94.アベルくんと事件の顛末。
94.アベルくんと事件の顛末。
「南部は伯父上の領地があるからの。言わばホームだ。同じ南部のメイフィール男爵は寄り子なわけだな。」
「その男爵のお家には?」
リーサが聞くと
「今、近衛の数名が向かっております。」
爺ちゃんが答えた。
なんだ、やっぱ爺ちゃんは事件の概要を知ってたんじゃん。
このたぬき爺め。
俺がチラッと睨むと、ウインクを返す爺ちゃん。
なんだ、この人。
「あとはこの近衛騎士の報告を待つだけですね。」
言ってから、母さんがちょっと疲れたよう首をほぐす様な仕草をした。
胸がデ…いや、なんでもない
俺、顔に出た?
いや、殺気なんて感じなかった。
「うん、そうだ。しばらくたてば戻ってくるであろう。」
王が母さんに答えてくれたので
「では、陛下たちが来る前に、僕たち三人で話したことがあったのでまずそれを報告します。」
そう言って、俺はロベルト司祭クラスが居れば、誰かを依り代に呪術を掛けられるのではないかという推論を話した。
「ふむ、それでは今回の呪術はメイフィールド男爵に返されたが、メイフィールド男爵が呪術を行ったとは限らないという事ですな。」
爺ちゃんがそう言う。
「そう、リーサの話だと、呪術は神の神気が必要で、その神気を神から得られるのはある程度修業を積んだ者だけという事みたい。ね、リーサ。」
「そうね、何も祈りもせずに何かを与えてくれるほど、神々は大らかじゃないと思うわ。」
お前は大らかというよりおおざっぱだけどな。
「なによ!」
みんなが居るのに頭を読むな。
「リーサ殿、もう一度確認するぞ。リーサ殿が呪術を解き、その呪術はメイフィールド男爵に返った。まずこの点。」
王が一個一個確認するようだ。
「ええ、いいわ。」
「そしてここからは其方らの推論。メイフィールド男爵が呪術を行ったとは限らない。これがまた一点。」
「そうね。」
「そしてそのように他人を依り代のよう扱うことが出来るのは、修業を積んで神気を神から与えてもらえる者だけである。最後の一点。」
「そうなるわね。」
リーサが言い終えた後に
「メイフィールド男爵のみの単独犯だとして、その動機もまだわかってないですよね?」
と俺が聞いた。
「そうだ、単独犯だとしても、実行犯だとしても、まだ動機が分からん。というより動機がありすぎてわからんのだがな。」
ハハハと乾いた笑いを浮かべる王。
「いったい誰を狙ったんでしょうね。」
俺はぼんやり呟いた。
「単純な謀反なら、儂。王家を混乱させるためなら誰でも。この部分では要素があり過ぎて焦点にならんな。」
王はぶっきらぼうに言った。
そうなんだよな。王家を狙うってだけで目的になってしまう。
「男爵の家から何か出てくるのを待つしかないでしょうな。」
爺ちゃんが唯一の手がかりを言った。
「リーサはどう思う?」
俺がリーサに問うた。
「話が大きすぎてわからないわね。狙いって言うのなら王様が言ったとおりだし、手掛かりって言うなら男爵が呪術を行った主犯だったら、何らかの神の祭壇があるはず。でも祭壇は貴族の家なら、どこの家でもあるでしょ?アベル、これ手詰まりじゃない?」
リーサさん、今それを言わないで…
「言いたくないけど、その様相は呈しているね。」
俺はリーサの言うことが否定できなかった。
「陛下、男爵のその後は?」
と王に聞いてみた。
「治療師のもとで治療はしたがな、あれもう人間とはいえんな。」
「そうね、あそこまで魂が侵食されたら、戻れないかもね。」
リーサはしれっと怖いことを言う。
でも神にとって人間なんてその程度なんだろう。
俺の事はまだ興味があるから一緒にいるだけなんだろうな。
「あら、そんなことないわよ。私はみんなに優しいリーサちゃん。」
また頭の中を読む。
やめなさいって。
でも、こういう注意は聞いていない模様。
「もう話すことが出来ないってことですか?」
俺は王に敢えて確認をする。
「そうだ。リーサ殿が申したとおり、魂が壊れたようにしか思えない状態だ。」
「では、証言は得られないんですね。」
「残念だがな。」
王の答えは率直だ。
まあ、そうか。
そうだよな。
そろそろ帰りたくなってきた。
と、思っていたところに、部屋のドアがノックされ王妃と王女、それと数人のメイドが軽食の用意をしてこの部屋に入ってくる。
マジかよ、帰れないじゃん。
まあ、半責任者的な立場だろうから、帰れないけど。
彼女らはお風呂に入ってきたばかりなのだろう、髪はまだ乾き切れておらずに、少し濡れている。
まあ、失禁したままでは居られないから、当然の処置だろう。
到着したばかりの王女がちゃっかり俺の隣に座り、王妃が口を開く。
「いろいろあって、お疲れでしょう。完全な食事にしてもよかったのですが、軽い物の方がいいと思いましたので、見てのとおり軽食をお持ちしました。アベル、小さいのに大変だったわね。お腹、すいているでしょう?さあ、遠慮せずにおあがりなさい。」
「アベル様、食べさせてあげますよ。」
そう言って王女はパンの様な物を手に取ろうとする。
「いやいや、どこも怪我などしておりませんので、自分で食べられます。お気遣いありがとうございます、王女様。」
「まあ、照れておいでなのですね。私とアベル様の間にそんな必要はないのですよ。」
王女は俺を容赦なく追い立てる。
そこへ王が王妃たちに質問をした。
「其方たちは大丈夫なのか?気絶をしておったであろう。まあ、それだけではなかったようだが。」
王は最後の余計な一言によって、女性二人から睨まれる。
「おかげさまで。メイド達がこぞって処置をしてくれましたから。多少、違和感がありましたが、そこはお風呂に入ってリフレッシュいたしました。ねぇ、オリビィ。」
「はい、そうですね、お母様。」
王女はお淑やかに答えた。
愛称呼びか、珍しいね。
まあ、二人とも気絶して失禁しましたとは言えまい。
話始めた王家の三人を横目に食事を始める。
お昼を抜いての騒ぎだったので、スコーンのようなビスケットがうまい。
それをお茶にチョイ漬けしながら、がっつきそうになると母さんが睨んだ。
仕方ないじゃん、僕、腹ペコ男の子だよ?
上目遣いで母さんを見る。
うん、俺が今更かわい子ぶってもダメなものはダメだな。
知ってる、知ってる。
そうこうしているうちに部屋のドアを誰かが叩いた。
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