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132.アベルくんとリサの過去。

132.アベルくんとリサの過去。




 「あら、ヴァルシオンの出身だったかしら、あなたヴァレンティアで初めて会ったときは4歳だったわよね。」

 母さんがリサに問いかける。

 その問いかけにまだリサの顔は固い。

 「はい、両親はヴァルシオンの坑道で働いていましたが、冒険者になって一旗揚げる夢を見てヴァレンティアに来ました。」


 普段朴訥な話し方のリサが、やけに丁寧な話し方だ。

 なんだろう、ザワザワする。


 「ご両親は今、鍛冶の仕事をしているのよね。」

 「はい、結局冒険者では食べられないとなったようです。私はまだその頃は小さかったですから覚えていませんが。」


 「ヴァルシオンからヴァレンティアへの道のりも大変だったでしょうに。苦労なさったのね。」

 「どうでしょう?良く分かりません。物心つく4歳の時にこちらへご奉公に来ましたから。その後ずっと、シャーロット様と共にいました。」


 「うん、まあいいわ。で、取り調べで何を聞かれたの?」

 「奥様と同じく出身地と、事件の当日と前日に馬車へ近づいたか。それと事件当日の行動です。」

 

 「うん、他の二人と変わらないわね。あなたたち、何かある?」

 母さんは俺たちに質問があるか促した。

 「私はないわ。リサが取り調べを受けることがあるなんてことはないもの。」

 ロッティーのリサへの信頼は揺るがない。


 「ちょっと聴いていい?」

 「アベル!これ以上リサに聴くことがあるの!?」

 ロッティーが興奮気味に俺を問いただす。

 「姉さんが僕に怒ることではないよ。ちょっとだけ質問の補完をしたいだけ。リサが信頼に足る良い娘ってのは僕も知っているもの。ちょっとだけの補完。それだけさ。」


 「わかったわ。ちょっとだけよ。」

 ロッティーの顔は全然分かったとは言っていない。

 使用人と言っても、2歳から一緒の幼馴染だ。大きな事件の関与を疑われれば、心中穏やかではないのは俺にもわかる。


 「うん、ありがとう。リサごめんね、こんなことに付き合わせて。」

 「いいえ、アベル様。なんでもどうぞ。」


 「リサがヴァレンティアに来た頃って、1歳か2歳に入るかの頃だよね?」

 「そうなりますね。私には記憶にないですが。」

 「そんな乳飲み子を抱いて、何週間もかけてヴァルシオンからヴァレンティアにくるって決断は生半可じゃないって思うんだ。ご両親にヴァルシオンで何があったんだろう?」


 「私にはわかりません。それこそ乳飲み子だったわけですから。」

 「そっか、そうだよね。ありがとう、僕からは以上だよ。姉さんもありがとう。」


 俺はそう言って二人から目を外し思考を始めた。


 リサの両親に何かあったんだろう?

 なにかあって追い出された?

 それでいまだにリサは脅迫されている?

 なんで俺はこんなことを考えている?

 わからん。


 俺はリサを犯人にしたくないのに、なぜこう考えるんだ。

 やめ、やめ、馬鹿馬鹿しい。

 俺だって6歳だったリサを0歳のころから知っているんだ。

 彼女は朴訥だがいつも一生懸命だった。

 それは間違いがない。

 もう考えるな。

 他の誰かなんだ。


 俺は思考を止めた。


 「アベル!アベル!どうしたの!?」

 母さんの大きな声で思考から現実に戻った。

 そこまで考え込むなよ、俺。


 「ん?どうしたの母さん?」

 「どうしたのじゃないわよ、急にボーっとしちゃって。」

 「うん、ちょっと考え事しちゃってね。でももういいや。次ローズでしょ?リサ、お疲れさま。ローズ呼んできてよ。」


 「あなた、それは私の仕事でしょ。リサ協力ありがとう。ローズ呼んできて。そしたら休んでいいからね。」

 母さんはそう優しくリサに言った。

 「はい、奥様。失礼します。」

 リサは朴訥な話し方に戻り、食堂から去って行った。


 「む!」

 そう言って睨んできたのはとても可愛らしい女の子。

 「ごめんて、姉さん。そんな厳しい質問でもなかったでしょ。」


 「そうじゃないの、ちょっとでもリサに疑うようなことをしたのが許せないのよ。」

 「そうか、そうだよね。反省します。」

 俺は深く言い合いするのを止めた。

 また思い出しそうになるからだ。


 「愛しい弟が分かってくれて嬉しいわ。」

 この娘は、共依存に引っ張り込もうとしてんじゃないだろうな。

 メンヘラ、怖い、怖い。


 「でも、さっきのアベルは様子がおかしかったわね。」

 母さんが俺に疑念を向けるが、今はやめてほしいんだよな。

 「そう、いつもおかしいんじゃなかった?僕はさ。」


 「あら、良く分かっているじゃない。それが言えれば問題ないわね。」

 「さようで。」


 そして食堂にローズが入って来た。

 なんだか気まずそうだな。

 最近言い合いばかりしてたからな、そうなるか。


 「失礼します。」

 ローズは若干細い声で挨拶をする。


 「はい、ローズ協力よろしくね。」

 「はい、奥様。」


 「では始めるわよ。ローズの出身地は?ってヴァレンティアよね。」

 「はい、皆さんご存じのとおりです。」


 「じゃあ、さっき何を聞かれた?」

 「やはり出身地と、馬車に近付いたか。その時何処で何をしていたかです。」

 ローズの答え方は他の3人より雑だな。

 もっとしっかりしろ。


 「ローズ、もっとしっかり答えろ。雑だぞ。」

 「はい。」

 俺が叱ると、ローズはしかめっ面で俯いた。


 「アベル、まあいいじゃない、ローズは今回の件に関わらないのが分かっているんだし。」

 「まあそうだね、出身地もわかるし、うちに雇われた経緯もハッキリしている。動機もないもんな。」


 「そうね、ローズ、もう戻っていいわよ、ちゃんと休んで、リサと遊びにでも行ってきなさい。」

 母さんはそう言ってローズをねぎらった。


 「はい、失礼します。」

 母さんのねぎらいの言葉を受けながらも、ちょっと落ち込んでいるような様子を見せるローズ。

 そしてそのまま食堂から出て行った。




 さて、あまり考えたくないよね。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

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