たぶん、きっと、おそらく、予想では、etc.
「で、何て名前の人なの?」
目が険しいままの母さんが俺に問う。
「花街のカレンさんとおっしゃっていました。」
「「へ~、“花街の”カレンさんねぇ~。」」
「また、リラさんみたいに気に入られちゃったのかしら、ねぇ、母様。」
「この子はそう言う所が有るのよね。あの手の御姉様方が、やけにかまいたがるのよね。あなた、その人エルフでしょ?」
「だ、ダークエルフです。」
「「やっぱりぃ。」」
何なんだよ!一体!!
「では探してお礼言わなきゃね。」
「貴族とは関わりたくないみたいなことを言っていましたから、迷惑じゃないですか?」
「でもあなたを助けた良い人なんでしょ?」
「僕を助けたというよりは、誰でも助けるというたぐいの良い人でしたが。」
「なるほど、そういう人も世の中には居るものね。自分の利益ばかり考える人じゃないって言うのが、また気に入ったわ。」
「で、ではこれから探しに行くので?」
「そうねぇ、もう夕方近いから、これから行ったらその方のお仕事の邪魔になりかねないわね。」
「で、では。」
「あとで騎士団に探してもらいましょう。」
ああ、ごめんよ、カレンさん。
もう関わらないと思っていたのに。
現場でのことは黙っておくから王城には呼ばれないと思うけど、こっちは無理だ。
「でも、それだけじゃつまんなかいら、市井の街でも見ましょうか。」
「え、でも、またはぐれる危険性が。」
「大丈夫よ。フレイ。」
「はい、奥様。」
さっきまでモブ騎士だったフレイは、俺の後ろでちょっとしゃがむと俺の脇に手をいれ
「アベル様、失礼します。」
と言って、俺を持ち上げ肩車をした。
騎士と言ってもね、こんな護衛任務にフルプレートなんて着ないのよ。
革の簡易な胸甲だけでね。
だから俺の様な5歳のデリケートなお尻でも、フレイの肩に乗っても痛くないわけだ。
フレイは騎士団の中でもそんなに身長は高くはない。
とはいっても175センチは超えていると思われるので、俺の視界は一気に広がる。
この高さまでじゃなくていいから、フレイと同じ目線くらいは欲しいと思う吉宗であった。
誰が将軍様やねん!!
半ば自棄になっているわけだが
「母さん、僕はいいけど、姉さんとリサとローズはどうするのさ。」
「もうこの子たちはあなたと違って落ち着きがあるし、私たちで囲んで歩くから大丈夫よ。」
「ああ、さいで。」
「じゃあ、行こうかしら。まあ、見えなかったけど、リーサちゃんはアベルの肩ね。」
「そうよ、アリアンナ。私の定位置だからね。」
そう言ってリーサは笑った。
こうして、市井の住民には大迷惑な、名門貴族の市井探訪が始まるのであった。