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15.アベルくんとメイド長。

15.アベルくんとメイド長。




 「リサ、あなたも夕食を食べに行きなさい。ローズならもう向かっているはずです。」

 おや、リサもマーガレットもまだいたのか。


 「はい、マーガレット様。それでは、アベル坊っちゃん、マリアさん失礼します。」

 俺に挨拶なんていいのに、律義に挨拶をして出ていくリサ。


 「リサちゃん、お疲れさま。」

 と、マリアさんが出ていくリサに声をかける。

 リサを見送ったマーガレットが

 「マリアさん、お疲れさま。」と声をかけながら、ベビーベッドまで近づいてくる。


 「お疲れ様です、マーガレットさん」

 アンネローゼの授乳を続けながら挨拶をするマリアさん。


 「今はアンネちゃんの番?アベル様は終わったのかしら。」

 マーガレットが聞いてくる。

 「ええ、アベル様の授乳はもう済んでいますよ。抱きますか?」

 笑顔を見せながらマーガレットに不穏なことを聞くマリアさん。


 「はい、抱っこします。」

 ふんす!

 意気込んだマーガレットがゆうゆうと俺を抱き上げる。


 そして俺の顔をニマニマしながら見つめ、ゆらゆら腰と腕を使って俺を揺らす。


 「アベル様は今日もハンサムさんですね~。」

 赤ちゃんに話しかけるように俺に話しかけるマーガレット。


 まあ、赤ちゃんなんだが。


 マーガレットは、だいたいこの時間に現れて、俺を抱っこするのが最近のルーティーンだ。

 俺は断れないしね。

 まあいいんだが。


 こんなマーガレットだが、ローズやリサには厳しくて怖いメイド長だと思われているらしい。


 「このくらいの赤ちゃんは可愛いわ。」

 マーガレットが言うと

 「そうですね。でもハイハイや、つかまり立ちする頃も可愛くないですか?」

 とマリアさん。

 「そうね!その頃も可愛いいわね!」

 ちょっとマーガレットは興奮気味だ。


 「私も産めたらよかったのに・・・流産さえしなければね。」

 急転直下、しんみりし始めるマーガレット。


 「まだあきらめるのは早くないですか?授かりものですもの、まだ大丈夫ですよ。」

 心配そうにマリアさんは慰める。


 「ありがとう、マリアさん。でも、流産してから、月のものが不安定だったり、痛みがあったりで、もう怖いの よね。こんな愚痴を話せるのは貴方ぐらいなものだわ。」

 悲しそうな笑顔を見せるマーガレットに俺は両手を伸ばし、マーガレットのほっぺを触ってやる。


 「ちょっと待ってください。」

 マリアさんはそう言うと、アンネローゼの授乳を続けながら、隣にあるマリアさんの部屋に行った。


 小走りでアンネローゼを抱えて帰ってきたマリアさんは「これこれ、マーガレットさん、これをどうぞ。」と言って、ポーションの瓶をマーガレットに渡す。

 「なんですか?これ。」

 あからさまに困った顔をマーガレットは作る。


 「これは女性特有の症状に効くポーションなんです。私は人間とエルフのハーフで、種族的に中途半端なものですから、エルフでも人間でも出ない症状、そうですね、あからさまな周期の不調とか、耐え難い酷い痛みとかが出ることが多かったんです。」

 マリアさんの口調に熱が入る。


 「それを和らげてくれるポーションなんですよ。母が都合してくれたものなんですが、何故かアンネローゼを産んでから、その手の症状がビックリするほど出なくなったので、マーガレットさんに差し上げます。」

 そう言って、マリアさんはポーションの瓶とマーガレットの手を包み込むように握る。

 おい、片腕で抱いて、俺を落とすなよ。


 「そんな貴重なものいいの?」

 マーガレットが困った顔でマリアさんに聞くと

 「いいんですよ、もう必要ないですし。私用に調合されていますけど、エルフ謹製調合ポーションですから、バッチリ効くはずです。飲んでみて下さい。それで調子が戻れば、また頑張ればいいじゃないですか。」

と、きっぱり言い切るマリアさん。


 「うん、そう、ありがとう、大事に飲ませていただくわ。これで調子が戻ったら、ジョージに頑張ってもらわなきゃ。ふふ」

 気が楽になったのか、マーガレットは笑い出した。


 ちなみにジョージとは、この城の料理長でマーガレットの旦那だ。

 つか、ジョージが頑張るのかよ…。


 「あらあら、ごちそうさま。」

 ふふふと、マリアさんが上品に笑う。


 機嫌が良くなったせいか、マーガレットの俺を揺らすペースが上がる。


 おい、こら、やめろ。

 これから夜にかけて魔法の実験をするんだぞ、俺を寝かすな、ぐぅ…



ここまで読んでいただき、有難うございます。

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