136.アベルくんと辺境伯夫人御一行。
136.アベルくんと辺境伯夫人御一行。
母さんとロッティーがなんだかんだ言おうが、結局は大人数で出かけることになるのだ。
内訳を言おう。
母さん、付くメイドはカトリーヌ。
ロッティー、付くメイドはリサ。
俺、付くメイドはローズ。
そしてリーサとこの大所帯の護衛の騎士が二人。
ほら、9人だぞ。
首都中央ロータリーで馬車から降りてたむろっているわけだ。
そういえば、ミーが付いて行きたそうな顔をしていたな。
今度があれば、連れだしてあげよう。
その分、今は別邸で仲の良いエレナとだべっていればいいのさ。
土産くらいは買ってくるから待っていてね。
「さてどこ行こうか。」
「買い物。」
母さんがまた禁じ手を提示。
「さっきしないって言ったじゃん!」
俺は母さんに不満を提示。
「あれはアベルと二人の時の話でしょ。今は荷物持ちが沢山いるじゃない。」
うわー、メイド勢ご愁傷さま。
「姉さん、どこか行きたいところないの?」
諦めてロッティーに振る。
「あるのよ。でもアベルと二人で来たかったの。」
「何?どこさ。」
「王立中央図書館。」
いかにもロッティーらしい答えが飛び出てきた。
けど、そこは俺も興味があるな。
「あそこは入るためにデポジットが必要なのよね。」
母さんが地元の知識を披露する。
「へー、いくら?」
俺は気楽に聞いてみた。
「金貨2枚。」
「はぁ?」
200万円だと!
「でも出るときに返してくれるわよ。本を破損したり、盗もうとしたりする人がいるために、そのくらいの保証料が必要なのよね。」
この世界は、ノヴァリス英雄王のお陰で植物紙が出来てはいるんだが、生産のオートメイション化に至っていない。
よって紙は結構高価なのよ。
この国は識字率が高いからさ、本なんてもっと安くすればいいと思うんだけどね。
庶民はお金を持ち寄って回し読みするんだそうだ。
貸本屋を作ればもうかるかな?
駄菓子も売ろう。
昭和か!
うむ、この人数で図書館に入ろうとすれば、一千八百万が必要なわけか。
でも、母さんはおそらく大金貨5枚は持ってきてるはず。
しかしさ。
「姉さん、今度にしよう。二人で行こう。」
「分かったわ、今度こそデートね。アベル。」
そう言って俺の肩を抱き寄せるロッティー。
その後ろを歩くローズの目が険しくなるのが見えた。
こんなんでいちいち目くじら立てたら、お妾さんどころの騒ぎではあるまいによ。
と、思っていたら、リサがローズの頭にチョップをくらわした。
「ローズ、いい加減にする…」
と、ぼそぼそ聞こえてくる。
リサがローズに説教をしているようだ。
ロッティーも母さんも二人には知らんぷり。
こういう時の女性たちの連帯感の良さって、なんなんだろうね。
こわや、こわや。
近づかぬが吉だのだ。
「じゃあさ、俺とローズはもう見ちゃったけど、演劇に行こうか。」
「えー!」
と、母さんから不満の声が上がる。
「それって、父様と母様の劇のことかしら?」
ロッティーが俺に聞いてくる。
「そう、それ!」
俺が返事をすると
「嫌よ、自分がモデルの舞台なんて見たくないわ。」
母さんが府へ鵜を言うが
「みんな見たいよね?」
俺は、メイド勢と護衛、リーサに呼び掛ける。
「はい!」
みんな喜色満面の笑顔でうなずいた。
リーサだけは
「どっちでもいいわよ。」
と、ニュートラルな態度。
「決まりでいいよね、母さん。」
「仕方ないわね。」
「一つネタバレするとね。」
「なによ。」
「ヒロインの女優さんより、母さんの方が美人だよ。」
「なに?あなた、何か買ってほしいものでもあるの?何でも言いなさい。」
母さんは口角を上げるのを我慢しながら、俺にわがままを言うように促してくる。
「え?いらないよ。みんなで歩けるだけで十分だよ。」
「そう?でも、何か欲しいときには言いなさいね。」
そう言って、我が母はにっこりと笑った。
アリアンナ・ヴァレンタイン自己肯定感爆上げの瞬間である。
「では、参りましょう。」
母さんはそう言って先頭を歩いて行く。
子供たちのデートじゃないんだから、馬車で劇場に行っても良いんじゃないんですか?奥さん。
などと思っている俺の気持ちも知らず、悠然と歩く母さんは頼もしくもあり面白かった。
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