14.アベルくんと魔法の訓練。
14.アベルくんと魔法の訓練。
「では、始めましょうか。」
いつもより真剣な面持ちのアリアンナ母さん実践講習を始める。
「ねえ、ねえ、どうするの?」
と、好奇心と知識欲の権化になったロッティーが、アリアンナ母さんに纏わりつく。
そんなロッティーにアリアンナ母さんは微笑みながら
「落ち着きなさい、ロッティー。そんなに焦らなくても、ちゃんと教えてあげるわ。わかった?」
と、たしなめた。
「はい。」
と、ロッティーも食いつき過ぎたって顔をして、自重した返事をする。
「では、私の真似をして。自分の目の前に利き腕の人差し指を立てて持ってきます。ロッティーは私と同じ右手ね。」
と、アリアンナ母さん。
「こう?」
人差し指をピンと立て、目の前に持ってきたロッティーが聞く。
「そうね、危ないから、もうちょっと目から離しましょうか。うん、そこらへんでいいわ。」
アリアンナ母さんは、ロッティーの人差し指の位置を、優しく微調整して行く。
「そうしたら、魔素溜りに溜まっている魔素を、力になれってイメージしながら人差し指に導いてやるの。そうすると、魔素溜りから出てきた魔素が、魔力に変換されつつ人差し指に集まり、事象に昇華する力になるわ。本当にこれはイメージ、感覚でしかわからないから、難しいわよ。ロッティーは正しくイメージできるかしら。」
悪戯っぽくロッティーに聞くアリアンナ母さん。
うわー、抽象的過ぎるよ、おい。本当に魔法ってイメージなんだな。
くーっ!俺もやってみてーっ!だけど、傍にマリアさんとアンネローゼがいるからな。夜中まで自重か。クソー!
そんなレッスンがしばらく続き、結構な時間が経った。
*****
「母様、難しい…」
人差し指を立てたままのロッティーが悔しそうにつぶやく。
そんなロッティーにアリアンナ母さんは
「そうね、最初はどんなことでも難しいものなの。ロッティーは、いつでもどんな事でも、最初からなんでも上手にやってきたから、こういうことも必要なのかもね。」
と、優しく諭す。
「母様が意地悪しているんじゃなくて、わたしに失敗が必要ってこと?」
と、少しばかりひねたことを言うロッティー。
「あら、私が意地悪だって思ってる?」
両腕を組み、ロッティーに聞くアリアンナ母さんに
「ううん。」
小さくかぶりを振るロッティー。
「そうね、今、ロッティーは魔法が使えなくて悔しいわよね。その悔しさは必要なことなのよ。失敗や挫折はバネになるわ。今だって、どうしても魔法を使いたいって気持ちになっているでしょう?そういう反発する気持ちは大事なの。」
ゆっくり優しくロッティーを母さんは諭す。
まあ、ロッティーは5歳になるまでほとんど失敗や挫折を知らないできただろうからな。
本当に特別な子供だったことだろう。
その初めての挫折が魔法か。
でもこれは期限があるでもなし、採点もあるものでもないからな。
ずっとイメトレできんだから、焦ることないさ。
アリアンナ母さんの話を聞いた後
「ん~~~~~~!」
眉間にしわを寄せて、ロッティーは唸る。
まあ、もうちょっと、肩の力を抜きなさいよ。
こんなん自転車と同じでさ、ふとした切っ掛けで出来たりするんだから。
などと出来もしない俺が考えていると、扉からノックの音が響く。
「入っていいわよ。」
アリアンナ母さんがラフな感じで言った。
「失礼します。奥様、お嬢様、夕食のお時間です。準備が整っておりますので、食堂へおいでください。」
と言って入って来たのは、メイド長のマーガレットだ。
「ご飯は後でいい、わたしは魔法の練習をするの。」
と、眉間にしわを寄せながら、人差し指に集中しているロッティーが言い出した。
「駄目よ、ロッティー、お父様とお爺様が待っておられるわ。練習はいつでも見てあげるから、行きましょう。」
アリアンナ母さんがロッティーを諭す。
「はい…わかったわ、母様。でもまたちゃんと教えてね。お願いよ。」
と、言うロッティーに、ニッコリ笑いながら
「わかってるわ、出来るまでずっと付き合ってあげる。」
ロッティーの頭をアリアンナ母さんは優しくなでるのだった。
「さあ、いきましょう。それとロッティー、魔法の練習は一人でしちゃだめよ。本当に危険なんだからね。約束よ。」
と、言うアリアンナ母さん。
「はい。」
ロッティーは母さんの目を見つめ返事をした。
そしてロッティーは母さんの手に自分の手を伸ばし
「母様。行きましょう」
お互いの手を取り、仲良く出て行く母娘。
しかし、ドアをくぐる前に足を止め、ベビーベッド方へ体を向けると、
「アベル、良い子でね。お休み!」
と、二人で俺に声を掛けるのだった。
はいはい、おやすみ。また明日ね。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
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