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121.アベルくんと迷医リーサちゃん。

121.アベルくんと迷医リーサちゃん。




 「待っていたわ、アベル。」

 そう言って空中で偉そうに腕を組みふんぞり返っているのは、妖精種のフェアリー・リーサだ.


「リーサちゃん、アベルのことが分かっていたのかい?」

 父さんが驚いてリーサに聞く。


 「そうね、虫の知らせよ。それに街中であんな爆発を起こすのは、そこの迷惑坊やしかいないじゃない。」

 誰が迷惑坊やだ、この迷惑神様め。


「とにかく、アベルをなんとかできるかい?」

 父さんが珍しく焦れている。


 俺の所為だな。

 父さんだけじゃない、ここに居る皆が俺のせいで焦っている。

 ゴメンね、みんな。


 

 「ローランド、アベルの部屋に運んでちょうだい。そこで状態を見るわ。」

 偉そうに、お前にただ飯食わせてくれてんのは父さんなんだぞ。

 「承知した。アリアンナ、アベルを。」

 そう言って父さんは母さんから俺を受け取る。

 

 「リーサちゃん!アベルは大丈夫なの!」

 母さんが絶叫する。


 「アリアンナ、落ち着いて。あたしの治癒魔法ならば治らないって事はないわ。」

 「ううう、ううう。」

 リーサの言葉を聞いて、母さんが嗚咽を洩らす。


 「ほら、ローランド運んでちょうだい。」

 「そうだな。行こう。」


 俺は父さんに抱かれたまま運ばれて行く。

 俺の右手はその間ぶら下がっているだけだ。


 俺の部屋の前にローズが居た。

 そして、俺を見て目を丸くする。

 

 「あべっ!!」

 「ローズ、今は黙ってドアを開けてくれ。」

 父さんがやさしくローズに言った。


 ローズは動揺しながらも俺の部屋のドアを開く。

 開いた途端に父さんは部屋に入る。

 そして俺をベッドに横たえた。


 「ご領主様、アベル様は一体…」

 「街でトラブルがあってね、皆を救おうとして、右腕が動かなくなったんだ。」

 「え、右腕…」

 そう言ったきり、ローズは言葉を発せなくなった。

 

 遅れて母さんたちが入ってきた。

 「リーサちゃん、私たちも見ていていいの?」

 「構わないわ。アベルについてあげて。」

 

 リーサがそう言うと、母さんはベッドサイドに来た俺の頭をなで始める。

 「そうね、アリアンナがそうしていれば、アベルも落ち着くわね。」


 リーサが言った言葉に、母さん事態が落ち着いたのか、リーサを見つめ強く頷いた。


 「さあ、始めましょうか。」

 リーサはそう言い、ベッド上の俺の右腕の上腕にフェアリーの小さな手を当てる。

 

 『アベル、聞こえる?』

 頭ん中に直かよ。聞こえてるよ。


 『魔素を使った、グリゴーゲンの筋肉のブーストを使ったのね。』

 ああ、そうだ。

 『5歳の身体に、無茶をしたわね。』

 仕方なかった。筋肉強化して、爆弾を放り投げなきゃ間にあわなかった。

 お前は見ていたんだろう?


 『まあね。』

 さて、どんな具合だ?

 

 『神経が切断されているわね。痛みを感じないのはそのせい。そのままにしておけば腐れ落ちるわね。』

 そうか、そんなこったろうと思った。


 「アリアンナ、左手をしっかり握ってあげて。」

 「リーサちゃん大丈夫なの?」

 母さんは心配そうにリーサへ質問をする。

 

