101.アベルくんと市民劇場。
101.アベルくんと市民劇場。
思えば、ここまであまり、ローズを構ってやらなかったな。
反省、反省。
「アベル様、一般席と貴族ブースがありますが。」
エレナが色々確認してくれる。
一般席は普通の劇場の座席と同じ、貴族用はブースになっていて、メイドが居ればお茶の用意も出来るんだってさ。
もちろん貴族用は高いが、今回俺は太っ腹。
「貴族用で。」
「はい、分かりました。」
エレナは俺の返事を聞いて、すぐにチケット売り場に並びに行った。
「アベル様、私たちは並ばなくていいんですか?」
「うーん、あまりこういう言い方はしたくないんだけど、今のお前は貴族と同じ立場なんだよ。」
「それでいいんでしょうか?」
「今日はそれでいいんだよ。俺もエレナもそのつもりだ。」
「アベル様、取れました。貴族ブース用チケットは券売所が別だったんですね。すぐ買えました。」
エレナは如何にも良いところのメイドというふうに近づき、俺に報告する。
メイドもそういうハッタリが必要なのかな?
チケットの券売所が別ならば、入り口も別だった。
俺が入り口を通ろうとすると
「お坊っちゃん、メイドとその女の子のお連れだけかい?ほかに大人は?」
「他に居ませんよ、チケットはこのとおりメイドが持っていますが」
「そうか、しかしここは貴族専用なんだ、何か証明できるものはあるかい?」
5歳の男の子がふらりと立ち寄るところじゃないよな。
「これで良いですか?ヴァレンタイン辺境伯子息、アベルと申します。」
俺は俺専用のヴァレンタイン辺境伯用紋章を取り出し、モギリのおっさんに見せた。
「アベル・ヴァレンタインって言ったらヴァレンティアの至宝様で?」
うおおおい、ここでも至宝かよ。
「至宝なんて大それたものじゃないですよ。ただの子供です。ではよろしいですか?」
「はい、おみ足をお停めさせて、申し訳ありませんでした。」
「観客のチェックも、立派なお仕事です、では観劇したことを両親にも知らせますね。」
「ごりょうし…一閃の剣!」
「ははは、舞台上の僕の両親の姿が楽しみですよ。それじゃ、二人とも行こう。」
俺たちは薄暗い廊下を進んだ。
途中案内係のメイドが現れ、やはり俺たちを見て驚いていたが、ここまで入って来たことで認めたのだろう、エレナが取ってきたブースに到着し、俺とローズは席に座り、エレナはメイドからお茶のレクチャーを受けていた。
ブースのテーブルにはキャンディやビスケットなどが置いてあり、つまみながら観劇できるようになっている。
あとで、メイドに聞いたのだが、食事もできるそうだ。
やっぱり首都の施設は豪華だね。
「アベル様!この椅子、奥様のソファーよりフワフワです。」
ローズが変なところを感動している。
こいつめ、さては母さんのお気に入りに座ったことがあるな?
「そうだね。ふかふかだ。でも落ち着け。一応貴族用のセットだからな。」
俺はそう言って注意喚起をする。
「あ!そうでした。」
俺の話を聞いたローズは小さく縮こまった。
「まあ、珍しい物ばかりだ。仕方ないよな。」
お上りさん気分は、こういう時じゃないと味わえないからね。
「ふふふ、いい雰囲気じゃないですか。」
エレナがニマニマしながらお茶をそれぞれの席に置いてゆく。
こいつはこういう一言がなければ、容姿は綺麗だし、スタイルは良いし、気が利くしで、良い娘なんだけどな。
「エレナ、お前も座れ。まだ時間がありそうだし、お菓子でも食べて待っていよう。」
「そうですね、そうしましょう。」
食べ物については、こいつの反応は早い。
「このビスケット、美味しいじゃないか。あまり甘くなくていいよね。」
この世界の上流階級のお菓子は砂糖がふんだんに使ってある。
階級と財力の高さを見せつけるものなのだとか。
アホだね。
ヴァレンティア城では、俺の指示でジョージにはあまり砂糖を使わないようにしてある。
一部の人間には不評だったが、素材の味と健康のためだ、我慢してもらった。
今ではそれが当たり前になり、他の貴族の屋敷に呼ばれていく父さんは
「甘すぎてげんなりするよ。僕たちもよくあんなに甘くして食べていたよね。」
との感想を漏らすくらいだ。
「美味しい!ジョージさんのお菓子も美味しいけど、このお菓子は上品な味がしますね。」
流石、エレナと二人でつまみ食い担当のローズは舌が肥えている。
「ホントだ!美味しい!何個か持って帰れませんか?」
エレナは自分で食うつもりか、土産のつもりかわからんが
「土産にしたいとか思っているならやめておけ。そういうのは周りがどこかしらで見ているものだ。帰りにお菓子屋さんに寄って、みんな用のお菓子を買って帰ろう。」
「えっ!やったー!」
エレナ、今日はお前とのデートじゃないんだがな。
「エレナ、さっきのメイドさんに、お店の名前と場所を聞いておけ。」
「はい!わかりました。」
元気のいい返事が返ってきたら、魔道具の明かりが暗くなり、ブザーのような音がした。
「始まるな。」
ポツリと俺が言うと同時に、幕が開いた。
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