118.アベルくんと高級婦人衣料服店。
118.アベルくんと高級婦人衣料服店。
馬車が到着したのは婦人衣料のお店。
下着からドレスまで、婦人衣料なら何でも売っているそうだ。
この世界にブラはないよ。
だから母さんのようにデカい人は、ゆっさゆさだ。
でもね、それじゃ歩きにくいんで、さらしのような物を巻いているみたい。
生まれたばかりの頃は母さんから母乳を飲んでいたけど、その後マリアさんだったからね。
エルフの血が入っている、マリアさんはさらしいらないし。
まあ、最初に婦人衣料店に来たのは、ご婦人方の買い物は長くなるから。
父さんの采配だ。
「父さん、僕らもお店に入るの?」
「まあね、ここで男としての技量が求められるんだよ。」
「なにそれ?」
「見ていれば分かる。いずれお前もやらなければならないさ。」
「なんだか怖いね。」
「ある意味ね。」
父子でそんな話をしている最中に、既にご婦人方は店内に入っていた。
がっつき過ぎだろう。
などと思っても言わない方が良いのだ。
たぶん。
「さあ、僕らも行くぞ!」
父さんはずいぶん気合が入っている。
「はーい。」
俺は状況が分からないため、とりあえずあいまいな返事をした。
衣料品店の中はなかなか豪華絢爛。
外壁は純白の漆喰に絵画が飾られ、天井からはシャンデリアのような魔道具が吊り下がっている。
展示してある服は、煌びやかなドレスだけではなく、ちょっとした外出時に着るようなワンピース。
スカートやブラウスなど、所狭しと展示してある。
また衣料品屋なのか?思うほど広いんだよ、ここ。
だから、かさばるはずのドレスなどが、かなりの数展示してある。
俺は小さい身体で、くるくると探検し始めた。
こういう時はこの身体が便利だ。
ドレスコーナー、私服コーナー、何かの制服コーナー、へー、型紙も売ってる。
そして奥まったところにある下着コーナー。
ズロースの様なパンツに、ペチコート、キャミソールの様な下着もある。
「アベル!そっち行っちゃダメ!そこは男性厳禁よ!」
と、母さんに怒られた。
履いていない下着などどうということはない!
筈じゃないの?
渋々母さんたちの所へ行く。
「何これ!?」
所せましとドレスが並べてある。
「これ全部買うんじゃないんでしょ?」
俺は恐る恐る母さんに聞いてみる。
「当たり前でしょ、買ってもいいけど馬車に載せきれないわ。」
母さんはとてもとても豪儀なことを言った。
買ってもいいけどだと…?
俺は父さんの袖を引っ張って
「うちの財政は大丈夫なの?ご婦人方の贅沢で揺らがない?」
と、聞いてみた。
「まあ、これくらいならね。貴金属はさすがに慎重になってもらわなきゃならないけどさ。」
まあ、アルケイオン様の喜捨だけで大金貨2枚払う家だからな。
これくらいは俺が心配するほどでもないのかもしれない。。
「ローランド、この中でどれがいいと思う?」
母さんが父さんに聞いている。
「アリアンナはどれがいいんだい?」
「私はあなたに聞いているのよ。」
これか!
「このすみれ色なんて、これからの季節に良いんじゃないかな?」
「そうね、いいかもしれないわ。」
これは外れだな。
「店員さん。僕、喉が渇いちゃった。お水頂けますか?」
「そうですね、お坊ちゃまには退屈でございましょう。ではこちらのテーブルにどうぞ。」
俺は彼らから離れたテーブルに案内され、リオラのジュースを頂くことになった。
ちなみに、父さんは恨めし気な目で俺を一瞬見たのだった。
ふふん
そこに婆ちゃんとロッティーが連れだってやって来た。
「姉さんと婆ちゃんは買い物しないの?」
するとロッティーは伏し目がちに俺を見ながら
「私はそんなに服に興味ないもの。母様の選んだ服を着られれば良いのよ。」
「え?そうなの?姉さんは人より可愛いのだから、いい服を選んだ方が良いと思うんだけど。」
「あら、アベルに可愛いって言われちゃったわ。嬉しい。」
そう言うと、ロッティーの思考は別次元に旅立ったみたいだ。
「婆ちゃんは買わないの?」
「私は今の流行にはついて行けないもの。今ある分で十分なのよ。」
「そんなことないよ。婆ちゃんは十分若くてきれいなんだから、流行りの服を着れば十分映えるよ。きっとね。」
「まあ、嬉しいわ。シャーロットが夢中になるのもわかるわね。身内でもこれですもの、さぞかしモテるようになるわ。あまり女の子を泣かしちゃダメよ、アベル。」
俺は椅子を降りて婆ちゃんに手を差し伸べる。
「奥様どうぞお手を。」
「うふ、ありがとう、小さな騎士様。」
「じゃあ、婆ちゃん買いに行こうか。」
「そうね、アベルが選ぶのよ?」
「グハッ、それは不覚。」
「では騎士様、行きましょう。」
「はい奥様。」
そして、俺と婆ちゃんは手をつなぎ、母さんたちのところまでやって来た。
「母さん、この中から婆ちゃんのドレスを選んでいい?」
「あら、いいわよ。母様も買うの?さっきはいらないって言ったのに。」
「そうなんだけど、アベルが私のことを若くて綺麗だから選んであげるって言うのよ。嬉しいわ。」
いや、選んであげるまでは言ってない。
「ふーん、アベルがねぇ。」
母さんは訝しげな目線を俺によこす。
「この子は将来沢山女の子を泣かすわよ。気を付けないといけないわ。」
「義母さん、それは陛下にも言われましたよ。慰謝料の貯金をしとけって。」
父さんはハハハと笑いながら俺の悪口を言った。
さっきの意趣返しだな。
「もう泣かしてんのよ。この子は。」
母さんがありもし…ローズかぁ。
「まあ、アベルいけないわよ。女の子はね、大事にしなきゃダメなの。いい?分かったわね。」
「婆ちゃん、何もしていないのに勝手に好きになられて泣かれるんだけど、僕は部屋か塔にこもらなきゃ駄目だね。」
「それはあなたの立ち回り方によるの。うまく立ち回ればそのようにはならないはずよ。でももう一つ手があるわ。」
「どうするの?」
「全部貰っちゃいなさい。あなたにはそれくらいの甲斐性あるもの、大丈夫よ。」
「婆ちゃん、俺は爺ちゃんと婆ちゃん、父さんと母さんみたいに二人仲良くしたいんだ。」
「それなら今日私にしたようなことを軽々しくしちゃダメよ。心に壁を作るの。顔は鉄面皮って言われるほどじゃないとダメね。それにね、爺ちゃんはちゃんと妾が居るわよ。」
「爺ちゃんお妾さんいるの?」
「そうよ。爺ちゃんと私の間にあなたの伯父さん、ジェームスが産まれて、今は元気に子爵になって領地経営の修行をしているけれど、いつどうなるかもしれないもの。セントクレア家を残すためなら、仕方ないのよ。」
俺はそこで父さんと母さんを見た。
「ローランド卿とアリアンナは特別、というよりエドワード様もね。今でもあなたの亡くなったお婆様、アメリア様を愛していらっしゃるわ。」
「僕もどうなるかわからないよ。実際色々あったし。」
「そうね、アリアンナ、どうするの?」
「母様、ここでする話ではないわ。」
店内が、ちょっと気まずい雰囲気に変わった。
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