99.アベルくんと同棲と結婚。
99.アベルくんと同棲と結婚。
代弁か。
ローズにそう言ってから、自分でも考える。
リサが話してくれなかったら、俺も正直把握しきれなくて、こんな状況にならなかっただろう。
そんなことを考えながら、馬車に揺られている。
隣ではずっとモジモジしているが、ひっきりなしにしっぽが振れている獣人と、俺の正面で、ずっとニマニマ笑っている妙齢の女性が座っている。
「なんだよ、エレナ。」
俺は正面で笑みを湛えながら座っているエレナに話しかけた。
「いえ、可愛いなと思いまして。」
エレナはお姉さんムーブで上から目線だ。
「ローズのことな。元がいいのは当然だが、ミーの化粧も凄いな。」
俺はあえて外したことを話題にする。
「アベル様のそう言う所ですよ。」
「ああ、そうかい。」
俺はそう言って口をつぐむ。
「駄目ですよ、男の子がちゃんとエスコートしなきゃ。早く話題振って、早く。」
こいつ!面倒くせぇな。
誰だよ?こいつを今回の担当メイドにしたのは。
まぁ、母さんだろうけど、カトリーヌのような落ち着いた娘でもよかったんじゃないのか?
「ローズぅ、アベル様が構ってくれなくて寂しいねぇ、」
今度はローズを構い始めた・
「ん!!な、なに?エレナ姉、どうしたの?」
肝心のローズは上の空だったらしい。
「ほら、アベル様がお話してくれないから、ローズが上の空じゃないですか。」
感慨に耽っていたっていいじゃないか。
それはエスコートじゃなくて、空気読めねぇってんだよ。
「あのな、エレナ。お前とユーリがデートの時にどうかは知らんし、知りたくもないが、人のおせっかい焼くのもいい加減にしろ。」
ちょっとキレた。
うん、ちょっとだけ。
「そんな強く言わなくてもいいじゃないですか。もちろんユーリとは甘々な空間ですけどね。」
こいつ全然こりてねぇ。
「えっ!なに!?ケンカ?エレナ姉、やめてよ!アベル様を怒らせないで!」
さっきまで上の空だったローズは状況を掴めずに狼狽えた。
「ローズ違うのよ、アベル様にね、デートの正しいやり方をレクチャーしていたの。ねっ!アベル様っ!」
エレナは言うと同時にウインクをする。
ねっ、じゃねーし。
バカか。
「ローズ、どこ行きたい?」
俺は無視を決め込んだ。
それを聞いたローズは
「えっと、どこでも、いえ、アベル様が行きたいところで。」
おいおい、そんなこと言うと、危ないところに連れ込んじゃうぞ、ぐへへ。
なんてな。
ロリ属性は無いからね、
俺の方が5歳も年下だし。
「アベル様、目が嫌らしい。」
またエレナが絡んできた。
しかしだ。
「じゃあ、劇場でも行こうか。何かの冒険譚をやっているって聞いたから。」
無視、無視。
「いいです!アベル様そういうの!とてもいい。」
何なんだよ、エレナは。
こんなウザかったっけ?
「エレナぁ。ユーリとお前、倦怠期か?」
エレナが思わずビクッ!とする。
おいおいマジかよ。
二十歳そこそこでそんなんじゃ、アカンのではないか?
「い、いえ、そんなことありませんけど?」
ちょっと上擦った声で否定するエリナ。
「そう?母さんに言って、ユーリと同じ部屋にしてもらおうか?スキンシップは大切らしいからね。」
俺は5歳の口調で、大人の話題を振る。
「アベル様、大人をからかっちゃいけません。大丈夫です、ユーリと私は大丈夫なんです。」
おや、マジでエレナの調子がおかしくなってきた。
「そうか、なら部屋も今までどおりでいいね。」
俺がそう言うと
「いえ、いえアベル様。奥様にお願いできますか?」
婚前の同棲も辞さぬと!
こりゃ根が深いかもしれん。
「今、厳しい感じ?」
俺はまじめな顔でエレナに状況を聞いてみた。
「はい、ユーリの訓練で離れることが多くなってから、お互いギクシャクしちゃって、結婚も延び延びになっちゃいましたし。」
ギャー!マジネタだった。
「そうか、エレナの方から心が離れたなんてことはないよね?」
「ないです。ないんです…」
「じゃ、ユーリの気持ちを聞かなきゃだね。父さんや団長に頼むと上司の命令になっちゃいそうだし、母さんだと攻めまくるだろうしなぁ。」
「ヨハン様ならどうでしょう?」
ローズも話に入ってくる。
「ヨハンは年齢は320以上だから歳は食ってはいるけど、独身だしな。」
「ヨハン様にはマリアさんなんかはどうですかね?同じ長命種ですし。」
エレナが余計なことを話しかけてきた。
「馬鹿、まずはお前の話の方が先だろ。僕が聞いてみるのが一番かもな。それともエレナ、このセイナリアで結婚式しちゃうか?」
「えーーーーー!」
女性二人が絶叫する。
「アベル様、冗談ですよね。」
エレナが俺に食いついてくる。
「冗談ではないよ。早急且つ完璧に解決しちゃうしな。ただ、その場合でもちゃんとユーリの気持ちは聞かないと。」
「完璧に解決するんですか?」
ローズは疑問に思っているようだ。
「だって、さすがに騎士爵と男爵の娘が婚前に同棲は出来ないけれど、でもここで婚姻すれば一緒に住めるだろ?」
え?エレナが男爵の娘って知らなかったって?
うん、設定、設定。
「そうですね、いいですね!!」
ローズはもう自分の事のようににこやかになる。
「お父さんたちはどうするんです!?」
親の話まで出てきたか。
まんざらではないんだな。
「寄り親の領主とその夫人が保証人に立てば、エレナの御父上も文句はあるまい。寄り親で足らなければ宰相夫妻でもいいぞ。氏神の神殿で式を挙げられるしな。ヴァレンティアに帰ってもう一度派手に挙式をやればいいんだし。とにかく俺は、お前の家族より、お前ら二人の精神状態の方が心配なんだよ。」
「アベル様…」
エレナが湿った声を出し始めた。
「まあ、俺がユーリの気持ちを聞いてみるよ。それからでも遅くないだろ。こら、もう二十歳過ぎの娘が、そうめそめそすんなよ。」
「はい、アベル様…」
エレナはそう言って目がしらにハンカチを当てた。
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