103.アベルくんと豪華なランチ。
103.アベルくんと豪華なランチ。
俺たちは従業員用出口から無事出られ、俺たちが見えなくなるまで支配人と主役二人はお辞儀をしていた。
「支配人ひきつっていましたね。」
エレナが嬉しそうに言ってくる。
「ちょっとばかり意趣返ししてもいいかなって思ってさ。あのまま引き下がるのもね。」
俺がそう言うと
「アベル様らしいですね。」
そう言ってローズとエレナは笑う。
「宰相の名前まで出そうかと思ったけど、さすがにやり過ぎだし、迷惑もかけられないからね。」
「それが正解ですね。」
エレナがまじめな顔になった。
各神殿から鐘が11回なった。
うん、いい時間だ。
「ご飯に行こうよ。」
俺が二人に提案する。
「何にします?広場に屋台が並んでいましたが?」
ローズがそんなことを言う。
「ローズ、今朝、豪華にするって言っていたじゃない。」
エレナは俺の言質を死守しようと必死だ。
「せっかくローズとのデートなんだし、豪華に行こう。高級な方の商店街に行けば何かしらレストランがあるだろう。」
ランチくらい飛込みで大丈夫だよね。
ん?
ローズが俯いている?
「どうしたローズ?」
と、聞いたら後ろから突かれた。
「アベル様が唐突にデートと言ったので照れているんですよ。」
エレナが教えてくれた。
デートだって忘れていたのか。
だから食事に屋台って言ったんだな。
俺はローズの手を握り
「さあ、行くよ。」
と、言って歩き出した。
ローズは俯いたまま付いてきた。
その姿を見て、またエレナがニマニマする。
まあいいか。
ロータリーに着いて周りを見渡す余裕が出てきた。
俺も随分と余裕が無かったんだね。
中央のデカい噴水があることすら気が付かなかった。
今さっき行った北の方角に、白亜の王城が見える。
さっき見えた屋台は市場からはみ出た感じだ。
そうして見える風景、見える人たちの感想や冗談を言いながら高級商店街に向かう。
そして高級商店街に入ると、雰囲気が一変する。
歩行者がいない。
通行のほとんどが馬車だ。
なんだか歩いている俺たちが気まずくなる。
何処のレストランが美味しいか、聴いておけばよかったな。
前世でモテなかった男は、これだからいただけない。
「木漏れ日って名前のレストランがいいらしいですよ。」
エレナが俺の考えを読むかのように答えを示す。
お前はリーサか。
まあ、ありがたく思っておこう。
さて、それはどこだと見渡すと。
あった。
少し先に看板がぶら下がっている。
「あそこだな。行ってみよう。」
かくして我々凸凹デートチームはレストランの前に立ったわけだ。
エレナがドアを開け、俺たち二人が先に入る。
黒い制服を着たフロアマネージャーだろうか?中年の男が寄ってきた。
「いらっしゃいませ、何名様でございますか?」
黒服はエレナに聞く。
「3人です。」
俺が答えた。
一瞬、黒服の顔が歪む。
「お坊っちゃま、親御さんはいらっしゃらないのですか?」
「今日はこの3人です。駄目でしょうか?」
「いいえ、決して駄目ではございません。しかし、どちらのお坊っちゃまなのか分かりませんので、家名をお聞かせ願ってもよろしいですか?」
やっぱり出自は大事か。
ドレスコードには引っかからないみたいだし、対応もまあ確かだ。
「ヴァレンタイン辺境伯の子息、アベルと申します。こちらに紋章もありますが、確認いたしますか?」
黒服の顔色が変わる。
「辺境伯閣下のご子息でございましたか。大変失礼をいたしました。紋章の確認は結構でございます。こちらにお出で下さい。」
そう言って、近くにいたウェイターからメニューを受け取り、黒服自ら俺たちを案内し始めた。
そして、外が良く見える窓の脇のテーブルに案内された。
まあ、俺にはレストランのいい席なんてわからないが。
俺の真正面に、ローズが座り、その隣にエレナが座った。
「メニューはこちらでございます。」
という黒服に向かって
「見てのとおり僕らは自分達だけでこの手のお店に来たことがないのですよ。良ければランチのコースで見繕っていただいてよろしいですか?金額は常識の範囲内で。」
なぜか黒服はにこやかになり
「噂では聞いておりましたが、さすがヴァレンタイン辺境伯閣下のご子息。感服いたしました。喜んで頂ける内容をセッティングさせていただきます。」
「よろしくお願います。」
俺がそう言うと、飲み物だけ聞いて去って行った。
「アベル様、カッコいい…」
対面の女子二人がユニゾンする。
バカ、緊張していたんだよ。
「そうだろう。そうだろう。」
俺がそう言うと
「そうやって調子に乗るから。」
また女子二人がユニゾンした。
そうこうしている間に、女の子のウェートレスが、エレナには水を、俺とローズにはリオラのジュースが入ったグラスを置いて去って行く。
その後すぐにウェイターがテーブルに到着し
「コンソメスープでございます。」
と、言ってスープを置いて行く。
え!?
この世界にもコンソメあんの?
俺は〇ノールのしか飲んだことないけど。
一口飲んでみる。
出汁だ。
旨味だ。
スゲー。
語彙不足が露呈する。
ちなみに、うちのメイド達の、テーブルマナーはバッチリだ。
マーガレットがうるさいのでね。
どんな状況であっても、慌てることが無いようにってさ。
そんな3人の、お淑やかな食事が進んで、次はメインディッシュだ。
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