95.アベルくんと魔神の祭壇。
95.アベルくんと魔神の祭壇。
「陛下、近衛の副団長がお目通りを願い出ておりますが。」
メイドが取り次ぐ。
ほら、食べておいて正解。
「呼んでくれ。」
王の返事は端的だ。
呼ばれて来たのは知った顔だった。
王城ゲート前で、父さんと言葉を交わしていた。
えっと、ん…あ!アレク、アレクさんだ。
最近登場人物が多すぎるんよ。
誰か整理してくれんか?
アレクさん、副団長だったのか。
偉い人だったんだね。
「皆様、失礼いたします。ルーファス・メイフィールド男爵のセイナリア自宅より調査から戻りました。」
男前の近衛騎士団副団長が王の前で気を付けをして、報告を始める。
「うむ、報告を聞こう。」
王はお茶を一口すすり、目を瞑る。
「こちらで報告してよろしいのですか?」
まあ、いろんな人がいるからね。
一番異質なのは、俺たち親子とリーサだが。
「ここは関係者だけだ。構わん、進めたまえ。」
王はアレクさんに報告を促す。
アレクさんはくるりと周りを見渡すと、俺と母さんを認め、ちょっとだけニコッとしたので俺は小さく手を振った。
「では、報告いたします。
王城第二食堂での事件後、我々近衛騎士団5名で貴族住宅街にある、メイフィールド男爵の自宅へ調査に入りました。」
先ほどの気が張った口調から、淡々とした報告のために口調に変わるアレクさん。
「玄関ホール、食堂、リビング、厨房、礼拝堂、使用人用の部屋及び寝室4室、風呂場、トイレ3室、男爵の書斎、男爵御夫婦の寝室、お子様方の部屋2室、客間3室、他、全て調べて参りました。」
男爵の屋敷でこの大きさかよ。
「現在も3名の近衛騎士による調査は行われておりますが、前段階の調査では不審なものは出ませんでした。ただ、礼拝堂が…」
ん?
アレクさんが口ごもる。
「礼拝堂がどうした?」
王が報告を促す。
「私の知らない神の紋章が祀ってありました。私の雑なスケッチで恐縮ですが、このようなものになります。」
へー、六芒星。
この世界では珍しいのか。
前の世界じゃ攻撃的な一神教のシンボルであり、魔術魔法のシンボルでもあったよね。
日本では籠目として有名だ。
一神教については、相手の一神教も攻撃的だから、どっちもどっちか。
「これだな。」
王がそういって懐から、六芒星の付いたペンダントを出した。
「これは治療中の男爵から拝借したものだ。」
そう言って王がペンダントを掲げる。
「王様、見せてくれる?」
リーサが王に近づく。
「おう、良いぞリーサ殿。」
そう言って、気さくな仕草でペンダントを渡す王。
そんな気軽な感じでいいの?
重要な証拠品かもしれないのに?
リーサの身体では、抱え込むような大きさのペンダントをテーブルに置き、表と裏、つないであるチェーンなんかを入念に調べるリーサ。
臭いまでかぎ始めた。
必要か?必要なのか?
「魔神の紋章よね、これ。」
リーサがようやく口を開く。
うん、そうでしょうとも。
そこにたどり着かなきゃおかしいんだもの。
「魔神!?」
王が反応する?
知っているのか雷〇!?
民明書房はノヴァリス王国には無い。
「アベル!」
リーサがジト目で迫ってくる。
ごめんて、ついだって、つい。
「あら、王様は知っているの?」
リーサが気軽な感じで王に質問をした。
「うむ、この国では祀っている者もほぼ居ないがな。魔法に関するもの、魔素を司っているといわれる神だな。」
リーサから返されたペンダントを見つめ、誰に言ったわけでもなく、王は独り言のように言った。
流石に王は知っていたか。
しかし、礼拝堂に、祭壇まで作っていたって事は、男爵の単独犯説が色濃くなったって事だろうか?
「農業関連の強い領地なら、ナトリア様を祀っているのが普通だと思っていましたが。魔法に傾倒していたのでしょうか?」
と、俺が発言してみる。
ナトリア様は、農業一般を司る、地母神様だ。
地母神なんだから、女神だよ。
「ナトリア様の礼拝堂の中に、新たに作ったみたいにその紋章の祭壇がありました。」
アレクさんが説明すると
「後で魔神用の祭壇が作られたという事か。」
と、王がアレクさんに確認する。
「そのようでした。そう何度も祈祷のようなものを行ったようには見えませんでしたね。」
アレクさんはあくまで聞かれたことを簡潔に答える。
「領地の屋敷も調べを入れなければならんな。」
疲れた面持ちで王がアレクさんに話す。
そりゃ疲れるよな。
息子に呪いをかけられ、その呪いをかけた犯人を特定できたと思ったら、そいつが人外に成り下がり、残っているのは、あまり知られていない神の祭壇のみ。
つかみどころのない事件になっちまった。
「アリアンナ、アベルたちを連れてもう帰ってもよいぞ。どうもここまでで手詰まりのようだ。男爵の領地で何か出ればよいが、それまではもうこの手掛かりで何もわかるまい。」
「陛下、かしこまりました。アベル、リーサちゃん、帰るわよ。準備なさい。」
母さんも帰りたかったのだろう、即決だ。
「はい、母さん。」
俺は椅子から立って身支度を整える。
控室の連中も待ち疲れたろう。
「リーサ殿、お帰りになるのですね。」
王妃はリーサが帰るのが名残惜しいのか、そんな声を掛けた。
「私のお家はアベルの家だもの。二人が帰るなら、帰らなきゃね。王妃様もごきげんよう。」
リーサはそう言ってスカートを翻す。
「アベル様、お帰りになるのですね。またお会いできますか?」
椅子に座ったままの王女が、上目遣いで俺を見る。
こういうテクは誰が教えるのだろう?
女性の遺伝子に組み込まれているのかな?
「そうですね、私も随分疲れました。また何かあればお城に伺うと思います。」
俺はそう言ってにっこり笑い、王女と距離を取る。
母さんは爺ちゃんと何か話をしていた。
その爺ちゃんがこちらを向くと
「アベルや、また家においで。クリスも待っておる。リーサ殿も是非今度はおいで下さい。」
爺ちゃんはニコニコと話しかけてきた。
さっきまでの狸爺はどこへ行ったのやら。
飄々と人を食った感じはなく、そこに居たのは母さんの実家の爺ちゃんだった。
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