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92.アベルくんと魔素と魔獣。

 92.アベルくんと魔素と魔獣。




 王家の3人と貴族10人余りが気絶及び失禁という状況の中、いつまでもここに居られないので、母さんと俺、リーサ用に別の部屋が用意された。

 

 「しかし、あいつ迫力あったな。」

 俺が一言言うと


 「呪術によって、人があんなふうに変わるのね。」

 母さんが答える。


 「あれは変わる途中だと思うわよ。」


 「へ!?」


 リーサが言った一言で、俺と母さんが固まる。


 「そうね、もっと魔獣のように変わると思うわ。」

 リーサは何事もないように言っているが、俺と母さんはそんなホラー展開は求めていなかった。


 「それってさ、魔獣だと思っていたのが実は人間だったって事もあり得るってこと?」


 「そうね、魔素溜りの変異体だと思っていたら、呪詛返りの人間でしたってことは考えられるわね。」

 リーサはさぞ当たり前のように、そっけなく答えた。


 「マジかよ…」


 この世界では魔素というものが空気中を漂っている。

 これを呼吸により吸収し、魔法使いは魔力に変える、これがこの世界の魔法の基礎だ。


 そしてこの世界の人間たちには、その魔素を体内に溜める器官がある。

 それが魔素溜りだ。


 魔法使いはそこに魔素をため込んで、魔力に変え、魔力をイメージした事象に昇華させる。

 これが一般的な魔法の流れ。


 俺とアンネの場合は、その魔素溜りに穴が開き、身体中に魔素が溜まる現象、仮に魔素タンク現象と呼んでいるが、その状態にあり、一般の魔法使いの何倍、何十倍の魔素がため込まれている。


 アンネが俺を蘇生できたのは、この魔素タンク状態だったからだ。


 普通の魔素溜りでは魔素が足りなくなって、俺は生き返ることが出来なかっただろう。

 まあ、魔素タンクはチートだよね。


 そしてこの魔素溜りが、自然界にできてしまう事がある。

 そこに、ごく普通の動物が魔素溜り付近に留まることで、身体に影響を及ぼし、魔獣化してしまう事がある。


 田畑や家畜、人への被害も起こるので、これらを狩るのも冒険者の重要な仕事だ。


 そうやって出来た魔獣だと思っていたものが、実は呪詛返りで魔獣になった人間だったかもしれないって事、それが今の話題だ。


「そんなに深刻に考えることでもないわ。呪術を使えるものは多くわないもの。まずは神気を扱えなければならないしね。」


 リーサは事も無げに言葉をつづる。


 「でもさ、あの貴族はその修業をしたことがあるって事だろ?」

 俺はリーサに疑問を投げかけた。


 「アルケイオン神殿のロベルト司祭クラスが居れば、素人を依り代にすれば出来ちゃうかもね。」

 リーサはヒラヒラ飛び回りながら、顎に指をあてて答えてくる。


 「ということは、今回の貴族は実行犯で、裏にまだ誰かいるって事かしら。」

 母さんが核心を突く。


 「とにかく陛下による取り調べが行われないと、何とも言えないよね。でもこの考察の報告だけはしておこうか。」

 俺は一人と一柱にそう言った。


 俺が提案した途端、扉がコン、コン、と鳴った。


 「はい、どうぞ。」

 母さんが対応する。


 「おお、アリアンナ、アベル、なんだか大変なことがあったそうだの。」

 ウィリアム爺ちゃんがひょっこり顔を出す。


 「そうね、ちょっと大事になったわね。」


 幾人もの貴族が昏倒した事件だ、軽いものではない。


 でも爺ちゃんは仔細を知らないみたいだ。


 慎重に受け答えしなきゃダメかな?


 「いったい何があった?幾人もの貴族が治療院に運ばれたが。」


 王妃と王女もその中に居たことも知らないのかな?


 爺ちゃんと王家の板挟みとか面倒くさいが、どうするの?母さん。


 宰相である爺ちゃんに仔細を知らせていないってことは、王家と宰相で軋轢があるって事なのか?


 もう、母さん、はよ帰ろ。

 

 すると、ドアがまた開かれ、今度顔を出したの王だった。


 「おう、ウィリアムも居ったか、ちょうど良かった。事件の仔細を説明せねばと思っていたところだ。」

 王は爺ちゃんを見つけると、笑顔を見せながら部屋に入って椅子に座る。


 「陛下、ちょうどアリアンナに聞こうと思っていたのです。」


 「そうか、其方らまだ何も話さなかったのか?」


 「宰相閣下もいらしたばかりでしたので。」

 母さんは王の前なので爺ちゃんを敬称で呼んだ。


 「敬称など使わなくてもよい、この5人ならば身内も同じぞ。のう、アベル、もうすぐ息子だからな?」


 「なんですと!どういう事です?陛下。」

 爺ちゃんはビックリした声を上げ、王に尋ねる。


 「オリビアをアベルにくれてやると申しておるのに、なかなか色よい返事をアベルがくれんのだ。祖父として説得してくれんか。」


 「なんと、アリアンナは知っておったのか?」

 母さんに話題を振る爺ちゃん。


 「以前来た時にもそんな話がありました。でも、歳がまだ若いという事で無くなったと思ったのですが。」


 「先程な、オスカーの前に立ち、身を挺して息子を守ろうとしたアベルに、痛く感動してしもた。もうこれは身内にするほかないと思ったわけだ。なぁ、アベルよ。」


 「先程の事ですか?王子をアベルが身を挺して守った。はぁ、なんと素晴らしい。わが孫ながら誇らしい思いでいっぱいになりますな。」


 「そうであろう?」


 この二人、実はもう話が出来てんじゃないの?

 なんかそんな感じがするんだが、気のせいか?


 いや、確信に近いな。


 「もう、お二人とも、お止め下さい。アベルが困惑しているでしょう?陛下も父様も結婚、結婚って、二人で見え透いた茶番をやって、ヴァレンティアのお義父様とローランドを抜きに何を言っているのです?」


 俺が思っていることを母さんが代弁してくれた。


 持つものは優しい母だ。


 「アリアンナ、そう怒るな、いや何、アベルの言質を取ったらローランド卿とエドワードには話をつけるつもりであったのだ。何も無碍しようなどと思っておらんぞ。」


 王は言い訳じみたことをいい始めたか


 「まだ5歳の子供から言質を取るだなんて。他の子供より言動が大人びようが、まだこの子は5歳なんです、もう少しそこを考えてほしいものです。」


 「うむ、陛下。今は控えた方が良いでしょうな。」


 「そうだな。アリアンナが頑なになってしまったのなら、今はもうするまい。悪かったの、アリアンナ、アベル。」


 王の言葉を聞いて、俺と母さんがホッとしていると

 「しかしだ、オリビアは諦めておらんぞ。これはオリビア個人の気持ちだ、余は関知せんからな。」




 まだまだ諦めが悪いおっさんである。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

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