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116.アベルくんとエルフとドワーフ。

116.アベルくんとエルフとドワーフ。




 俺が意識を失った日から二日経った。

 リーサが言うように、時間が経てば頭痛はなくなった。


 俺が元気になったので、父さんとの剣の修練とトラウマ克服に励んでいる。


 父さんの所作に集中、すると例の如く薄黄色に目の前が染まる。

 そして世界が遅くなる。


 問題は、俺の動きも同じように緩慢になることだ。

 当り前だ、見えるものは遅くなるが、自分の肉体がそれ以上早く動くほど強化されるわけではない。

 

 でも相手には俺が先読みしているように動いていると見えるらしい。

 俺はゆっくり動く剣の軌道を認識して、その先を見越し、自分の剣が払う、もしくは自分が避ける動きをすればいいだけだ。


 ただし父さんが本気を出せば、父さんの剣の動きがスローで見えたとしても、緩慢な自分の動きが間に合わず撃沈してしまうだろう。

 一閃の剣という二つ名が示すとおり、剣の速さが半端ない。


 だからさ、父さんの本気を引き出せたことはないんだ。


 5歳の身体じゃ無理だって。

 魔素で筋肉強化すればって?

 まだ仕上がっても居ない身体の筋肉を強化したら、どんな不具合が出るかわかんないじゃん。


 まあ、そんな練習はハイティーンになっても遅くない。


 トラウマの方はね、ずいぶん楽にはなったよ。

 涙が出たり、上ずった声が出たりって事はなくなってきた。


 けど、やっぱり剣を振り上げられたら怖いけどね。


 怖くなったら、脳のクロックアップだ。

 言いにくいから、仮にブレインブーストとでも言おうか。

 厨二臭いな、おい。

 ゾクゾクするぜ。



 というわけで、この日の午前中も父さんと汗を流した。

 で、今日はいつか約束した例のシャーベットを屋敷のみんなに振る舞う日だ。


 メタな話をして悪いんだけど、作るシーンは2回もやっているから省く。


 シャーベットを作るのを手伝ったのは、この屋敷の執事兼料理人のドワーフ、アーサーだ。

 ぶっきらぼうの口調だが、人懐っこい表情でかなり面白いおっさんだ。



 俺が指揮して、アーサーが作る。

 毎度言っているが、調理台に俺は届かないんだ。

 ええい、無理を申すな。


 出来上がったシャーベットを食堂へ持っていく。

 食べるのは僕の家族とメイド勢、あとは執事の二人だ。



 騎士団の10名?

 修練だよ。

 何言ってんだ。

 騎士なんて身体を動かしてナンボなんだぞ。



 食堂の子供用の椅子に腰かけて、シャーベットを突いていた俺に話しかけてきたものがいる。


 「アベル様、これはさっぱりして美味しいですね。」

 話し掛けてきたのはエルフ執事のヨハンだ。

 こいつは子供好きなんだよ。

 だから、シレっと俺を構いに来る、可愛い奴だ。

 

 「でしょ?もっと暑い日の方がいいとは思うんだけど、こういう爽やかな日に食べるのもいいよね。」

 俺の隣の椅子に腰かけ、にこやかに接してくるヨハンに、俺も笑いながら反応する。

 俺はシャーベットの入っている器を持ちながら、ヨハンの方を向いて話をする。


 そこに一緒に作っていたアーサーが ズイッと俺の横から入って突っ込んできた。


 「作ったのはわしだぞ、エルフ。」

 気に食わんと顔に書いてある表情でヨハンに対して文句をたれる。


 「ふむ、しかし、レシピのご教示及び作業指導をアベル様からして頂けなかったら作れなかったんだろう?ドワーフ。」

 ヨハンはあくまで涼しい表情、何処吹く風だ。


 「なんだと!?」 

 もうキレんのかよ。

 すでに拳まで握っているし。

 

 「はい!そこまで。君らなんだ?テンプレ状態でエルフとドワーフが喧嘩して。」

 俺が慌てて二人を止める。


 「坊っちゃん、なんだ?そのテンプレって。いや、いつもこいつが絡んでくるんだ。本家の執事だと思って威張りおって。」

  今にも食いつかんとばかりに、アーサーは俺にまくしたてる。


 「私は絡では居りません。そこのドワーフの被害妄想でしょう。」

 ヨハンの目つきは俺には慈愛を讃えた優しい目を、アーサーには凄腕スパイが暗殺する時の冷たい目だ。


 「わかった、わかった。でもね、ヨハン。アーサーが居なければ作れないのは確かなんだよ。なんと言っても、僕はこの背格好だろ?炊事場のシンクにすら頭が出るかどうかだ。料理上手で器用なアーサーが居たからこのお菓子は出来たんだよ。ヨハン分かったね。」

