123.ローランドさんと王城での折衝。
123.ローランドさんと王城での折衝。
ローランドは先触れも出さずに馬車を飛ばして王城へ向かった。
彼の脳裏に浮かぶのは、憔悴しきった妻アリアンナと、痛みはすでに感じず、ただ右腕をぶら下げているだけだが、それでも強がって見せる息子アベル。
その我が子を、文句も言わず治療してくれた、リーサ。
そして心配そうに見つめていた使用人たちの顔だった。
ローランドは、こうしたイレギュラーな行動を取る男ではない。
しかし、今回は息子が負傷し、城下町で爆破事件が起きた。
彼はこの事態を重く見て、先触れなしに王城へ急行する決断を下した。
だが、権威や役人は前例を重んじ、規則から逸脱する行動を嫌う。
案の定、彼は王城の門で足止めされることとなった。
「ヴァレンタイン辺境伯閣下!正規の手順を踏んでいただかなければ困ります!」
城門の警備をしている、近衛騎士に止められてしまった。
「先程の爆発は見えたであろう!その件について早急に陛下へ伝えたいことがあるのだ!通せ!」
無理に入ろうとするローランドを必死の様相で近衛騎士は止めに入る。
「お待ちください!なりません!」
「ええい!どうすれば通すというのだ!」
「ローランド卿、こちらへ。」
もう一人の近衛騎士が落ち着いた様子で、城門詰め所へローランドを促す。」
詰め所にある男が待っていた。
いやその男も息を切らしている、緊急で呼ばれたのだろう。
「アレクさんか。」
ローランド焦りと止められたことから、不機嫌に近衛騎士副団長アレクシス・カヴァリエに言った。
「アレクさんじゃないぞ!ローランド卿、いったいどうしたというのだ。いつも冷静な君が!」
「アレクさんは、先ほどの街での爆発は見たのか?」
ローランドは率直に聞いてみた。
しかし、アレクはかぶりを振った。
「いや、見たわけではないが、音は聞こえた。今頃、市の騎士団が調査に入っているであろう。」
ローランドはアレクの目をしっかりと見つめ言葉を発する。
「あれは、我々の乗っていた馬車が狙われたんだ。そのおかげでアベルが怪我をした。」
「なんだと!アベル君が。しかし、今すぐに通すわけにはいかんぞ。ほかに貴族のお歴々が中にいる。先触れ無しの卿を通すわけにはいかない。」
そう言って、細かく首を振るアレク。
苦虫を噛むような顔で、またローランドが発言する。
「そうか、これではどうだ。その馬車には、宰相閣下夫人も乗っていた。」
お義母様をこういう時に巻き込みたくなかった。
そう内心ローランドは思っていた。
「おお、そうか、卿の義母であったな。むう、あい分かった、ここは宰相閣下夫人にも被害が及んだと、宰相閣下にご報告しよう。その証人となってくれ。そうすれば通れるはずだ。」
「ありがとう、アレクさん。」
アレクは苦笑いを浮かべながら
「口実を作るのも我々の仕事さ。」
そう言って椅子から立ち上がると
「では行こう!」
そう言って、二人は王城へ向かうのだった。
ローランドが通されたのは、謁見の間控室。
「謁見などやっている場合か。宰相閣下に言って、状況さえ伝えられれば話はとおるはずだ。」
ローランドは一人、焦れた面持ちで控室の豪華な椅子に座っていた。
しかしローランドはこのしきたりが重要なのは承知していたため、無理なことは他には言わない。
知った顔の騎士が居ても、愚痴などは言わなかった。
「ヴァレンタイン辺境伯閣下、陛下がお呼びでございます。」
控室の扉があくと、きゃしゃな体の文官が、恭しくローランドに王との面会許可を告げる。
「やっとか。」
一つ呟くと、謁見の間に足を運んだ。
ローランドが謁見の間の扉の前に立つと、観音開きの扉が大きく開く。
そして赤絨毯を玉座の前まで歩き、跪いた。
「ヴァレンタイン辺境伯よ、此度の騒ぎの報告に参ったと聞いたが、本当か?」
王は、挨拶無しにローランドに問うた。
「はい陛下、左様でございます。」
「してその内容とはどのようなものだ。簡単に話せ。」
「はい、城下町の装飾店で買い物を終え、帰ろうとしたところ、我が息子アベルが異変を察知し、特異な魔法を用いて爆弾を投擲し、その際に負傷いたしました。
その馬車には、我が妻、娘、そして宰相閣下の奥方様もご一緒でございました。」
「なんと!それは仔細を聞かねばならぬ、宰相も気になるであろう、すぐ控室に戻り、準備が出来次第呼ぶので待っておれ。宰相も早く話を聞きたかろう。一緒に控室に行って仔細を聞いて参れ。」
王がそう言うと、立とうとしたローランドに一呼吸おいて王妃が声を掛ける。
「ローランド卿、アベルは無事なのですか?」
「はい、おかげさまで治癒魔法を使えるものが居たので、大事を免れました、」
それを聞いた王妃は心底ほっとした面持ちで
「そう、それは良かった。アリアンナもホッとしたことでしょう。大事にしてやってください。」
「ありがとうございます。」
ローランドは手短に挨拶を済ませ、控室に戻った。
そしてまたもや控室。
ローランドは先程の椅子に座っていると、裏のドアからウイリアム・セントクレア宰相が現れた。
「ローランド君、すまん、ここまで先触れ無しで辿り着くのは苦労しただろう。して、皆は無事か?」
「はい、お義父さん。女性たちは皆無事です。アベルだけが負傷を追って。父として情けなくて。」
ここまで言い切ると、ローランドは俯いた。
「うむ、気持ちはわかるが、まだ踏ん張らねばならんぞ。これから、サイネリア騎士団長、近衛騎士団長、陛下との懇談になるだろう。やらねばならないのは事件の捜査、そしてなぜ辺境伯一家が狙われたかを知ることだ。ローランド君の部下だけでは足りないのであろう?いかに近衛、アイネリア両騎士団から人員を借りるかが問題だな。」
ばっと顔を上げ、引き締めたローランドは
「そうです、捜査の許可と、捜査人員を借りるためにここに来たのです。私がしっかりしないと、アリアンナが今にも暴走しそうで。」
「ああ、我が娘はそうであろう。私たちといるときはアベルの憎まれ口を聞いていたが、あれは溺愛しているのであろう?留めておかなければ、何をするかわからん、それは父である私も知っていることだ。」
そう言う宰相の目の前のドアが開き
「他の皆様がお集まりです。お部屋にご案内しますので、どうぞ此方へ。」
そう言って入ってきたメイド達は、ローランドとウィリアムを別室へと促すのだった。
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