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89.アベルくんと公爵様。


89.アベルくんと公爵様。




 アルケオン様の神殿に言った翌日。

 

 父さんに登城の先触れを出して貰い、また城へ向かうことになった。


 王や王妃にからかわれるし、王女には懐かれ、なぜか王子にはライバル視される。

 正直面倒くさくて行きたくない。


 王族があんなに面倒な連中だとは思わなかった。

 逆に言えば、堅苦しくなくて良いとも言えるけど。


 この登城に付き合う可哀そうな人たちは、母さん、護衛のユーリ、メイドのローズとエレナ。

 俺の肩にはいつものリーサだ。


 王子に掛けられた呪術の解呪という重大なミッションがあるのだ。

 だから今回の主役がリーサになる。


 母さんは5歳の俺を一人で城に行かせるわけもいかないので、お目付け役だ。


 「ユーリとエレナには悪いね、別邸でゆっくり二人きりにさせてあげたかったけど。」

 「いえ構いません。このよう仕事があるからこそ、二人の生活が出来るようになるのですから。」


 あら、ユーリってば言うようになったね。


 「そうですよアベル様、メイドの仕事があるから私とユーリの生活が成り立つです。ね、ユーリ。」


 エレナは相変わらずだ。


 「じゃ、ずっと共働きしたいってわけ?」


 「ジョージさんとマーガレット様ご夫婦みたいに働けるのもいいじゃないですか。」


 エレナはわざとらしく胸の前で手を合わせ、夢見る少女のごとく言う。


 「あれ、エレナ姉、専業主婦で食っちゃねするって言ってなかったっけ?」


 ローズから思わぬカウンターが入る。


 「あら、ローズったら、そういう選択もあるって話でしょ。」


 笑うエレナのこめかみがひくつく。


 「それじゃ、これまでのマーガレットの仕事量をエレナに分担してもらいましょう。彼女も身重で大変ですから。」

 母さんからも攻撃が来た。


 「奥様、お心遣い、大変ありがとうございます…」

 エレナの顔はぐぬぬと歪んでいた。


 余計なことを言わなきゃいいのに。


 「さあ、あなたたち、馬鹿言ってないでしゃんとしなさい。もうすぐ着くわよ。」


 母さんの一言で、皆の背筋が伸びる。


 「リーサ、頼むな。」


 「任せておいてよ。こんなん楽勝よ。」


 「おま、それ、フラグ。」


 「あ。」


 リーサの天然も相変わらず。

 今朝も平和だ。



 ****

 ここでカメラは空の雲に向かいパンする。

 ****

 とはいかない。


 馬車は城のゲートをくぐり、近衛騎士と母さんの短いやり取りを経て、城の前に到着した。


 城の扉に向かうのは俺と母さんとリーサだけ。


 あとの三人は使用人用の入り口から控室に入って俺たちを待つ。


 なるだけ待たせないようにしてあげたいが、こればかりはどうも言えない。

 