 「状況としてはこうよ。アベルの体内に魔素が満たされているのは知っているわね。」

 「ええ、知っている。」


 リーサは空中を歩くように移動しながら、言葉を発し始める。

 まるで病室を歩く女医が患者の説明をするように。


 「アベルはその魔素をそのまま使うことが出来るようになったのね。魔法を使うには魔素溜りの魔素を魔力に変えて事象を昇華する。それがセオリーよね?」


 「ええ、そうだわ。」

 母さんはリーサが話す魔法の話を聞き、憔悴していた目に輝きが戻る。


 「アベルの身体にはその魔素が魔素溜りだけではなく身体中に満ちている。その満ちた魔素を直接使って、肉体を、筋肉を直接強化することが出来るようになったのよ。」


 「そんなことって…」


 「可能なの。もう2,000年前に滅んだ技術のはずだったのにね。」

 「魔素タンクも2000年前の技術だってアベルが言っていたわね。トレーサ神から聞いたと言っていたわ。」

 

 「私の場合は、妖精種は長生きな連中が多いから、昔の話をよく聞けたわ。それで知ったのだけどね。」

 

ふん、良くつらつらと嘘が出るな、トレーサ神様?


 俺は苦笑いしながら思考する。


 『うるさいわよ!』


 「まあアベルは今、そんなことが出来るのよ。だけどそれをやるには5歳じゃ早すぎたのね。だから腕の筋肉と神経がズタズタなの。それが今のアベルの右腕よ。」


 「リーサちゃんはアベルがそれをできるのを知っていたの?なぜ黙っていたの?」


 「アベルとの約束だったのよ。大きくなるまで言わないって。心配掛けたくなかったのね。この子は背負い過ぎなんだわ。」


 そんな約束してないけどな。


 『あんたのためにフォローしてんでしょ!』


 へいへい。


 「この子、いつも黙って。そんなことまで。」

 俺の手を握る母さんの強さが上がる。


 「まあ、ざっくりだけど状況は以上ね。とりあえず神経をつなげる治癒魔法は掛けるわ。筋肉の方は、自然に治ろうとする力が働くから、しばらく痛むだろうけど、そのままにするわね。そっちの方が強い身体になるから。アリアンナはアベルが痛がってもあまり心配しないでね。」


 「分かったわ。ありがとう、リーサちゃん。」


 そう言った母さんに向かって、リーサは


 「まだ魔法をかけていないわよ。お礼はそれが済んでから。ビスケットがいいわね。」


 「分かったわ、美味しいの用意するわね。」

 さっきまで憔悴しきっていた母さんの顔に少し笑顔が戻った。


 「さてアベル。やるわよ。」

 「お手柔らかに」

 俺がそう言うと


 「神経つなげんのよ。そんな優しくできるわけないでしょ。ビリビリするわよ。」

 リーサは両手をワキワキする。


 「マジかよ!おい!リーサ!聞いてんのか!」


 と、いう俺の声も聞かずに


 「さあ!はい!」

 その気合とともに、リーサは俺の右腕に魔力を通した。


 「うげっ!あああああああ」


 俺はあまりのしびれ具合に変な声が出てしまう。




 正味1分間か?




 「ほい、終わったわよ。」

 リーサはニヤつきながら俺の顔を覗き込む。


 「りーさーーーー!」


 俺は腕の感覚が戻っていたことを忘れ右腕を振り上げた・


 「うぎゃ!」

 俺はあまりの腕の痛さに悲鳴を上げた。

 

 それを冷静に見ていたリーサは

 「当り前よ、筋繊維切れてんのに腕を振り上げるから。極度に悪い筋肉痛だと思ってなさい。」


 「また筋肉痛かよ。」


「アベル!右腕が上がったわね。」

 母さんがベッドに乗り出し、俺の額の汗をぬぐう。


 「母さん、また心配掛けちゃったね。ごめんね、いつも。」

 俺がそう言うと

 「そうよ、また心配したわ!あなたはいつも無茶するから。でも治って良かった。リーサちゃん、ありがとう。」

 

 「いーえ。居候が仕事しただけよ。」

 と、リーサはのんきに言った。


 


 その後ろで、険しい顔をした父さんが部屋から出ていくのだった。




ここまで読んでいただき、有難うございます。

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