134.アベルくんとリーサの信条。
134.アベルくんとリーサの信条。
「あむっ」
俺は生クリームの付いたバウンドケーキのようなものにかぶりついていた。
思考をし過ぎ、消費し過ぎたグリゴーゲン補給である。
ブレインブーストをすれば頭が良くなればいいんだが、思考が早くなるだけだから今回のような事には向いていない。
むしろ母さんとの会話には邪魔なだけだ。
「あら、美味しそうなものを食べているわね。」
そう言って食堂に入って来たのはリーサだ。
「リーサちゃんも食べる?美味しいわよ。」
母さんがリーサにケーキを進める。
神がケーキを食べたって栓無い事なのにって考えると、思考を読んだリーサが突っ込んでくるだろう。
「良く分かるじゃないの。」
ほらな。
「アリアンナありがとう、いただくわ。」
リーサはそう言ってテーブルの淵に腰を掛けた。
「ずいぶん屋敷の中が静かだけど、何かあったの?」
事情を知らないリーサが聞いて来たので、俺は事のあらましを教えた。
「そう、大変だったのね。」
明かに興味がなさそうだ。
そりゃ神が人間の起こした事件にいちいち首突っ込むほどのことはないだろうからな。
「そう言えば、リーサちゃんは何か見なかったかしら。アベルの腕を治した日と、その前日あたりに、馬車に近付いた人とか。」
「知らないわ。」
「あら、そう。」
「ごめんね、アリアンナ。意地悪しているんじゃないのよ。」
「あのね、母さん、リーサは国や貴族の政や、事件事故にはかかわらないようにするのが信条なんだってさ。」
「そうなの?でもその方が良いわね。危ないもの。」
母さんは信じたようだが、人間そのものの行動に興味がないみたいだ。
『そのとおりよ。』
まあ、現世の世界を神が跋扈している方が特異なのだからな。
『特異で悪かったわね。』
別に貶めているわけではないさ。
リーサのような存在自体、他の神と違うってことだよ。
『他の神は神殿から出ないからね。』
例の信仰に縛られるってやつ?
『そう、それ。振り切って受肉することも出来ないことはないけれど、そこまでする必要もないから。この前のアルケイオンもそうだったでしょ?』
そうだったな。お前は500年前の戦争の時、敗戦した聖王国の国民から信仰が薄くなっちゃったんだもんな。
『そうよ、それが無ければ私も逃げられなかった。』
唯一神が逃げるんだから、聖王国も哀れだよ。
『私は縛られたくなかっただけ、それだけよ。あんた、アルケイオンが受肉するって言ったら、受け入れたの?』
俺がいい返事をしたら、するつもりもあったみたいだったけど。
『あんた、アルケイオンが良いの?』
あんな美人さんを嫌だっていう人間はいないだろ?
『ふん!』
このリーサとの会話の間、0.1n秒!
なわけがなく。
「アベル!あなた何ボーっとしてるの?」
心配した母さんが俺に声を掛ける。
「いや、あのさ、今回の件で、リーサの手を借りることは出来ないんだ。母さん分かってあげて。」
「そうね、さっきも言ったけど、貴族の、国の政の世界は奇麗なようでいて、危ないもの。本来、子供たちにだって近づけたくないのよ。でも子供たちも慣れていかないと対処できなくなるから、仕方ないのよね。」
母さんも、納得したようだ。
確かに、リーサの妖精サイズの身体ならスニークは簡単だからな。
協力を願い出てしまうのは、わからないでもない。
『私が興味あるのはあんただけだからね。他のヒューマンがどうなろうと知った事じゃないわ。』
うわっ!冷たっ!
『だって本当のことだもの、アリアンナ達のこうして付き合っているのも、あんたと一緒に居やすいってだけだから。』
俺のどこを気に入ったのかね。
『前世の魂かしら。私にも良く分からないわ』
まぁ、前からお前のスタンスはそんなもんだよな。
聖女のアンネと俺さえいればいいって感じで。
で、今回の事件に関しても関与することはないんだよな。俺は死にそうになったけど。
『そしたらそしたで私も受肉を解いて、高次元へあんたと一緒に行くだけだから。で、今回の事件に関しては、ヒントくらいあげても良いわよ。』
ほんと?そのヒントは?
『馬車に一番近い人は誰でしょう?』
嘘だろ?そんな簡単でいいの?
「簡単なところに答えはあるものでしょ。そんなものよ。」
でもリーサの証言は得られない。
どう真犯人と動悸、犯行を紐づけるか、俺があの人が犯人と言ってもそれはおかしな話だもんな。
簡単な手で行こう。
父さんに外部との接触がある人間をピックアップしてもらう。
そして怪しい人間の中に、御者のおっちゃんが居たら徹底マークしてもらうか。
いや、そういえば。
「母さん、事件が起こった時間に御者のおっちゃん何処に居たっけ?」
「え?ヴァレンティアからしっしょに来た、いつもの御者の人?あの人しばらく休んでいるわよ。」
わぁ、決まりだ。
こんなんで良かったのかよ、足元暗すぎだろ。
リサ、エミ、疑ってごめんよ。
俺がそんなことを思っていたら母さんが大きな声を上げる。
「ああ!身近にいたわね!」
「ね、回りくどく人を見る必要なんてなかったんだ。」
「なんだぁ。ローランドに言っておくわ。」
「逃げられたら大変だから、裏付けやってから確保の方が良いんじゃない?」
「そうね、あなたはやっぱりキレるわ。」
母さんがそう言うと、リーサがじっとりとした目で俺を見る。
そうですね、私の手柄ではないです、あなたのおかげです。
「いずれ父さんや母さんがたどり着いたと思うよ。僕はちょっと簡単に考えただけだよ。」
そう俺が言うと、「ふふん」と鼻で笑う音がリーサの方から聞こえた。
なんだよ、態度悪っ!
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