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90.アベルくんと王子の取り巻き。

90.アベルくんと王子の取り巻き。




 「ヴァレンタイン辺境伯夫人及びアベルよ。面を上げ楽にせよ。」

 王がそう言ったので、俺と母さんは立ち上がり王に視線を向ける。


 「両陛下にはご機嫌麗しゅう。」

 そう言って母さんはお辞儀をする。


 俺もそれに合わせてお辞儀をした。


 「うむ、ヴァレンタイン辺境伯夫人、アベルの付き添いご苦労。して、アベルよ。今日は何ようだ?」


 あんた知ってんだろ。

 

 という突っ込みは無粋なのである。

 

 様式美よ、様式美。


 「本日はお目通り頂きありがとうございます、陛下。この度はこちらに居ります、東の森の希少種族、フェアリーでございますところの、リーサを連れてまいりましたので、陛下にご紹介したく参上致しました。」


 と、俺がリーサを紹介する。


 あー嫌だ、マジで面倒くさい言い回しだ。

 この言い回しでも半端者扱いだ。

 なんてこった。


 「王様、初めまして。東の森の妖精種、フェアリー族のリーサです。よろしくお願いしますね。」

 そう言って俺の前まで飛び、カーテシーで挨拶をするリーサ。

 あざとい、めっちゃ、あざとい。


 このあざとさに食いついたのは、誰あろう王妃。


 「まあ!可愛らしい!」


 決して椅子からは立ち上がらないが、身を前に乗り出し、そのままリーサを抱えて何処かへ行きたい雰囲気いっぱいだ。


 「王妃よ、そう慌てれるでない。リーサよ、見目麗しいものだの。もそっと、近くに来ておくれ。」


 そう王に言われたリーサは、チラッと俺の方を見る。


 俺が頷くと、ツーっと王の目の前まで寄った。


 ま、リーサに何かすれば、神罰が下るわけだが。

 どんな神罰かは知らんが。


 「おう、これは可愛らしい。リーサよ、くるっと回ってみてはくれんか。」

 王はそう言ってリーサにリクエストをする。


 調子に乗ってきたリーサは、キラキラ光るパーティクルを振りまきながら、小さなスカートを翻しクルッと一回転した。


 「はわぁ!」

 王族と思えない声を出す王妃。


 王妃は完全にリーサの虜、課金するのも時間の問題。

 されても困る。


 そんな両陛下を尻目に、スーっとこちらに戻ってくるリーサ。

 王妃は手を伸ばそうとしてグッとこらえた。


 王はこちらに戻ったリーサを見て

 「ああ、行ってしもたか。」

 と悲哀のこもった声を出してから


 「アベルよ、その愛らしいリーサ殿が回復魔法に通じておるのだな。」

 と、俺に声を掛ける。


 リーサに殿が付いてやがる。

 しかし、やっと本題が来た。


 「左様でございます。」

 俺はそう言って頷いた。


 「ふむ、それでは準備が整うまで待って参れ。」


 「はい。」


 母さんと俺は王の言葉を受け、両陛下に一礼し、控室に戻った。



 「まさか謁見の間に行くとは思ってなかったよ。」

 控室に戻った俺は、愚痴を言う。


 「ま、儀式よね。周りにこの者が王に会いに来たって知らしめなきゃならないのよ。」

 母さんが俺の愚痴に付き合って説明してくれた。


 謀反なんかを防ぐためにも必要なんだろうね。

 大っぴらな収賄とか。


 この体制のシステム的には合理的なんだろうけどさ。

 ねぇ。


 「貴族としてそういうやり取りも必要ってことだね。」


 「そうよ、わかって来たじゃない。」

 母さんはニッコリ笑って頷いた。


 かわよ。


 ガバナンスとかコンプライアンスとかこの世界で考えたくないのよ、本当は。


 「人間の貴族世界も大変ね。」

 リーサが会話に入る。


 「妖精種でもエルフの貴族もいるでしょう?」

 母さんが不思議そうにリーサに聞く。


 「いるんでしょうけど、私には遠い世界の人達だったからね。身近に見た貴族はヴァレンタイン家が初めてよ。」

 そんな話をしていたところに、メイドが俺たちを呼びに来た。


 「陛下がお待ちです、どうぞこちらへ。」

 そうメイドに促せるままに、我々二人と一柱は控室を出た。


 さて、どこへ連れていかれることやら。

 で、到着したところは前に来た食堂。


 入ると、この前の様なテーブルと椅子は撤去されており、中央に両陛下と王子、そして王女。


 で、貴族が数人。

 この人たちが、王子の取り巻きか。


 なるほどモブっぽい。


 もう一つ特筆すべきところは、入り口すべてに近衛騎士が二人ずつ張り付いているところだ。


 「遅くなりましたか?」

 母さんが聞いてみる。


 「いや、大丈夫だ、こちらも待たせたな。」

 王の口調も、ざっくばらんだ。


 「アベル様!」

 俺を呼ぶ黄色い声、オリビア王女だ。

 面倒くさいな、もう。


 「アベル、悪いな、お前が来たと知って聞かなくてな。」

 王がすかさずフォローに入る。


 「そうですよ、アベル様。来るのなら私に直接先触れをよこすべきです。」

 は?何のために?