 扉の奥にはすでに俺たちを待っていた、あの貫禄あるメイドが立っていた。


 「お待ちしておりました、ヴァレンタイン辺境伯夫人、アベル様。」

 恭しくメイドはお辞儀をした。


 「お出迎え、ありがとう。」

 母さんは簡単に礼を言う。


 「それではこちらに。」

 メイドは回れ右をして、カーペットの敷かれた廊下を静々と進んで行った。


 通されたのは前回来たことのある控室。


 ここに先客が居た。


 「おや、そこにお出でになるのはヴァレンタイン辺境伯夫人かな?」

 そう言ってきたのは、見たところ70代を超えた好々爺然とした気品ある老人だった。


 「これは、パーシー公爵閣下。ごきげんよう。」

 母さんがちょっと緊張した面持ちを作りながらも、きちんと挨拶をする。


 「うんうん、ごきげんよう。」

 パーシー公爵は笑顔を作り、うなずきながら近づいてきた。


 母さんの様子を見る限り、身構えた方がよさそうだ。


 「この子はお子さんかね?」


 そうパーシー公爵は俺の方を向いて母さんに問う。


 「そうです、アベル、パーシー公爵閣下にご挨拶を。」


 「パーシー公爵様、お初にお目にかかります。ローランド・ヴァレンタイン辺境伯の子息、アベル・ヴァレンタインでございます。よろしくお願い申し上げます。」


 俺はそう言って最敬礼をする。


 「ふむ、アベル君だね。儂はアーノルド・パーシー公爵だ。なるほど、この子がヴァレンティアの至宝だね。なるほど、なるほど、さすがにしっかりした挨拶をする。」


 「お褒めにあずかり、恐縮いたします。」


 母さんが礼を言うが、普段と全然違い、やけに緊張してる。


 王家の方々にもこんな緊張はしなかった。


 「うんうん、出来の良い子を持つのは親の本懐であろう。なあ、アリアンナ。」


 おい!馴れ馴れしいなこのジジイ。


 「そう言えばセイナリアに来る途中で、盗賊に襲われたとか。一緒に来られた者は皆無事だったかな?」


 ん?


 「はい、おかげさまで。」


 「それは重畳。帰り…」


 と、続けたところでノックの音が響いた。


 扉から文官が登場し


 「公爵閣下、陛下がお呼びです。」

 そう端的に伝え、扉の前で待っている。


 「ふむ、それではな。ヴァレンタイン卿によろしく。」

 そう言って公爵は軽く会釈をし、扉から出て行った。


 「ふぅ。」


 そう大きくため息をつくと、ドカッと音を立てて備え付けの豪華な椅子に腰を掛ける、気品ある我が母上。


 「なるほど、公爵が盗賊の裏か。」

 俺がそう呟くと


 「それを今言っちゃダメ。」

 母さんが俺に釘をさす。


 「はい、わかりました、母さん。」

 俺は素直に従う。


 「あなたも釈然としてはいないだろうから、別邸に帰ってから説明するわ。」


 「うん、けど、嫌な迫力がある爺さんだったね。」


 「昔からああなのよね。そして、ご婦人方を見る目がちょっと厭らしいのよ。そこが嫌われているポイントね。」

 と、言ってから


 「いやだ、嫌われているとか言っちゃった。」

 軽く反省する母さん。


 してないけど。


 母さんは父親であるウイリアム爺ちゃんが宰相をやっているんだ。

 

 公爵とは昔から顔なじみではあったのだろう。


 そしてその裏の顔や厭らしい部分も知っていたからこその、緊張感や態度だったのだろう。


 そういや、リーサが空気だったな。

 「そりゃ面倒ごとは嫌だもの。気配くらい消すわよ。」


 こいつまた俺の思考を読みやがった。


 「あら、リーサちゃんそんなこともできるの?」

 母さんが興味を持つ。


 「アリアンナ、私は割と万能なのよ。」

 リーサは得意げに胸を突き出した。


 「ふふふ、リーサちゃんは可愛いわね。」


 「そうなんだよ、リーサは可愛いんだよね。」


 「いやだ、アベルまで…」

 と、モジモジし始めるリーサ。


 そういうバカっぽいところが可愛いんだよな。

 

 「そうね、天然なところが可愛いわよね。」

 と、俺の思考を読んだがごとく、母さんも言い放つ。


 「なんなの!この親子!」


 俺の思考も読んだリーサが照れから一転、いきり立つ。

 ギャーギャーとリーサが喚いていたら、またもノックの音が響いた。


 「ヴァレンタイン辺境伯夫人御一行様。陛下がお呼びでございます。」

 さっきと違う文官が呼びに来た。


 「はい、ありがとう。アベル、行くわよ。」

 母さんは、立ち上がり軽く身なりを治してからドアに向かう。


 「リーサ行こうか。」

 「うん。」


 俺も身なりを直し、リーサは俺の肩に座り、ドアへ向かった。


 文官に付いて到着したのは、またしても謁見の間。

 この手続きをいちいち踏まなきゃいけないの?


 めんどいんだけど。


 またしても立派な観音開きのドアが開かれると、立派な謁見の間が目に入る。


 俺の不貞腐れた顔が見えたのか、この前会った王と、ウイリアム爺ちゃんが苦笑いしていた。

 クラウディア王妃は歓迎の微笑み。




 俺と母さんは王の前で跪き俯いて、王の言葉を待った。










これまでのお話を、ちょっとずつ修正、加筆を行っています。

大筋は変わっていませんが、振り返ると、読みやすく、新しい発見があるかもしれません。

お時間があるときにでも、是非読み返してみてください。

*******

ここまで読んでいただき、有難うございます。

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