115.アベルくんと頭部の魔素。
115.アベルくんと頭部の魔素。
母さんは身体を離し、俺の額の前髪を払いのけながら
「また眠れる?」
と、聞いて来た。
「努力はするよ。」
「まったく、あなたは。早く寝なさいね。」
穏やかな含み笑いを母さんは見せ、ベッドサイドから立ち上がると
「おやすみ」
と、言って扉を閉めた。
母さんが行ってしばらくぼうっとする。
心地よかったな。
そんなふうに思っていた。
昼の恐怖から穏やかな時間、今日一日がとても長く感じる。
その俺の目の前に無数の光の粒が俺の前のあらわれ、収束して人の形を作り出す。
その光がはじけて消えると、そこに浮かんでいたのはリーサだった。
「やっと皆いなくなったわね。」
そういうリーサに俺は
「見てたのか?」
と、聞いた。
「見てたわよ。親子愛。いいじゃないの。」
そう言い切ったリーサはにんまり厭らしく笑った。
「からかうんじゃないよ。なにしに来た?」
「眠りに来たに決まってんじゃない。」
「だから、神が眠んなよ。」
「神も眠いのよ。」
「イタ!」
また頭が痛みだした。
「どうしたの?」
リーサがぶっきらぼうに聞いてくる。
「起きたときから、頭痛がするんだよ。」
「ああ、あの時脳を使いすぎたのね。」
「あの時って、父さんの剣を受けた時か。」
「そう、あんた、まるでローランドの剣が止まっているみたいに受けたでしょ?」
「あの時はそういう感覚だったな。」
「脳が動きを細分化したのよ。」
「そんなん出来んの?」
「あんたやったじゃないの。あの時はこうよ。魔素が眼球を強化。」
リーサは人差し指を立て、ピンと伸びた姿勢で空中を歩く。
まるで学校の授業をやる教師ような雰囲気で話し始めた。
「うん。」
「そして、脳も魔素で強化したのよ。あんたの世界の言語でどう言えばわかるかしら、そうね、クロックアップ。」
「でもさ、そんなん眼球の強化だけで何とかならんの?脳の強化まで必要なのかな?」
「あんた、眼球は見るだけなのよ。物体が光を反射したものが目に入り、瞳が光を絞り、水晶体を通って網膜がそれを信号に変え、脳に送るだけなのよ。それもひっくり返ってね。ピンホールカメラと同じよ。」
「なるほど、一眼レフカメラのボディが脳ってわけか。」
「お利口ね、そのとおり。目はアナログだから、解像度は無限だけど、処理するのは脳だからそれが遅いと身体も動かせないでしょ。普通は脊髄反射がその役割をするけど、それはあくまで反射だからね。」
「反射を飛び越えたってこと?それなら俺がしゃがみ込むことがなかったことも説明が付くな。あれも反射だもの。」
「そうね、脊髄反射が必要なくなるまで視覚と認識が高まったのよ。」
「魔素がその力を与えた?」
「与えたって言うか、栄養を変化させたのよね。」
「脳の栄養って、グリコーゲンだろ、糖分の。」
「あんたよく知っているわね、さすが貧乏しても勉強だけはしっかりしただけあるわ。」
「うっせいよ、グリコーゲンがどう変質するんだ?」
「本質は変わんないのよ。ただ効率が良くなるのよね。だから、脳がクロックアップしたとしても、急激にエネルギー消費が高くなるわけじゃないの。あくまで効率が良くなるだけね。」
「でも頭はくそ痛いぞ。」
「だから、効率が良くなったら、勝手にちょっとは多く使っちゃうってのが生命ってモノじゃないの。」
「はあ?」
「この世の生物は、皆効率悪いのよ。多く使ったり、制限掛けたり。まあ、身体を守るように出来ているのよね。」
リーサはまだ教室を歩くように背を伸ばし、空中を歩きながら説明をする。
「確かに、火事場の馬鹿力もそれが所以だからな。」
「その例えが出るのはたいしたものだわ。みんな拍手~。」
「みんなって誰だよ!」
「でもそれよ、ちょっとあんたは使いすぎたの。慣れていないからね。今の頭痛は筋肉痛だと思いなさい。じきに治るわ。慣れれば頭痛も起こさなくなるでしょう。」
「そんなものなのか?」
「そんなものよ。」
あ!おい、俺今変なことを思いついたぞ。
「リーサ、グリコーゲンが変質するってことはさ。」
「うん。」
「筋肉のグリコーゲンも変質すんの?」
「そうね、するわね。」
「効率よくなるってことはさ。」
「より強く、より長く動けるってことね。」
「それってヤバくね?スーパーマンじゃん。」
「いまさら何言ってんのよ、酸素を自由に出せる人間がスーパーマンじゃなくて何なの?」
「あ~ね~。」
俺はボンヤリ考えながら返事をする。
ん?
「これって、俺TUEEEEじゃん。」
「まさに、俺TUEEEEね。」
「馬鹿らし、寝よ。」
「そうね、寝ましょう。」
こうして深い眠りに落ちたのだった。」
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