 モブの方から

 「王女が家臣に様付けだと…」

 などと聞こえてきたがスルー。


 俺もちゃんと王女に注意はしたんだよ。


 「アベル!今日はシャーロット嬢はどうした!」

 もう一人面倒くさいのが居た。


 「オスカー王子、今日は姉を連れては来ていません。」


 必要ないしね。

 また怪我をしたら可哀そうだし。


 「何故だ!!」


 「姉は今回の用事に然したる必要がないものですから。」


 「貴様!用事がなくとも連れてくるものだろう?」


 わけわからん。


 「何のためにです?」


 「私が会いたいからだ。」

 「何故です?」


 「それは、その…」

 「姉に懸想されておられるので?」


 「貴様!!」


 俺は三人固まって雑談を始めた、リーサと王妃、母さんに視線を向ける。

 それに気付いた三人はお互い見合ってから、何やら情けないクシャってした笑顔を向けただけで、また話し始める。


 おい、この直情王子なんとかしろよ!

 勘弁しろ。


 あれか、子供同士の喧嘩は子供でというあれだな。

 要はめんどくさいってことだな。


 その脇ではまたモブ貴族たちが「王子が辺境伯令嬢に懸想!?」とか言っているし。

 その隣で王はニヤニヤしてる。


 「お兄様!いい加減になさいまし。人の気持ちの機微も分からないようでは、シャーロットお義姉様のハートなど射止められないですよ。」


 「なんだとオリビア!気持ちの機微だと!?」


 そう言って悩み始める王子。


 聞けばいいだろ。

 てか、なんだよシャーロットお義姉様って、王子と結婚させる想定か。


 いや違う、さては、俺と結婚する想定になっているな!

 てか、気持ちの機微って、お前は読む気もないじゃないか!


 「さて、そろそろ其方ら止めようか。アベルが困っているであろう?」

 あんた面白がって見ていたじゃないか。


 「陛下…」


 うなだれた俺を見た王は


 「悪かった、悪かった。困っている其方が面白くてな、ついだ。」


 こいつ!!


 「さて、皆に集まってもらったのには当然理由がある。なあ、アベル。」

 急に顔つきを変えた王が場を締め俺に振る。


 「種明かしするんですか?」


 「ああ、構わん。」

 ああ、そ。


 「実は、王子には呪術が掛けられている恐れがあります。それはとても危険で、王子を操り、その手で人を殺めることのできる呪術です。」


 俺は王を見る。

 それに気づいて王は黙って頷く。


 「現に先日私が王子に狙われ、それをかばった姉が斬られるという事件が起こりました。」

 俺は周りを見渡し、言葉をさらに発する。


 「その時の王子が放つ殺気は、子供が到底放てるものではありませんでした。数年、数十年、剣の修練を積んだ者のみが放てる殺気、そのようなものでした。私の祖父や父が放つことのできる、そのようなものです。」


 俺の言葉に

 「剣では無敵と一閃の剣が放つことが出来るようなものだと…」などと聞こえてくる。


 「この時点で私と王妃陛下は王子の異常を悟り、陛下へ王子の改善を進言いたしました。それをなせるのが彼女、東の森のリーサです。」


 俺がこう言うと、リーサは一瞬俺を見てベッ!と舌を出し、また澄まし顔に戻った。


 「彼女は回復魔法に精通し、ある種の呪いも解くことが可能です。私は一度命の危機を彼女から救っていただきました。私の魂が、身体を手放す寸前のところを救っていただいたのです。」


 まあ、実際には俺の魂は高次元に行って、Youちゃんと雑談していたのだが。


 「リーサにはここで王子の解呪を行っていただきます。それを皆様には見ていただき、証人となっていただきたいのです。私からは以上となります。」


 「うむ、アベル、説明ご苦労。皆も聞いたとおりだ。オスカーには何やら悪いモノが憑りついているらしい。それをリーサが解呪できるそうだ。その技をとくと見せてもらおうぞ。」





 手品じゃないんだからさ、そりゃないんじゃない?




 というわけで、リーサ出番だ。








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