124.ローランドさんと会議は踊る。
124.ローランドさんと会議は踊る。
ローランドが連れて来られたのは、王城にしてはやけにこぢんまりとした会議室だった。
室内に居たのはヴィクトルIII世王、近衛騎士団長ガウェイン・オルブライト、セイナリア騎士団長バルド・レグナート、ウイリアム・セントクレア侯爵宰相、アルバート・パーシー公爵、ほか、警護の騎士が4人、メイドが4人、書記の文官が2人。
そしてローランド・ヴァレンタイン辺境伯が居た。
「パーシー公爵がいるのか。」
ローランドは、心の中で舌打ちをする。
「おう、来たな。はじめよう。まあ、二人とも座れ。」
王がそう言うと、メイド二人がそれぞれが座る椅子を引く。
上座の王に近いところに宰相が座り、王の対面にローランドが座る。
ちなみにパーシー公爵は宰相の対面。
ガウェインが宰相の隣、バルドがパーシー公爵の隣である。
「これじゃ、僕の査問じゃないか。」
そう、ローランドは心の中でつぶやく。
もちろん顔には出したりしない。
「二人とも良いな、では宰相、進行を。」
そう王が宰相に命令する。
王の命を得て、表情も変えず宰相が口を開く。
「はい。ではこの度の会議の議題について、城下町で起きました、爆発事件についてでございます。これについて、当事者でありますヴァレンタイン辺境伯が参っておりますので詳細を御報告願います。」
ローランドは緊張のためか、やや口の中が粘った状態だが口を開いた。
「では、詳細に説明いたします。今日9つの鐘の頃、私、我妻、私の子供二人、そして宰相閣下の奥方様を伴い、城下町へ買い物に参りました。衣料品店で買い物後、我が息子アベルが、火薬の匂いがすることに気づき、またアベルが馬車の下に導火線に火が付いた爆弾を発見、時間もなかったところに、アベルが機転を効かし、新魔法によって爆弾を空中へ投擲、そこで爆弾は爆発、城下町、及び当方の馬車と人員には被害は及びませんでしたが、新魔法の余波により、アベルは利き腕の神経と筋肉を切断する重傷を負いました。」
ローランドは事実を淡々と述べた。
そこへ
「なんだと!アベル坊主はそれで無事なのか!」
こう叫んだのはセイナリア騎士団長のバルド。
それを聞いたローランドは、少し微笑み
「はい、私共の家で食客として住まうものが居まして、そのものが知友魔法を使えるのでそれで何とか事なきを得ました。」
と、重ねて報告をする。
「その食客とはリーサ殿だな。」
王がローランドに確認する。
「左様でございます。」
ローランドはこう返事をした後、話を続ける。
「事件の詳細は以上となります。当方にはけが人なし。街の住人、家屋にも被害はありません。しかし、その被害を防いだ息子が唯一負傷した。それが我慢なりません。どうぞ、この事件の捜査の許可と人員をお貸し願います。」
そう言ったローランドは椅子から起立し、深々と頭を下げた。
「以上ですか、ヴァレンタイン辺境伯?」
そう、宰相が確認を取った。
そのあとすぐに王が口を開く。
「うむ、アベルの奴め、また新魔法だと?ヴァレンタイン辺境伯、アリアンナの魔法教育はどうなっておる?いや、今それを論じている場合ではないな。なればこそ、アベルの負傷は看過できんな。なにせ王家の、オリビアの婿候補だ。しかし、リーサ殿のお陰で腕は大丈夫なのであろう?」
「はい、あとは安静にすれば治るとのことでした。リーサ殿が居らぬば、腕が腐って落ちるとのことだったので、胸をなでおろす思いです。」
ローランドは婿の話はスルーした。
スルーされた王は苦笑いしながら
「どう見る、ガウェイン。」
「はい、捜査人員を貸すのはやぶさかではありません。何といってもエドワード元団長お孫さんのことですから。」
近衛騎士団長のガウェインはローランドに笑顔を向けながら言った。
