112.アベルくんと打ち込み(前の練習)。
112.アベルくんと打ち込み(前の練習)。
お昼過ぎ、いつもの修練服を着て木剣を持ち、裏庭にやってきた。
昼下がりだが、今日は爽やかな天気。
風が気持ちよく、運動にはぴったりだ。
おや?父さんがまだ来ていない。
ふむ、まだ午前の続きをやってんのか?
お盛んなことだ。
あれは筋力とカロリーを消費するからな。
仕方あるまい、一人で素振りをやっていよう。
素振りを数回したところで、何やら賑やかな笑い声と供に父さん、母さん、ロッティー、リーサにちびっこメイド達がやってきた。
「みんな揃ってどうしたのさ。」
「あなたが無茶するんじゃないかってお目付け役が大勢来たのよ。私を含めてね。」
俺の問いに母さんが答えた。
お目付け役ねぇ。
などとやっている間に、エレナやミーとカトリーヌ、クラリス、エミの別邸メイド組まで現れ、何をするかと思えば、テーブルと椅子、日傘を設置し、完全お茶会モードと裏庭が変わる。
その脇にはヨハンとアーサーの執事組までおる。
全員じゃん。
何やってんの。
いや、全員じゃなかった。
チャールズ、ユーリをはじめとした首都遠征組の辺境伯領騎士団10名まで。
アホかと、狭くて仕方ないわ。
「アベル様、騎士団のことは庭石程度に思ってください。こちらは楽しく見ておりますので。」
こう言うのは騎士団長のチャールズ。
「アベル様、この前のデートで買ったお菓子頂きますね。」
こう明るく話しかけるのはエレナ。
お前らはイベントが無くて暇だったのかもしれないがな、俺は呪詛に操られた王子に襲われたり、その呪詛を返された男爵に襲われたり、すったもんだで死ぬ思いや人の感情に振り回されたりしたから訓練やんだよ?
「お前らの見世物イベントじゃないんだぞ!?」
「アベル様、頑張れ~!」
ローズ、おめぇ運動会じゃねえんだ、黙っとけ!
「さあ、やろうかアベル。」
いつもより、クールな声が聞こえたのでそちらを向く。
目の前の父さんはいつものように爽やかな笑顔を作り、木剣を振り回す。
いや、目がちょっと本気だ。
午前中のあれをまだ根に持っているに違いない。
それでも俺は元気よく、父さんの鋭い眼力に負けないよう大きくハッキリ
「はい!」
と返事をし、父さんと対峙する。
「では、よろしくお願いします。」
二人でお辞儀をした途端
「コン!」
と良い音が鳴り、俺の頭が痛みで疼く。
何?今の?全然見えんかった。
このアベルの動体視力をもってして見えないとか、何??
「これで午前中のあれはチャラだ。いいよね?アリアンナ。」
ハハハと、本気で笑っている父さんが、母さんに聞いている。
「いいわよ~。」
母さんも納得の一撃だったようだ。
クソ!もうこうなりゃ、騎士団を巻き込もう。
「騎士団!!今の見えた!?」
俺は騎士団に問うた。
「私は見えましたが?」
チャールズは余裕だ。
「へ?ちょっと見えなかったですね。」
ユーリは見えなかったそうだ。
「他は!?」
俺がなおも聞く。
「見えませんでした!!」
他の団員が揃って返事をした。
「チャールズ、これでいいの?」
現状をチャールズに聞いてみる。
その様子をユーリはじめ騎士団の連中は固唾を飲んで注視していた。
「うむ、忌々しき事態ですな。アベル様を見て笑っているどころではなくなりましたな。」
「いや、その、え?じゃ。」
チャールズの言葉で、ユーリがしどろもどろになる。
「これから駆け足で王城の修練場まで行って修練だ。ヨハン殿、王城へ先触れお願いできましょうか?」
この言葉に、騎士団は愕然としヨハンは肩をすくめてから
「早馬を出しましょう。」
と、言って消えていった。
これで裏庭を広く使えるわぁ
すごすごと裏庭から出ていく騎士団の背中に
「ユーリ!」
と声を掛け、振り返ったユーリにサムズアップしてやった。
[booooo!!]
それを見たユーリは、俺に渾身のブーイングをかまし出て行った。
「アベル様!ユーリをいじめないで。」
一部始終を見ていたエレナが、自分の旦那候補をいじめるななどと宣う。
「その分お前が優しくしてやれよ、エレナ。」
俺がそう言った途端に
「コン!」
と、また天頂方向が高い音を出した。
「こら!アベル、そうやって大人をからかうんじゃない。」
父さんが、やや真面目な顔でお説教を言う。
そうか、そうだな。
今のはいささか軽率だったか。
「それはそうだね。軽率過ぎました。エレナごめんね。後でシャーベット作ってあげるよ。」
それを聞いたメイド勢が一斉に
「きゃー!」
と、黄色い声を上げた。
「君ら、いつからエレナになったのかね?」
俺はカトリーヌはじめ、メイド勢に問うた。
「アベル様、シャーベッにょは一人分作れにゃいでしょ?」
ミーが俺に抗議する。
「余ったら俺が食うが?」
正論パンチをぶちかます俺。
「うぐっ」
と、口を噛む、ミー。
しかしだ。
「嘘だよ、どうせ母さんも姉さんも食べたがるんだから、全員分作るよ。アーサー手伝ってね。」
と、大人の対応。
アーサーも大仰にうなずいている。
「さすがね、アベル。良く分かっているわ。ね、ロッティー。」
悠々たる威厳を放ち語る母さんに対し
「母様、当然だわ。私のアベルですもの。」
ロッティーは例の病気を発症させる。
違うぞロッティー、それは違う。
「さあ、いい加減真面目にするぞ、アベル。」
父さんもちょっとウンザリしてる
奇遇だね、父さん。
僕もだよ。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。
よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。
どうかよろしくお願いします。
この作品を気に入ってくださると幸いです。