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111.アベルくんと心の矯正。

111.アベルくんと心の矯正。




 俺はリーサと一緒に別邸にある父さんの執務室に行った。

 コンコン。

 二回ノックの後

 「父さん、僕だけどいる?」

 そう言って中を窺う。


 「いるよ。お入り。」

 中から父さんが招く声が聞こえた。


 ん、香水の匂い。

 ははん、俺が落ち込んでいた間のにねぇ。

 お盛んだ。


 「やあ、父さん、母さんも一緒だったの。」


 「あ、アベル、大丈夫なの?」

 慌てて衣服を直す母さん。

 仲が良いことは良いことだよ。


 俺の下に時期領主候補を作ってもかまわないんだよ。


 そうすれば俺がこの世界でどうなってもヴァレンタイン家は安泰だ。


 そう考えていたら、後ろからポカリと殴られた。

 「イッタ!っダヨ、リーサ!」

 「馬鹿なこと考えるからよ。」


 「ところで何だい?」

 あくまで穏やかな父さんだが、ちょっと苛立ちを感じる。

 まあ、途中で邪魔されればそりゃ苛立つよね。


 「なんかゴメンね、父さんに稽古つけてもらおうと思って。」


 「稽古?大丈夫なのかい?アベル。」


 「実はあんまり大丈夫じゃない。でもね、このままじゃ先に進めないんだ。」


 「アベル、あまり無理しちゃだめよ。」

 母さんが心配そうに言ってくる。


 「うん、きっと大丈夫だよ。ね、父さん。」

 「まあ、今のアベルに無理させるつもりはないけれどね。でもどうするつもりなんだい?」


 「その無理と無茶。」

 「はぁ?」

 父さんが珍しくあきれたような声を出す。

 

 「木剣での打ち込み。父さんも僕も本気で。打ち込みというより模擬戦だね。」


 「いいのか?アベル。怪我をするかもしれない。」

 「その点はこの頼もしい治癒魔法のエキスパートがいるから大丈夫だよ。な、リーサ。」

 「ま、怪我したら治すわよ。」


 リーサは気に入らなそうだ。


 「とにかく僕は一回ボコボコにされる必要がある。理屈じゃないんだよ、父さん。」


 「本当にそれで治るのかい?」

 「期待はある、確証はない。」

 俺は即座に父さんの疑問に答える。


 「それじゃダメだ。怪我が治ると分かっていても自分の息子を痛めつけることなんて出来ないよ。」


 父さんが珍しく感情的だ。

 この感じはさっき邪魔したことだけではないね。


 「そうよ、ダメよ。リーサちゃんも止めて。」


 母さんは俺を死なせたトラウマがまだ残っている。

 馬車で盗賊に襲われた記憶も生々しいしね。


 「うーん、もうこの状態のアベルに何言っても無駄よ?」

  うん、リーサありがとう。


 「僕はね、父さん、母さん。この世界に生まれ落ちて、そして、あなた方の息子となって、カイン以外から暴力を受けたことがないんだ。それはとても喜ばしい事なんだけど、僕の心の奥にある恐怖の上書をするには、その暴力に立ち向かう勇気が必要なんだよ。」


 これで前世のトラウマが上書きされるかは賭けなんだけど、立ち向かわなければ何も変わらない。

 変わらなければ、また何者かに狙われたときに俺は簡単に殺されるだろう。

 強力な魔法があっても、剣術を素早く習得できても、このトラウマが無くならない限り、俺は脆弱な人間に他ならない。


 「でも誰かから守ってもらうことだってできるじゃない。」

 リーサが核心を突く。


 「そうだね、僕が王室の人間ならそれでいいだろうね。でも僕は次期辺境伯だ、前線に立たねばならない人間なんだよ。そうじゃなければ戦場に立つ騎士や兵士、背後にいる住民に示しが付かない立場なんだ。」

 一息ついて俺は一言続けた。

 「それに、大事な聖女も守らなければならないしね。」


 「わかった。ただ模擬戦はしない。まずは打ち込みだ。アベルが剣に慣れるまで。剣を向けられる、振り上げられることに慣れるまでは、それ以外はしないし、それ以上の協力はしない。」

 父さんのこの提案は現実的範疇なんだろうな。


 「わかったよ、父さん。僕の考えも極端だったようだね。母さん、心配かけてごめんね。」


 俺はそう言って二人に頭を下げ、執務室から出ようとした。


 「アベル、もういいのかい?では昼から裏庭でやってみよう。」

 父さんが呼び掛けてくれた。


 「うん、あとはお二人で続きをお楽しみください。」


 俺はそう言うと、ダッシュで執務室を出た。

 



 「アベル!!!」

 辺境伯ご夫妻の絶叫が後ろから聞こえた。





ここまで読んでいただき、有難うございます。

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