 俺は今にも暗器を出しそうなヨハンを嗜める。


 「アベル様が謙虚なのは、前から承知しております。ドワーフが図々しいのも承知しておりますが。」

 「エルフ!!貴様!言わせておけば!」


 アーサーが怒鳴る。

 それを俺は見て

 「お前らめんどくさいね。もう黙ってあっち行け。」

 俺は片手でシッシッとポーズをする。


 「アベル様!私は決して面相臭いなんて事はあり得ません!」

 「坊ちゃん、カンベンしてくだせぇ!」

 二人とも、俺に邪険にされて驚いたのか知らんが、必死だ。


 「そっからもうめんどくさいじゃん。お前ら長命種のくせに、この先何年同じケンカすんだよ。」


 「アベル、うちの有能な執事たちをあまり虐めるなよ。」

 そこへ颯爽と父さんの登場。

 ヨハンはスッと椅子から立ち上がって父さんに一礼する。


 「だって、この二人種族出して喧嘩始めんだもん。種族ではなく個人で喧嘩するならまだしも。」

 俺がそう言うと父さんはちょっと考えて


 「エルフとドワーフの確執は根が深いからね。原因は僕も知らないけど。君ら知ってる?」

 

 そう言って、ヨハンとアーサーに義もを呈す。

 「ドワーフは山を崩すからです。資材や宝石のために山を切り崩すなんてもってのほかです。」

 ああ、いかにもエルフっぽい話だ


 「エルフが強情すぎるんだ。切り崩すとしても、坑道前の集落作りと坑道入り口だけだ。中に入っちまえば、エルフが使う表面なんぞ興味ないわい。」

 こっちもテンプレのドワーフ。

 イギリスの有名作家もヴァリノールで泣いているだろう。


 しかし、前世の環境保護団体VS採掘業者、重工業企業みたいなこと言ってんな。

 これってお互いが妥協点の摺合せできないと解決できないんだよね。

 エルフもドワーフも頑固そうだから、拗れちゃったんだろうな。


 「でもさ、ここでお前らがそんな種族間の普遍的いざこざでいがみ合っても仕方ないだろ?これ以上いがみ合うならヴァレンタイン家には不具合しかないと思うな。」

 俺は二人を下から眺めながらそう言った。


 「まあ、ちょっとアベルの言い方はキツイけどそのとおりだね。互いを認め合ってこそのヴァレンタイン家の一員だ。ちゃんと互いの良いところを見てやってくれ。」

 父さんはあくまで爽やかに俺のフォローと二人への指導を行う。

 出来た人だ。


 「そうそう、ここの家にはエルフとドワーフの確執なんて関係ないんだ。居るのはヨハンとアーサーなんだよ。そしてこの二人はヴァレンタイン家には必要だ。これからも父さんと僕のために働いてもらわないと困るんだから。ケンカしないで、認め合ってね。互いの凄いとこも知っているから、ケンカになるんでしょ。そこは素直に認めてさ。頼むよ、期待してんだからさ。」


 俺がそう言うと一瞬二人ともぽかんとして


 「ほら、二人とも握手。」

 俺が握手するよう促す。」


 すると

 「ドワーフの岩のような手など握れますか。」


 「エルフの枯れ葉のような手など握れんわい。」

 などと言ってまた言い争い始めた。


 すると、俺の隣にいた父さんの雰囲気が一変する。

 「君たち、アベルの言ったことが理解できないのかい?」


 顔は爽やかないつもの父さんだ。

 しかし出ているオーラが猛獣のそれだ。


 「ヒッ!」

 一瞬アーサーがおびえる。

 ヨハンはそのオーラを風のように受け流している。


 「大変申し訳ありませんでした。ご領主様、アベル様。感情で推し量るなど、執事としてまだ未熟な証拠。これからもご指導いただけると幸いです。」

 そう言ってから、ヨハンはアーサーに手を差し出す。


 「これはアベル様の指導です。これからもあなたのことは見張ります、いいですね。」


 認め合えと入ったが、見張れとは言ってない。


 「坊ちゃんが言うんじゃ仕方ねぇ。手ぇぐれぇ繋ぐさ。」

 アーサーはそう言ってヨハンの手を握った。


 母さん以外の女性たちが皆ビビッてこちらを見ている。

 父さんの殺気がにじみ出ていたからね。

 あんなんまともに浴びたら、女性陣は失禁じゃ済むまい。


 多少気まずくなった俺は手をパンパンと叩き俺の方へ注目を集める。


 「おかわり有るからね。食べたい人はアーサーに言って。」




 そう言うと、また和やかな食堂に戻るのだった




ここまで読んでいただき、有難うございます。

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