119.アベルくんと買い物の続き。
119.アベルくんと買い物の続き。
微妙な空気の中、口を開いたのは実は俺。
「ここの買い物早くしてさ、ご飯食べない?」
「そうね、話の続きは帰るまでにいつでもできるわ。」
と、婆ちゃんも今までの話を切った。
「あまりこの話題はしたくないけど、まあ必要だからね。仕方ない、ドレスを決めて、ローランド。」
「そうだね。僕にも必要な話だけど、まあ後にして、ドレスを選ぼうか。」
「君にはこの淡いベージュのドレスだろうな。」
「ローランド、なんで?」
「君もドレスも引き立つからさ。君が中心で、君が綺麗なんだから、一見地味に見えるドレスも君が着れば引き立つんだよ。」
「合格ね。流石だわ。私の愛しいローランド。」
そう言うと父さんに抱き着き口づけをかわす。
「これはさっきの話、野暮かもしれないわね。」
父さんと母さんを見ていたボソッと婆ちゃんがつぶやく。
「まあ、そっち見ないでこっち見てよ。」
俺はドレスの方に指さす。
「アベル、落ち着いているわね。」
「まあね。いつものことだから。」
「あら、いつものことなのね。やはりあれね、貴族の中だけで居るより、冒険者になって自由な気風に触れたせいなのかもしれないわね。」
「そうなのかもね。」
俺はあえてそっけない対応をする。
だっていつものことなんだもの。
「よし、その薄いピンクのドレスはどう?」
「このピンクが婆ちゃんに似合うかしら?派手ではないの?」
「お年を召されると、地味にいくか、もっと派手になるか二極化するそうなんだ。でも婆ちゃんは今の服装を見ても自分のスタイルが決まっているでしょ?それをちょっとだけまだ若いところに持って行くことが重要だと思うんだよ。」
そして俺はさっきのドレスを指さし
「だからこれさ。婆ちゃんにピッタリだと思うよ。」
婆ちゃんはまだ首をかしげている。
「店員さん、ちょっと婆ちゃんに合わせてもらっていい?」
「はい、では私がお持ちいたしますので、この鏡の前にお出で下さいませ。」
店員さんからドレスを持ってもらい、鏡の前でドレスを合わせる婆ちゃん。
自分の身体に合わせてドレスを持つ婆ちゃんの顔がぱぁ!と明るくなる。
「お坊ちゃま、凄いですね。奥様にピッタリです。」
店員さんが俺を持ち上げる。
持ち上げるべきは、そのドレスが似合う婆ちゃんの方だ。
「どう?派手かな?」
俺は婆ちゃんに確認する。
「私には派手かもしれないわ。でもこのドレス良いわね。着てみたいと思う。」
「そう、良かった。」
俺は婆ちゃんに笑いかけた。
そして店員さんに向かって
「店員さん、これのサイズを合わせてもらってください。」
「はい、では奥様こちらにどうぞ。」
そうやって店員さんは採寸をするのに婆ちゃんを奥に引っ込めた。
「ふう。」
「アベル、やるじゃない。母様は頑固だから、父様でもこうはいかないわ。」
こちらをうかがっていた母さんが俺に話しかけた。
「うまく行ったかな?」
「あの顔は嬉しい時の顔よ。流石ローランドの息子ね。」
「いや、センスはアリアンナ譲りさ。」
父さんがすかさず母さんを褒める。
「うふ、ローランド。」
「アリアンナ。」
もう、いい加減にしろよ…
そんなことを思っていると、婆ちゃんがドレス姿で参上した。
あの薄いピンクのドレスは、白に近く、光の加減で薄いピンクになり、いろんな顔を見せる。
まだまだ若々しい婆ちゃんにピッタリだった。
「アベル。どう?」
「ね、婆ちゃんはまだ若くて綺麗だって言ったでしょ?」
俺は笑って婆ちゃんに言った。
「母様良いじゃないの。私が着てもいいくらいのものだわ。」
母さんが口をはさむ
「そうだね。アリアンナも似合いそうだ。」
お前ら黙れ。
「お婆様、ずるい。私もアベルに選んでもらいたいわ。」
次元の淵から蘇ったロッティーやって来た。
「姉さんにはもう決めてあるんだ。」
俺はこともなげに言ってみせた。
「あら、アベルは抜け目ないわね。」
母さんが言ってくる。
「さっき目に入ってね。姉さんに似合うんじゃないかなって思っていたんだよね。」
それは子供用の純白のドレスだった。
「母さん、子供用なら白はいいんだよね。」
「そうね、子供用なら王城に着て言っても問題ないわね。」
王城では白のドレスを着用してはダメなんだそうだ。
王室の女性だけなんだってさ。
婆ちゃんは白に近いピンクだし、ロッティーは子供だからセーフなんだと。
俺はロッティーの方を向いて。
「姉さんも合わせて見なよ。」
「アベルがそう言うなら。」
姉さんは頬を染め、ドレスを抱きしめる。
ダメ、ダメ、しわになるでしょ。
店員さんが慌てて取り上げ、採寸のために奥へ引っ込む。
「アベル、今日は大活躍じゃない。」
母さんがそう言う。
まぁねぇ。ご婦人二人なら何とか。
母さん相手だと5人分くらい憔悴するかもしれない。
やっぱり父さんはタフだよ。
「やっとこれでご飯かな?」
父さんがホッとした顔で言った。
「駄目よ、街で着る服と普段着、下着も買わなきゃ。」
父さんと俺へ一気に疲労が襲い
「「マジかぁ…」」と二人で言いって、黄昏るのだった。