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97.アベルくんとローズのデート。

97.アベルくんとローズのデート。




 俺が食堂を出ると、別邸専属メイドのカトリーヌが通りかかった。

 「あ、ちょっといい?」


 俺が声を掛けけると、にこやかに彼女は振り向き


 「なんでしょう?アベル坊っちゃま。」

 と、聞いてきた。


 「ローズを探しているんだ、見かけなかったかな?」

俺は自然を装い聞いてみる。


 「ローズですか?何かあったのですか?泣いて落ち込んでいましたが。」


 まだ泣いているのか。

 ふむ。


 「そのフォローでね。で、どこにいる?」

まあ、ある程度のことは知っているんだろうと思いながら、ローズの居場所を聞いた。


 「使用人の控室でございます。呼んできましょうか?」

 カトリーヌが気を遣ってくれる。


 「いいさ。二人で話をしなければいけないんだ。」

廊下でする話にもならんだろうからな。


 「左様でございますか。それでは私はアーサーに用事がありますので失礼いたします。」

 丁寧なお辞儀をしてカトリーヌは去ろうとしたので


 「ごめんね、仕事中に対応させて。じゃあね。」

 俺は軽く右手を上げ、彼女と別れた。

 

 テクテク歩いていると、使用人用の控室に行く途中でリサに出会った。


 「アベル様、おはようございます。」

 出会ったリサは朝の挨拶をしてくれた。

 

 「うん、おはよう。」

 俺があいさつを返すと

 

 「アベル様、ローズをあまり虐めないで。」


おい、急に何だよ。


「虐めているつもりはないんだけどな。ちょっと俺とローズの感覚にずれがあっただけだよ。」


 「アベル様は5歳だけど中身は大人。ローズにはもっと優しくしてあげて。」


 えっ!?

 リサ気付いてんの?


 「リサ、大人ってなんだよ。見ればわかるだろ、僕はまだ子供だよ。」

俺は心底焦りながらリサに反論を試みた。


 「ううん、そういう意味じゃない。大人と対等という意味。ご領主様、アリアンナ奥様はもちろん、お城の偉い人とも対等に話が出来る、私やローズでは出来ないことを、たくさん出来る人。」



 「そうかなぁ?リサやローズと変わんないよ。リサだって、仕事で気づいたことがあれば、マーガレットやカトリーヌに進言するだろ?それと同じさ。」


なんだよ、気づかれたんじゃなかった。

そう思うと、若干の余裕が出てきた。


 「仕事の立場とも違う、一人の人として王族の方々と肩を並べられる人。ローズは、そんな大きい人といつも一緒にいる、だけど追いつけない、すれ違うのはとても悲しい。だから。」

 

 女の子の気持ちの機微を知るのは俺には難しい。

 更に彼女らはこれから思春期に向かう。

 知ろうとしても、もっと難しくなっていくんだろう。

 俺に分かんのか?

 そんなん。

 

 「まあ、ローズと話をしてみるよ。出来るだけ優しくね。」



 「うん、そうして。ローズはこの5年間、アベル様だけを見てきた。アベル様もローズを見てやって。お願いします。」

 そう言うと、リサは深々と頭を下げた。


 「リサが頭を下げる必要はないさ。女性の気持ちを汲み取れるよう、努力しますよ。」

俺はなぜかリサに対し、大人に使う言葉になっていた。


 「はい。わかりました。では失礼します。」

 そう言ったリサは、スッキリした笑顔で反対方向の廊下を歩いて行った。


 「ふう、困ったな。」

 なるようにするしかないか。


 所詮前世はキモオタだしな。

 「ほな、行きまひょか~。」


 心を軽く入れ替え、控室に向かった。

 

 控室のドアの前。

 ノックをしようとする手を止めて、一旦心を整える。


 「ふう、よし!」

 コンコンと二回ノックをした。


 返事がない。


 まあ、入るか。


 そっとドアを開けると部屋の中の開けはなれた窓から、まだ朝日が差し込み、カーテンが弱い風で揺れていた。

 

 その静かな控室のテーブルの上に頭を伏せ、顔を両腕で覆っている10歳くらいの女の子が居た。

 

 「ローズ、起きてる?」

 俺は顔を伏せているローズに聞いてみる。


 返事がない。

俺はそっと静かに備え付けの椅子に腰掛けた。


 「ローズがここまで怒ったのは初めてだね。びっくりした。」

 俺は独り言のように続ける。


 「いつもはローズがお姉さん風を吹かせているくせにね。」

 こう言ったら、ローズが握っていた手が微妙に動く。


 「リーサは前からあんな奴だし、まして僕の命の恩人だ。無碍には出来ない。だからこそローズは今まで僕らになにも言わず、付き合ってくれたんだろう?」

 「グズリ」

 鼻をすするような音が聞こえる。


 「でも今日はローズの気持ちをもっとくみ取るべきだった。また分かってくれると思った僕の甘えだったんだね。」


 俺はそっと

 


 「ごめんね。」

 

  

 だけを言って、椅子から下り部屋を出ようとしたその時


 「ドスン」


 と身体がぶつかって来たかと思うと、後ろから抱きしめられた。

 


 「ごべんな゛ざいいぃ、アベルざま゛、ごべんな゛ざい゛ぃぃぃ」

 言葉にならない声と泣き声が混じる音が耳元で響く。



 「僕は怒っていないよ。怒ったのはローズだろ?」


 「でも゛、でも゛…」


 「うん、わかった、そっち向いて顔を見ていい?」



 「い゛や゛だ、みないで」

 俺を抱きしめ、顔を背中にうずめながら、いやいやをするローズ。


 こりゃとりとめもなくなっちゃうな。

 強行突破で行くか。


 「ローズ、これはお前が育ててきたアベルのお願いじゃない。主としての命令だ。」

 俺の背中でビクッとするローズ。

 「商業地区にデートに行こう。」

 

 泣き声が止まる。

 抱きしめていた腕の力も弱まった。


 「よそ行きの服くらいは持ってきただろ?ちゃんと着替えてくるんだ。デートだからな。僕は父さん達に外出の許可をもらってくるよ。」

 そう言うと、背中で頭が下がった感じがた。


 そして小さい声で



 「はい…」


 と聞こえた。




「じゃ、僕は玄関ホールで待っているよ。気が済むまで準備していいからね。」



俺は後ろを振り向かずに、控室を後にした。




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