93.アベルくんと国を憂う公爵。
93.アベルくんと国を憂う公爵。
王の言葉を聞いた母さんが口を開く。
「王女様のお気持ちは大変ありがたく思っております。アベルも光栄でしょう。しかしまだ4歳と5歳の子供の気持ちなど、移ろい易いものでございます。陛下、あまり本気になさるものではないと思われます。」
母さんが刺のある物言いをした。
まだ怒っているんだね。
「母さん、もう陛下はこの話はしないと言ってくださったのです。よろしいではありませんか。しかし、私にはその裏があるように見えるのですが、何かお二人には不安な要素でもあるのですか?」
このしつこさは、なんか裏があるよね。
いや、オリビア王女自体もしつこいけどさ。
「アリアンナ!これが5歳の子供の物言いか!」
いきなり王が憤る。
「アベルは3歳からこのとおりでしたわ!」
嫌だな、母さん。生まれたときからだよ。
って、なんか、俺、悪口言われているよね。
「お二人とも、まあまあ、アベル、何か気付いているのかの?」
爺ちゃんは二人を諫めながら俺に質問してきた。
「うん、薄ぼんやり?セイナリアに来てから、キナ臭いというより、実質被害を受けているからね。ヴァレンタイン家はセイナリアに歓迎されていないのかなって。」
俺がこう言うと、爺ちゃんは
「爺ちゃん、婆ちゃんはそんなことないぞ。王家の方々もだ。」
などと言ってくる。
まあ、この両家は信じていいと思うけどな。
「セイナリアに入る前に盗賊に襲われて、今回間接的とはいえ呪術騒ぎ。なんだかね、何かあるなって思うじゃない。まして、パーシー公爵はカマかけ来るし。」
「アベル!」
母さんが俺を怒鳴る。
「ほう、アベルは伯父上に会ったのか。アベルにはどんな人物に見えた?」
怒鳴った母さんを気にすることなく、王が質問してくる。
「優しいそうなお爺さん、という感じでしょうか。」
「ほう、しかしカマはかけてきた。そうだな。」
ああ、クソ!
回りくどい。
「そうですね。母さん、もうぶっちゃけるよ。めんどくさい。皆さん腹割りましょう。」
俺がそう言うと、母さんは思い切り渋い顔をした。
王は右の口角が上がりニヤリと笑い、
爺ちゃんは小さく、ため息をついた。
母さん、そんな顔するなら、最初から打合せしてよ。
顔を見合わせている王と爺ちゃんに向かってもう一言俺は発する。
「ではそちらから私たちとすり合わせたい情報を提示してください。」
子供ばかりから引き出そうするな、な!
「うむ、少々宮廷闘争の癖が強すぎたか。のう、宰相よ。」
「そうですね、陛下。」
「よし、あい分かった。余もぶっちゃけよう。
アベルや
余の伯父のパーシー公爵な
あれは敵だ。」
うん、知ってた。
じゃなきゃなんなんだよって話。
「でも100%ってわけじゃない?」
俺が王に補足する。
「うむ、そのとおりだ。彼は彼の正義で動いておる。利害が一致しない部分があるってことだな。それは何故か、彼はヴァレンタイン家が大き過ぎていると感じておる。」
「だから僕の家族にちょっかいをかけていると。」
俺がそう言うと、王はニッコリ笑って
「うん、やはり分かり易くて気持ちが良いな。宰相よ、これからすべてこうやりたい。」
と、言った。
「陛下…」
それを聞いた爺ちゃんは顔をしかめる。
「わかっておる。ヴァレンタイン家は守備の要だ。兵力を割く気はないし、割くわけにはいかん。500年前の戦と言えど、敵国である聖王国が隣接しているわけだからな。このノヴァリス王国を其方の領がまず守ってくれねばならん。しかし、この戦力が彼の気に入らぬところだ。しかも其方の祖父も両親も強力だからの。更に、深紅の大穴から湧いて出る、魔石で潤う資金も気に入らないときておるわけだ。最後に言えば、其方とシャーロットが生まれてきた。ヴァレンティアの至宝と言われ知力に魔法に優秀な兄弟が、たった10年余りで二人とも国中に知れ渡った。この意味、わかるの?」
「はい。わかるつもりです。」
「其方らの領は強く、潤い、そして成長している。それが彼には脅威に映るのだ。もう70も過ぎたから、ドンと落ち着いてくれれば良いのだが、彼は彼なりにこの国の行く末を憂いておる。わかってくれるな。」
わかるけどさ、それで命を狙われたらたまんないぜ?
「はい承知しております。」
「唯一弱点であった、ローランド卿の尋常ならざる仕事量の多さも、其方があっさり緩和させてしまったからの。そこの爺の模倣とはいえ、伯父上も頭を抱えただろう。」
この言葉を聞いて爺ちゃんはニッコリとしてまた渋い顔に戻す。
城の官僚制度化がこんなところで効いてくるとは思わなかったよ。
ピタゴラスイッチもいいところだ。
「しかしだ、表向きには其方らに一切手出しをしていない。
もちろん王家にもだ。
これも意味が分かるな。」
「はい。」
「は!また回りくどくなってしもた。
宮廷の毒は抜けんものよの、宰相。」
「はい、左様でございましょう。」
「アベルよ、向こうは手出しせぬ、だから手出しするな。わかったな。」
「裏から来たものは?」
「好きにせよ。」
よし、言質は取った、好きにしよう。
「承知いたしました。」
そう言って頭を下げた俺を見て、母さんは頭を抱えた。
「うむ、だからこそだ、王家とヴァレンタイン家の更なる絆を深めるため、オ…」
「王様、アベルの結婚話より先に、あたしと話があるんじゃないの?」
ビックリした!
急にリーサが俺と王の間に割って入る。
物理で。
飛んで来てってことね。
「おお、リーサ殿、そうであった。貴族の話ばかりして申し訳なかったの。王子の呪術の話だ。まずはそれを片付けよう。」
そう言って、リーサに対しかしこまる王。
「そんなかしこまらなくてもいいわ。それより捕らえた貴族は何者だったの?」
リーサは俺の右肩まで飛んできて、そのまま座る。
定位置だ。
「貴族の名はルーファス・メイフィールド男爵。南部の小さな領主だな。だが、果樹園でそこそこ名をはせておってな。小さい領地の割に、潤っていたようだ。そこで、果樹園を代官に任せ、セイナリアで派閥遊びに興じる、一貴族って感じかの。」
王は男爵の素性を簡単に説明してくれた。
「その派閥が王子の取り巻きの派閥であったと?」
「うむ、そのとおりだ。伯父上の派閥だの。」
またパーシー公爵かよ。
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