102.アベルくんと剣士ローレンと魔法使いアリーナ。
102.アベルくんと剣士ローレンと魔法使いアリーナ。
幕が開くと、どこかのギルドのカウンターらしきセットと、役者たちが現れる。
長身で剣をベルトに差した美形の役者が
「僕は剣士ローレン!ここが冒険者ギルドか!ここから僕の活躍が始まるんだ!!」
などと始まった。
彼が父さん役か。
背格好は似ているけど、顔は父さんの方が良いな。
どうらんを塗りたくっているから、素顔はわからないけど。
そこでパーティーを募り冒険に出かけるローレン。
ダンジョン内で戦っているパーティーを見つけるが、横から入るのはご法度とスルーしようとする。
しかしよく見ると、その別パーティーは前衛が倒れ、危機が迫っていた。
ローレンは颯爽と前衛に入り、モンスターの前に立ちはだかる。
そして後衛にいた魔法使いとの見事な連携によって、パーティーの危機を救う。
魔法の演出を魔法を使うのは面白いね。
その後衛の魔法使いが、後に大魔法使いと言われるアリーナだった。
ちょっと本物と出会い方が違うみたいだけれど、この方が劇的でいいんだろう。
あと、アリーナ役の女優さんも、舞台用のわかりやすいメイクだけど、綺麗な人だなってわかる。
でも、母さんの方が胸はデカいよ。
怪我をした前衛が復帰できないことを知って、アリーナのパーティーは解散。
ローランがアリーナを自分のパーティーに誘う。
劇としてはありきたりのシナリオだし、現実とも乖離しているんだけど、わかりやすさとして、ちょうどいい塩梅なのかもね。
「アリーナ!僕の故郷フィオレンティーナにはこの国最大のダンジョンがあるんだ!一緒に探索しないかい?」
「いいわ!私はあなたに何処までもついて行く!」
などなどあって、危険な目に逢いながらも大ボス、ベヒーモスを倒し、国の英雄になりましたとさ。
めでたし、めでたし。
ありきたりの英雄譚。
でも民衆はそういうのを求めているんだよ。
一閃の剣と、剣では無敵の喧嘩にブチギレて、雷撃魔法を落とす、お転婆魔法使いは求めていないのさ。
主役たちが抱きしめ合っている最中に緞帳が下る
俺たちは立ち上がって拍手を送る。
そしてまた緞帳が上がり、カーテンコールに答える役者たち
ローズもエレナも会場全体もスタンディングオベーションだ。
その時、いきなり俺たちのブースにスポットライトが当たった。
「えっ、えっ…」
俺たち三人が戸惑っていると
「あちらのブースをご覧ください!一閃の剣ローランド・ヴァレンタイン辺境伯様とアリアンナ夫人のご子息!アベル様です!!」
今度は俺たちに向かって拍手が起こる。
舞台上の役者たちも一緒だ。
俺たちを見世物にするな!!!
が、もうこうなっては仕方がない。
俺は手すりにめいっぱい乗り出し、観客席と舞台に向かって手を振った。
さらに拍手の音が大きくなる。
おら、こっぱずかしいよぅ。
劇場責任者に抗議してやる。
俺はある程度手を振ったら、素早く引っ込んだ。
と、同時に緞帳が下がり、劇が終了した。
「これじゃ、一般客が帰るまで帰れないな。」
「そうですね、囲まれる恐れが会います。」
エレナも同じことを思っていたか。
「ローズごめんな、ちょっと大変なことになった。」
「いえ、劇が見られてよかったですから、大丈夫です。それにアベル様が何とかするんでしょ?」
信頼されてんな、俺。
応えなきゃならんだろ。
もう、どんと構えて、ビスケットをバリバリかじっていたら後ろから声がかかった。
「アベル様、この度はご来場いただき誠にありがとうございます。」
声がかかった方を見ると、皺の一切ないスーツの様な上着を着た老紳士がきれいな姿勢で立っていた。
この人も昔役者だったのかもな。
「どちらさまでしょう。」
エレナが対応する。
「大変失礼いたしました、わたくし、当劇場の支配人をしております、フェリックス・ドレイクと申します。」
丁寧にお辞儀をするドレイク支配人
その後ろに、先ほどの主役の二名が控えている。
「ご挨拶痛み入ります。私が、ローランド・ヴァレンタイン辺境伯の子息、アベル・ヴァレンタインです。」
「おお、ヴァレンティアの至宝にお会いできて光栄です。」
彼はもう一度仰々しくお辞儀する。
「どんな御用でしょう?先程の演出のお陰で、我々は帰れなくて困っているのですが。」
おれは、優しく丁寧にクレームを入れた。
「それは大変失礼いたしました。アベル様が来ていると聞いた演出の者が、慌てて企画したものですので、アベル様がそれに答えて頂き大変うれしく思いました。」
支配人は晴れやかな笑顔を作る。
「それで、その演出担当者が悪いと?」
「いえ、決してそのようのことを申しに来たのではありません。一言アベル様にお礼とお詫びを申したく参上いたしました。大変申し訳ございませんでした。そして、ありがとうございました。」
ドレイク支配人はそう言った途端、気まずそうな顔する。
ずいぶん真摯な支配人だ。
家名を持っているんだ、貴族出身なんだろう。
貴族への対応が慣れている。
「謝罪は受け入れましょう。ただ、別の出口と、このビスケットのお店を教えていただけますか?」
俺は笑顔を作り、支配人にお願いする。
「はい、もちろん喜んで。」
「あ!ひとつ忘れていました。」
俺は席を立って支配人に向き直る。
「なんでございましょう?」
支配人は余裕の表情だ。
「私の両親に観劇したことを報告しますね。素晴らしい俳優さん達が演じたことを。それと素敵な演出もあったことも。」
「はい、どうぞよろしくよろしく仰っていただけると幸いです。」
ちょっと頬をひきつらせた顔を見せて少しばかり留飲を下げた俺たちを、従業員用出口まで案内をする支配人達だった。
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