106.アベルくんと市場の屋台とデートの終わり。
106.アベルくんと市場の屋台とデートの終わり。
「お買い上げいただき、ありがとうございました。」
店主がドアの間でお辞儀をしながらお礼を言った。
俺たちも、軽く会釈してロータリーへ向かう。
ポーチ3つの値段は銀貨2枚。
どうやらおまけをしてくれたようだ。
銀貨が残り2枚と銅貨が数枚か。
市場でも行ってみて回れば、まあ丁度いいかな。
思ってみれば、母さんの金額設定はドンピシャだったわけだ。
さすがだね。
俺はさっそくたすき掛けでポーチをぶら下げている。
ああ、ちなみに二人のポーチは花のワンポイント柄の入ったポーチだった。
花の種類は違うみたいだけどね。
二人とも、なんだかんだ言ってうれしそうだ。
「例のビスケットを買って、屋台でも冷かして時間潰そうか。」
「お土産買わないと怒られそうですもんね。」
ローズがそう言うと、エレナが
「私たちだけ好い目を見たような感じがするからね。」
と言った。
まあ実際好い目に逢っているんだけどな。
お菓子屋さんは高級商店街の方にあった。
やはりお高め。
「砂糖控えめで大丈夫なんですか?」
とお店の人に聴いたら、やはり砂糖まぶしお菓子が嫌いな店主が、何とか流行らせようと頑張っているそうだ。
頑張ってくれたまえよ。
何なら、北部地方からそのムーブメントを起こしてやろうか。
というわけで無事ビスケットも仕入れ、ロータリーに入って南側の市場と屋台の地域に来た。
高級商店街から来たら、ここはカオスだ。
とにかく雑多、人と品物があふれている。
渋谷や原宿の喧騒を思い出す、というかあれより酷い。
日本人はぶつかろうとしないしぶつからない。
こっちの人達は自分の行きたい方向に一直線だ。
体が通行人に押されて揺れる。
俺はあわててローズの手を掴む。
なんたって5歳の身体じゃ背が低いから、はぐれたら、見つけにくいんだよ。
エレナも後ろからピッタリくっ付く。
「環境が違いすぎる。屋台の区画の方が空いているから、そっち向かおう。」
俺は二人に声を掛けた。
二人とも
「はい!」
と、いい返事をして、俺たちは人波を縫うように屋台へ向かった。
さきほどではなくなった人通りに、肉や何かが焼ける臭いが充満している。
よくある肉串に、じゃがバターみたいのもある。
水飴もあるな。
「なんか食べながら休もうか。」
「賛成!」
エレナさんはゆるぎない。
「ローズは?」
「いただきます。」
ローズは自分のホームグランドに来たって顔をしている。
今まで気疲れしてたんじゃないかな?
「じゃ、エレナ適当に買ってきてよ。俺たちはそこのベンチで休んでいるからさ。お金まだあるでしょ?」
俺はエレナにお金の残高を聞いた。
「お金は銀貨1枚と、銅貨が6枚ありますから、屋台で全部使えば食べきれません。」
エレナは何故かうれしそうだ。
「全部使わなくていいからね。子供が二人いるんだから、そこは考えて。」
「もちろんです。では行ってきます。」
颯爽と立ち去るエレナ。
俺とローズはベンチに座る。
「ローズ、今日はどうだった?」
「朝は緊張して何が何だかわかりませんでした。でも観劇してる最中から、劇に夢中になって、緊張が取れました。お昼ごはんもすごくおいしかったし、ポーチも買ってもらえた。私はアベル様のメイドで幸せです。」
「今日はメイドじゃなかったんだけどな。」
俺がそう言うとローズはうつむいた。
「アベル様とこうして女の子として出かけるのは、もうないと思います。だから今日は楽しめました。本当に一生のを思い出になったんです。」
ローズはそう言うと大粒の涙をこぼす。
俺はローズにハンカチを渡し
「お前は僕の大事な家族だ。お前が居るから今の僕が居る。感謝しているよ。」
俺はハンカチを目に当て、嗚咽をこぼすローズの背中を静かにさすった。
「あー、アベル様、女の子泣かすなんていけないんだ!」
エレナが両手に肉串をもって、ベンチの俺たちに駆け寄り俺を非難する。
「何言ってんだよ、盗み聞きしていたくせに。」
俺は駆け寄ったエレナにカウンターを浴びせた。
「え!?気付いていたんですか?」
エレナは驚いて俺に聞いてくる。
「当たり前だよ。そこの角に隠れていたつもりだったろ。隠れていないんだよ、お前のデカい胸が。」
エレナの胸は、母さんほどではないがデカい。
この世界にブラは無いから、支えがないはずなんだけど、エレナのは飛び出している。
「あー、アベル様のエッチ!」
エレナはその胸を両手で隠すが、それがたわんではみ出てしまうので、むしろ扇情的だ。
「そうだよ、僕はすけべぇなんだぜ。」
俺はことさらにおどけて見せる。
エレナはその俺に乗るように
「嫌だぁ!」
と、言いながら笑い、泣いていたローズもつられて笑った。
「ところでエレナ、肉串を買って来たんだね。」
エレナの持っている肉串を見ながら言った。
「ええ、見てのとおり肉串です。」
さも当然だというようにエレナは言う。
「昼のルーナブルの余韻が消えてしまうとは思わなかったのかね。」
俺がそう指摘すると
「あれはあれ、これはこれです。余韻じゃお腹は膨れませんから。」
ああ言えばこう言いやがる。
「まあいいや、ローズ落ち着いたか?」
俺は隣で目元を拭いていたローズに聞いた。
「はい、アベル様。」
そう言って笑みを作る。
「じゃ、3人で座って食べよう。」
こうして、俺とローズのデートの時間は終わった。
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