133.アベルくんと考えすぎ。
133.アベルくんと考えすぎ。
食堂から出ていくローズを見送ってから、ロッティーの方を向く。
「姉さんも一緒に遊びに行ったら?」
「あら、どうして?」
ロッティーは少し驚いた面持ちで俺に聞いてきた。
「姉さんはこっちに来てから引きこもり気味だったろ?同年代の女の子たちと街を歩くのも悪くないんじゃないかと思ってさ。」
ロッティーは暇を見つければ本を読みだしてしまうからな、やや強引でも外に連れ出すしかない。
「アベル、あなた良い事言うわね。ロッティー、行ってきなさいよ。この前買ってきた服もあるんだし、ね。」
母さんも俺の意見に乗ってロッティーを促す。
「そうね、リサたちと歩くのは悪く無いアイディアだわ。アベル、ありがとう。」
「どういたしまして。」
ロッティーは俺に笑顔でお礼を言った。
ほら、ロッティーはそういう笑顔が一番似合うんだよ。
「では、母様、リサたちを連れ立って街へ行ってきます。馬車をお借りしてよろしい?」
馬車ね、そりゃそうだ。ちょっと遠いし。
「そうね、お小遣いもあげるわよ。ミー、ちょっと。」
母さんはミーを呼んで馬車とお金の手配をしたんだろう。
「かしこみゃりにゃした。」
ミーは相変わらず可愛く言うと食堂から出て行った。
「それでは、お二人とも、私は準備がありますので、ごきげんよう。」
そう言うとロッティーは軽やかに食堂から出ていった。
なんだよ、ロッティーは5歳も年齢が上がったような口ぶりだ。
大人ぶりたくなったのかもね。
ってところで母さんがいきなり俺に向き直り口を開いた。
「さあ、アベル。なにを考えているの?話しなさい。」
この人は本当こう言う所が鋭い。
「母さんは凄いね。」
ホント感心する。
「実行に移せるあなたも凄いのよ。リサとロッティーが居なくなって話しやすくなったんでしょ。」
ほらな、確信的なことは分かってんだ、この人。
「まあね。リサの受け答えどう思った?」
「うーん、私の質問に答えたまでは何とも思わなかったわね。」
母さんは可愛く小首をひねながら俺に答える。
二児の母が可愛く見えるんだから仕方がない。
これがこの人の個性なのだ。
「それで?」
「そう、それでなのよ。あなたが質問して分からなくなった。」
「リサの両親に疑問が産まれた?」
「そう、そのとおりね。」
「ヴァルシオンの坑道で働く、子供が生まれたばかりの若い夫婦。この夫婦がどうしてヴァルシオンの坑道から出て、いきなり冒険者になろうと思ったか?ここに疑問の焦点が当たるんだ。」
「そう、それなのよ。子供が生まれてすぐ、来るのに3週間から4週間以上かかるヴァレンティアへやって来て冒険者家業はちょっとね。まして、それまで冒険者じゃなかったわけでしょ。」
母さんも考えこみ始めた。
「単純に考えればお金だよね。冒険者になってダンジョンに入り、魔石を稼ぐ。冒険者D級ならば深紅の大穴にチャレンジできるから、実入りも良くなる。D級になれるならばだけど。」
「借金でもこしらえたのかしらね。」
「ヴァルシオンのような巨大鉱山都市で何を借金してまで手に入れる必要があるんだろうか?」
「それはさすがに私でもわからないわよ。」
「それか何かの肩代わり。」
「なにかって何よ。」
「嫌な想像だけど、事故とか。」
「考えられるわね。お母さんはリサの面倒を見ていたとして、お父さんが何かしらを鉱山で起こし、その責任を取らされた。」
「それで大金が必要になり、冒険者か。」
「これならリサの両親の裏に何者かが居てもおかしくはないわね。」
「でもさ、母さん。想像するだけならここで手詰まりだよ。」
「そうね。あなた何か手はないの?」
「あったらやっているよ。それにこれ以上リサの尋問をやりたくない。姉さんの精神衛生上も鑑みてね。」
「あなたでも手が無しか。この情報どうする?ローランドに話す?」
「これは僕らの想像でしかないから父さんには言えないよ。」
「裏も取れないしね。」
「結局考え過ぎで終わったな。いや、爺ちゃん何か知っていないかな?」
「あなた、国民一人が起こした事故のことなんて、宰相がいちいち拾って吟味するわけないでしょ。」
そっか、そのとおりだ。
俺は頭を抱える。
「それもそうだね。そうだ、母さん、甘いもの食べよう。」
「あら、あなたからそんなこと言うのは珍しいわね。」
「難しく考えすぎておなか減っちゃった。」
俺がそう言うと、母さんはおかしそうに笑うのだった。
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