120.アベルくんと危険な香り。
120.アベルくんと危険な香り。
ようやくご婦人方の買い物も終わり、表に全員でる。
そこには護衛のチャールズ、ユーリ、そしてメイドのカトリーヌとエミが待っていた。
「おまたせ!」
俺は笑顔でみんなに言った。
俺の笑顔を見てみんなは少しにこやかになるが、すぐに俺たちに一礼して、メイド勢は荷物の受け取りに奔走する。
もちろん重いものはチャールズ達も手伝う。
しかし護衛のため、あまり手伝うことは出来ない。
しかし、母さんたちは買った買った。
店内に入ったカトリーヌがいくら払ったかは知らないが、結構な額だったに違いない。
俺たちはバタバタしていた。
でも母さんと婆ちゃん、ロッティーはすでに馬車の中でくつろいでいた。
俺も馬車の中に入ろうとしたとき、なんだか懐かしい匂いが漂ってきた。
キナ臭い、物騒な匂い。
火薬!?
「父さん、不味い!!」
俺は父さんに向かって叫ぶ。
「どうしたアベル!」
「火薬だ!!どこか分からない。でも近い。」
「む!確かに。チャールズ!この付近に爆弾があるぞ!!」
俺は首を左右に振り、あたりを見渡す。母さんたちの乗った馬車の後ろから煙が出ていた。
ヤバい!!
俺は馬車の後ろにもぐりこむ。
小さい身体だから、楽に滑り込んだ。
「あった!!」
それはまだ長めの火のついた導火線が付いていた。
なんだろう?割と強い接着剤のようなもので取り付けてある。
俺は「うー!」と力を入れてなんとか引っぺがした。
導火線は火が消えていない。
俺は導火線が引き千切れないか試してみた。
しかし、かなり丈夫で、俺の力で引きちぎれそうになかった。
「父さん!足を引っ張って!!」
「父さんは馬車からはみ出た俺の足を素早く見つけ、思いっきり引っ張る。
俺の身体中が石畳で擦れて痛いが、そんなことは言っていられない。
俺は爆弾を抱えて馬車から滑り出る。
導火線はあと3センチ程度。
俺はここでブレインブーストを使う。
目の前が薄黄色に染まり、父さんの動きが遅くなる。
あと2センチ、父さんに渡している暇がない。
俺は精神を右手に集中。
すると、右腕すべての筋肉が共鳴したかのように
「メリッ!」
と、鳴った。
見ると見事に右腕がパンプアップしている。
ブレインブースト中でも右腕はある程度のスピードを誇っていた。
そのままの体勢で、爆弾を空中に思い切り放り投げる。
俺はブレインブーストを切り
「みんな!伏せて!!」
と叫んだ。
爆弾は思いのほか高く上がり、やけに派手な音で
「ドカン!!」
と、爆発した。
しかし音の割に被害が出るような爆発ではなかった。
でも、馬車の一台くらいは爆破できただろう。
「はぁはぁ。」
俺は肩で息をして、その場でへたり込んだ。
「アベル、大丈夫か?今のも魔法か?」
「そうだね、そんなようなもんだよ。」
そう言って父さんに笑いかけた途端、急激な痛みが右腕を襲った。
「うがぁぁ。」
俺はうめき声を立てながら、道路でのたうち回る。
父さんは俺を抱き上げると、素早く皆が乗っている馬車に乗り
「今日の買い物は中止だ。アベルの様子を見ると、リーサちゃんに見てもらった方が良いと思う。」
と、乗車していた皆に言った。
「アベル!」
母さんは俺を父さんから奪い取り、自分の膝の上にのせる。
そして
「ローランド!誰がやったの!!」
初めて聞く母さんの憎悪がこもった声だ。
「まだわからん。周りの商店や、うちの使用人たちにも聞き込みしないとな。」
「許さないわ。絶対。絶対許さない。」
「協力を要請するために、君たちを送ったら王城に言ってくるよ。」
「母さん・・」
「アベル!大丈夫?何処か痛いの?」
「右腕がね。動かないんだ。でも大丈夫だと思うよ。リーサが治してくれると思う。」
「そうね、リーサちゃんは治癒魔法が得意ですもの。きっと大丈夫よ。大丈夫。」
俺を抱きながら、どんどん憔悴していく母さん。
見てられない。
「アリアンナ、アベルが大丈夫って言っているでしょ。落ち着きなさい。母親のあなたが落ち着かないでどうするの。シャーロットにも伝播するでしょ。」
婆ちゃんは母さんの肩を抱きしめ優しい声でなだめる。
ところがそのロッティーが母さんの前にしゃがみ込み、俺の力なくぶら下がっている右腕を持ちながら泣き始めた。
「アベルごめんね、また役に立てなくてごめんね。」
ロッティー止めろ。
自分を責めるな。
「姉さん、大丈夫。姉さんの所為じゃないもの。だから自分を責めないで。そんなに泣くと可愛い顔が台無しだ。」
俺がこう言うと、ロッティーは俺に抱き着いてまた泣き始めた。
シャツが涙でビショビショだ。
しかし、今度は右腕の感覚がない。
神経逝っちゃってんのかな?
まずいね。こりゃ。
でも家族が無事なら腕の一本仕方ないさ。
そして別邸に着き、馬車のドアが開く。
そのドアの前に、小さの妖精が飛んでいた。
「待っていたわ、アベル。」
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