100.アベルくんと今度こそ本当にデート。
100.アベルくんと今度こそ本当にデート。
馬車は、商業地区中心地にあるロータリーに停車した。
ここで降りればどこへ行くにも便利なんだとか。
南に市場、東に貴族相手の高級商店街、西は庶民相手の商店が立ち並び、北に劇場があった。
御者のおっちゃんが踏み台を馬車のドアの前に出してくれる。
俺はいつものように、馬車のステップから踏み台、地面へとピョンピョンと飛び跳ね地面に着地する。
大人のする行動じゃないだ?
体は動けるうちに動かした方がいいんだぜ?
特にこの身体のスペックは高いから、十分な運動は必要だ。
ローズが馬車のステップから降りてくるのに、おっちゃんの手を借りながら降りてくる。
踏み台からは俺が手を伸ばしエスコートした。
ローズが勢い余って俺にぶつかる。
さすがに5歳の身体に思春期になりかけの10歳の身体が当たると厳しいが、何とか耐える。
「アベル様、ごめんなさい。」
ローズが恥ずかしそうに謝った。
「大丈夫だよ。」
俺はローズに笑って見せた。
「アベル様どちらに向かわれますか?」
馬車から降りたエレナが真っ先に尋ねる。
「劇場へ向かって時間の確認をしよう。始まっているとか、すぐ始まるのなら入ればいいし、時間が空くなら散策すればいい。」
「そうですね。そうしましょう。」
エレナが俺の提案に同意する。
「おっちゃん、3つの鐘でここに待合せよう。」
各礼拝堂が、時間を合わせ鐘を鳴らしてくれる。
言わば午後3時になる金で集合ということにした。
ざっくり打ち合わせをして
「さあ!行こうか!」
俺はそう言ってローズに手を伸ばす。
ローズはビックリしたように逡巡する。
そしてはにかんでから俺の手を握った。
どうせ、はたから見れば、弟の手を握るお姉ちゃんにしか見えないわけだが。
大事な確認を怠るところだった。
「エレナ、母さんから幾ら渡された?」
お金の確認はどんな時でも大事。
デートならば、なおさらだ。
「え!お金の確認なんて、なさるんですか?」
エレナが驚き、あきれたように俺に聞いてきた。
「そりゃするよ、恥は搔きたくないもの。」
「それは私がお金の勘定を間違うってことですか?」
ちょっとムッとした面持ちで、エレナが聞いてきた。
「そうじゃないさ、何か起こって、お金が足りなくなる場合もあるじゃないか。思いのほか手持ちが少ないとか。」
俺は正論を言ってみる。
「ああ、そうですね。そういう事もあるかもしれません。でも足りなかったら屋敷に取りに来てもらうものですよ?」
エレナは自分が発した不満を引っ込めたようだが、貴族としての当り前を提示してきた。
「でもそれってスマートなやり方か?」
俺が疑問も呈する。
「いえ、違いますね。わかりました。では、ちょっと確認しますね。」
と、言って、その場でエレナは袋を広げようとしたから
「あそこのベンチに座って確認しよう。」
俺は手近なベンチを指さし、三人で座った。
「じゃ、確認しますね。」
エレナは母さんから貰ったんであろう、真新しい革袋を取り出し、中身を確認し始める。
ローズと俺は座ったエレナを囲んでガードだ。
「大銀貨1枚、銀貨5枚、銅貨5枚ですね。」
エレナが端的に報告する。
「大銀貨!」
ローズが驚きのあまり声を上げるので、咄嗟に塞ぐ。
日本円換算で、15万5千円だ。
子供のデートの金額じゃないだろ。
親バカめ。
まあ、使って良しということで持たせたんだろう。
存分に使ってやろうか。
「エレナ、お昼は美味しいものが食べられるな。」
「え!私もよろしいんですか!?」
「お目付け役が使用人席で冷飯食べても仕方ないだろ。」
「やったー!」
食いしん坊エレナは健在である。
*******
テクテク北へ歩き、劇場までやってきた。
劇場はドーム状の屋根の凝った建築に見える。
屋根の上には「セイナリア市民劇場」と看板が建ててあった。
「さて、演目は。」
俺は凝った作りの掲示板に目を向けるが、高くてよく見えない。
こういう時ばかりは子供の身体が恨めしい。
「お貴族冒険者の大冒険!て書いてありますね。」
エレナが変わりに読み上げた。
お貴族冒険者だと?
はっはっは、まさかな。
「超一流剣士、旋風の剣ローレンと、若くして大魔法使い、閃姫アリーナの大冒険。だそうですよ。」
あいたたたた
嫌な予感が当たった。
まあ二人とも有名人だし、冒険譚の演目としてはピッタリなんだろう。
ベヒーモスの話も知れ渡ってんだろうからなぁ。
「これ、ご領主様と奥様の事なんじゃ?」
ローズが言い当てる。
見事だよ。
「あ!そうだ!ローズすぐわかって凄いわね。」
「話のネタに見て行こう。自分の親がどんな風に演じられているかと思うと楽しみだな。」
「話のネタじゃなくて冷やかしのネタでしょ?」
エレナが不穏なことを言う。
「君、そんな不穏なことは思っても言うものじゃないよ。わかったかね?」
「はい、承知いたしました。」
「はっはっはっは」
二人で笑い合う。
隣で手を握って待っていたローズの目が呆れていた。
「あと鐘半分くらいで始まるみたいですから、入って待ってましょうか?」
「そうだね。そのくらいの時間なら、待っていよう。ローズもいいよね?」
「はい!」
ここでやっとローズが可愛く笑った。
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