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104.アベルくんとメインディッシュ。

104.アベルくんとメインディッシュ。




 さてメインディッシュ。

 肉のステーキなんだけど、何の肉なんだろう?


 「ルーナブルのヒレ肉でございます。ソースを付けてお召し上がりください。」


 黒服がそう言って置いて行った。


 ルーナブル。

 名前は聞いたことがある。

 肉とミルク用に飼育されている家畜だそうだ。


 前世の牛みたいなものだろう。

 肉は決して庶民の口に入らないって程の価格ではないそうだが、やはり高いらしく滅多に食べられないらしい。


 そして、更に高級なルーナブルは穀物を食べさせるんだそうだ。

 これも前世と同じだな。


 脂肪が入り、柔らかく、うま味の多いお肉になるんだと。

 もちろんこちらのお肉は、べら棒にお高くなっております。


 でだ、俺の目の前にある肉が、その肉なんだろう。


 俺はナイフを肉に差し込んだ。

 まさに差し込んだ。

 切ったんじゃないんだ。

 

 なんぞ!?この柔らかさ。


 「はっ!?」


 3人で息をのんだ。


 一切れ、フォークで口に入れる。

 咀嚼し、飲み込む。

 それから声が出ない。


 柔らかい、そして美味い。

 3人ともに、出たのはため息。


 食べ物について、饒舌なご婦人方が何も話さず、ナイフとフォークを走らせる。

 

 こりゃおめぇ、うますぎんだろ。


 王城に行って食事もいただいた俺が、ビックリしてしまった。

 あの時、出された肉は、フレームホーンの肉だったんだよな。


 南の火山地帯に住む、オオトカゲなんだそうだ。

 鶏肉に似たたんぱくな味わいと食感で

 肉自体は本当に美味かった。


 滅多に食べられない、貴重な肉だと王は言っていたな。


 それが敵わない。


 ソースも美味しい。

 何を使われているかなんて、まるっきり分かんないけど、とにかく肉のうまみと相まって美味い。

 本当に、語彙が無くてゴメン。


 「はぁ。」

 

 何故か3人とも同時に食べ終わる。

 

 「凄かったな。」

 俺が呟くと


 「凄かったですね。」

 ローズが相槌を返す。


 「アベル様、本当にありがとうございます。」

 エレナは今にも泣きそうだ。


 続いて出てきたデザートがケーキだった。

 

 例の如く、砂糖まみれのケーキ。

 これだけは辟易としてしまった。


 最後はお茶が出た。


 こりゃ満足だよ。

 エレナが聞いてきたのが間違いなかったね。

 誰から聞いてきたんだろう?


 俺たちが一息ついていたら、黒服がやってきた。


 「当店自慢の料理は、如何でしたでしょうか?」


 「素晴らしかったです。ステーキを食べたときは声が出ませんでした。」


 俺がそう言うと


 「その言葉を聞けば料理長も喜ぶでしょう。」


 そう言って黒服が笑みを浮かべる。


 「ああそうですね、料理長を呼ぶことは可能ですか?直接お礼を言いたい。」

 思わず俺はそう願い出た。


 「はい、では呼んで参ります。」


 黒服は笑みを深めつつ、厨房に消えて行った。


 厨房からこちらに来たのは、どっぷりと太った体型でも、ジョージのような筋肉ダルマでもなく、スマートなロマンスグレイのおじさんだった。

 

 彼は渋い顔をして俺に言った。


 「この店の料理長でございます。何かお話があるという事でしたので参りました。」


 黒服め、お礼が言いたいと俺が言ったのをわざと省きやがったな。


 「素晴らしいお料理でした。特にステーキは感動しました。まだ5年ほどしか生きてはいませんが、これほどのお肉はなかなか食べられないでしょう。ありがとうございました。」


 俺がそう言うと料理長はポカンとした顔になり


 「不具合があったというのではないのですか?」


 と、言ってきたので


 「いいえ、先ほどの方に、お礼を直接言いたいと言ったのですが、うまく伝わらなかったのでしょうね。」


 と俺は言った。


 すると

 「あいつ!」

 と、料理長は低い声で呟き


 「大変ありがとうございます。モノを味わうのに年齢は関係ありません。アベル様のように味の分かるようにお育てになったご両親の賜物かと思われます。」


 料理長はそう言って最敬礼した。


 「いえ、こちらこそごちそうさまでした。美味しかったです。」


 そう言って俺は椅子から降り、手を差し出し握手をした。

 とは言っても俺の手が料理長の大きい手に包まれただけだったが。


 女性達も自然と笑顔になり


 「ごちそうさま」


 と言って、料理長に挨拶をした。



 その時黒服が顔を出したので


 「それではチェックをお願いします。エレナ、あとよろしく。」


 そう言って俺とローズは出口に向かう。


 ドアの外でエレナを待っていると、エレナと黒服、料理長までが出口に顔を出し


 「またお出で下さいませ。お待ち申し上げております。」


 そう言って、黒服と料理長は恭しくお辞儀をした。


 「はい、今度は両親と姉とも一緒に来ますよ。それでは、ごちそうさま。」


 俺はそう言ってから軽く会釈し、ロータリー方面に歩き出した。


 「ありがとうございました。」


 後ろから、お礼の言葉が聞こえたので、ちょっとだけ振り帰り、頭を下げまた歩き出す。


 「エレナ、いくらだった?」


 「大銀貨1枚です。」


 一人3万3千円ね。

 まあ、それくらいでも文句ないよな。

 美味かったもん。


 「一人銀貨3枚と銅貨3枚ですか?」


 ローズが恐縮するような顔をする。


 「お、暗算偉いね。端数もあるけどね。でもその値段くらいの価値はあったよ。サービスも味も一流でしょ。」


 「一生で一度の思い出になります。」

 ローズはおずおずとそんな事を言った。


 「なに、稼げばいいのだ。なあ、勤労婦人たちよ。」


 俺がこう言うと


 「お給金が上がればですけどね。」


 とエレナが言う。


 「言うねぇ。父さんに言っといてあげるよ。木漏れ日でご飯食べたいから、給料を上げろとエレナが言っていたって。」




 「やめて下さい!」


 叫ぶエレナをよそに、ロータリーへの道をローズと二人、笑いながら歩くのだった。



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