「うちも出しますぞ。」
そう口を出したのはバルド。
「そうだな、市の騎士団員は必要であろうな。」
王もほぼ承認している。
「お待ちください。」
パーシー公爵が決まり始めた話に口をはさんだ。
「うん?公爵何かありますかな?」
王は頬杖をついて訝し気に聞いた。
「まずはヴァレンタイン辺境伯、お見舞い申し上げる。大事なお世継ぎだ。私も一度会ったが、利発そうな子だった。大切にしなさい。」
パーシー公爵は一度軽くローランドに会釈した。
「はい、ありがとうございます。」
ローランドもそれに答える。
「さて、騎士団の皆様は捜査に加わることに賛成のようだが、私はそうは思わぬ。」
パーシー公爵はその場にいる皆を見渡しながら言った。
「何故だ?公爵よ。」
王は、静かにパーシー公爵に質問をする。
「王よ、この話はもう既に終わっておるではないですか。街もヴァレンタイン辺境伯の皆にも被害はなかった。まあ、手出しした坊主は仕方ありませんが。」
「公爵はアベルの犠牲がたいしたことが無いとおっしゃるか!」
ローランドはつい感情的に発言する。
「まあ待てヴァレンタイン辺境伯。気持ちはわかるが、そう感情的になる出ない。公爵、仮に100歩譲ってだ、手出ししたのが悪いとして、その原因を作ったものを探さなければなるまいよ。」
「なに、辺境から来た一貴族が何者かに狙われた。そんなことで王都を、首都を騒がせても良いものでしょうか。」
「ふむ、伯父上はよほどヴァレンタイン領が気に食わぬと見える。」
王は今までよりさらに砕けた言い方になってパーシー公爵に話を向ける。
「そうではない、いちいち大事にすることもあるまいと言っているのだ。王よ、そうは思わぬのか。」
「思わぬ。ヴァレンタイン領は、防衛のかなめ、経済のかなめでもある。そこをぞんざいな扱いをしてはならんのだ。伯父上でもわかっておろう?」
「ヴィクトル!其方が甘い事を抜かすから、田舎貴族が増長するのだ!第一、こ奴は騎士学校も出ておらぬ冒険者上がりではないか!」
パーシー公爵はローランドを指さしながらまくしたてた。
「なっ!」
と、叫ぼうとしたローランドに割り込む声が上がる。
「それは違いますぞ、公爵閣下。」
ガウェインだ。
「ローランド卿は騎士学校など行かずとも、十分に騎士道に準じた人物ですとも。ローランド卿の経歴は皆まで言わなくてもわかりますでしょう。私の上司であった近衛騎士団長、剣では無敵エドワード・ヴァレンタインの息子にて、一閃の剣と言われる当代一の冒険者それが彼です。彼とはずっと一緒に剣技の研鑽を重ねたのです。」
「しかし!!」
パーシー公爵は声を張り上げる。
そこに
「伯父上もう止めんか。それ以上すると、伯父上を事件の首謀者として疑わねばならなくなる。もう黙られよ。」
王が静かにパーシー公爵を諭した。
「ふん、このような場所に居られるか!わしまで田舎臭くなるわ!!」
興奮したパーシー公爵はそう言ってズカズカ会議室を後にした。
「伯父上にも困ったものだ。悪かったな、ローランド卿。あまり気分を害さないでおくれ。」
「いえ、私こそ感情的になり場を荒らすところでした。陛下とガウェイン団長には感謝してもしきれません。ありがとうございました。」
そう言ってローランドは王に最敬礼した。
「礼はまだだぞ。下手人を見つけんことにはな。」
王がそう言うと
「そうだ、アベルの弔い合戦だ!」
バルドがそう声を張り上げた。
「バルドおじさん、アベルはまだ死んでないよ。」
ローランドが慌てて突っ込みを入れる。
「そうだった!!はっはっはっはっは!!」
バルドは豪快な笑い声を上げ、周りの皆はあきれるのであった。
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