105.アベルくんと革細工屋さん。
105.アベルくんと革細工屋さん。
結構お金を使ったんじゃないか?
多分、残りが銀貨が4枚程度だろう。
ここで、ご婦人たちにアクセサリーでも買ってあげるのがセオリーだろうが、そんな余裕はなくなったな。
「宝石商でも寄ってみるかい?冷やかし程度でもいいだろう。」
一応提案してみる。
エレナなんて一番興味の出る年ごろだろうしね。
「やめましょう。目の毒です。」
エレナにきっぱり断られた。
「いいの?エレナ姉、結婚指輪とか見なくても。」
ローズが疑問を呈する。
「だからなのよ。ユーリが一生懸命稼いだお金で買ってくれたものを、あそこの指輪の方が、奇麗で宝石が大きかったとかって思い出すようになるわ。それじゃユーリに失礼じゃない。」
なるほど、それは一理ある。
いろいろ考えてんだね。
いい嫁さんになるよ。
「あ!あそこに入ろう。見てみたものがある。」
俺が指定したのは革細工屋さん。
財布とかバックとか置いてある。
「革細工屋さんですか、良いですね。」
古今東西、異世界でも女性はバックが好きなのか?
多分バッグは買えないが。
カランコロン。
ドアのベルが派手になる。
「はい。」
店の奥から店主らしき頭皮をあらわにした人が現れた。
「ちょっと見せていただいてもいいですか?」
ボ…店主は訝しむような目つきで俺を見た。
「お坊ちゃん、一人かい?いや、お付きのメイドと女の子付きかい。どんなものが見たいんだい?」
店主が聞いてきた。
「これを入れるポーチ肩掛けのポーチが欲しいんです。」
そう言って俺はヴァレンタイン家の紋章を見せた。
「こ、これは…どちら様で?」
店主は紋章の掛け紐を握って恭しく確認しながらそう言った。
いいフェイントだ。やるな!
「ヴァレンティア辺境伯、子息アベルというものです。」
「あー、あの有名な。お初にお目に掛かります。肩掛けのポーチですね。では、こちらへどうぞ。」
ここでは至宝が出なかったな、良いことだ。
「うちの店は、良質のルーナブルの革を職人が丁寧になめしていましてね。それが自慢なんですよ。」
店の中を歩きつつ、店主は自分の店の紹介をする。
「さっきルーナブルを食べてきたばかりです。」
俺がそう言うと、店主は途端に親しみのある笑顔を見せ
「木漏れ日かい?あそこは美味しいですよね。うちも滅多にいけないけど、年に一回は結婚記念日に行くんですよ。」
嬉しそういな笑顔のまま、案内しながら言ってくる。
「記念日に行くのにはぴったりのお店ですね。」
俺もつい相槌を打った。
「さあ、この一角です。お好きなものをお選びください。」
小物入れのポーチが下がって飾られている一角に連れてこられた。
シボが入った加工されたものや、きらびやかな刺繍がされたもの、シンプルなものまで、結構種類がある。
俺が手に取ったのは、ダークブランのシンプルなもの。
手に取った革はしっとりとしていてよく馴染む。
これはポーチの形状が蛇腹のマチが入っていて、色々入れられそうだ。
この世界にファスナーはないから、留め金で蓋をするんだけど、これは真鍮のギボシ2本が飛び出していて、そこに革の蓋を止めるようになっている。
シンプルだけど、これなら故障もしないだろう。
「アベル様、また地味なものを選びますね。ヨハン様にまた言われますよ。老成してるって。」
俺が手に取ったポーチを見て、エレナが絡んでくる。
「何事もシンプルなものが一番いいんだぞ?恋愛も人生も。」
俺はポーチいろんな角度から見たり、ふたを開けたりしながら言った。
「それって5歳の言うセリフじゃありませんよね。」
エレナが笑いながら話しかける。
「そうかもしれない。けど事実だから。」
そう、これは真理なのだ。
生き方と、人間関係はシンプルが一番。
これが妾の子とかってなってしまうと、スタートから躓いたように思うけど、己がシンプルに生きることによって、周りの人間の評価など、どうとでも変わるのだ。
辛ければ逃げてしまって、人間関係をてリセットするのも手なんだよ。
「僕はこれにするよ。二人も選びな。」
「え?いいんですか?そんな今日はずっと甘えっぱなしで。」
珍しくエレナが殊勝なことを言った。
「私もそんになしてもらえません。」
ローズも断ってくる。
「いいんだよ。首都に来た記念だ。いい思い出にさ。劇を見て、美味しいものを食べて、このポーチ買ったなって、思いだせればいいじゃないか。」
「うーん。」
二人とも決めあぐねているようだ。
「めんどくさいな。主人命令。一つ選ぶ。」
「はい!」
俺が命令すると二人とも元気な笑顔で返事をして、あれやこれやポーチの方を悩みだした。
これか、女性の買い物に付き合っちゃいけないと言われる所以は。
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