第十三話
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「そろそろお風呂、湧いたかしら。理沙、今日は香菜江さんに入れてもらいなさい?」
夜の20時前。夕飯が終わって、理沙ちゃんと一緒にテレビを見ていると、優香さんが声をかけてきた。
どうやら優香さん家のお風呂は、理沙ちゃんが寝る前の時間に済ませるようだ。
「香菜江おねーさんとお風呂ー! ママは一緒に入らないの?」
理沙ちゃん、なんともまあ自然に最高の提案をする。わたしとしては大歓迎だが、優香さんの裸を見たらえっちな気分になっちゃいそうだしなあ。家族三人でのお風呂は、色々大変そうだ。
「ママはちょっと忙しいから、いいの」
「えーっ。ママ、お風呂の時いっつも香菜江おねーさんのこと話してるのに。一緒に入らないの、へんなの」
「こらっ、余計なこと言わないでいいの! 早く入っちゃいなさい」
なんとも興味深い会話が聞けたものだ。
「ママって香菜江おねーさんの前だと怒りやすいのかなあ?」
「あれはね、照れてるっていうんだよ、理沙ちゃん。それより、お風呂でママのこといっぱい聞かせてね」
理沙ちゃんから優香さんのあられもない情報、いくらでも引き出せそうだ。
優香さんは、ちらちらとわたしたちを窺ってきていて、気が気じゃない様子。理沙ちゃんが失言でもしようものなら、お風呂に乱入してきそうだ。
小さい子どもをお風呂に入れるのは初めてのことなので、かなり気を使った。恥ずかしがる余裕なんてあるはずもない。
頭を洗ってあげたり、体も入念にゴシゴシとしてあげたり。他にも、水場なのでどんな危険があるかもわからない。一時も目を離すことができなかった。優香さんは毎日こんなことをこなしているんだなあ。
理沙ちゃんは、常時キャッキャしているのでそこだけは救いだった。
一通り洗い終わったので、湯船で二人、のんびりとする。ごくらくごくらく、って呟くと、理沙ちゃんも真似してくるのが可愛い。娘とお風呂に入るのって、癒やされるな。育児って大変な部分もあるけど、それ以上に我が子が愛おしくなるのだろう。
「香菜江おねーさんって、ママとぜんぜんちがうね」
「え、そうなの? ごめん、何か違ってて嫌だった?」
「ううん、そうじゃなくて。ママとからだ、ぜんぜんちがうなって。香菜江おねーさん、おっぱいないもん」
理沙ちゃん、指摘しにくいことを平然と言ってのける。その発言は、女のわたしにしてみればけっこうなダメージだ。いや、昔は気になったこともあるけど、今は全然気にならないし! 別に、自分の胸とかどうでもいいし!
「あ、あはは。優香ママ、おっきいしやわらかいもんね。ごめんね、わたしのおっぱいじゃ理沙ちゃんを楽しませてあげられなくって」
「えーっ! 香菜江おねーさんもママのおっぱい知ってるんだ! 香菜江おねーさんもママのおっぱいつんつんしたことあるのー?」
!?
鋭いな、理沙ちゃん! ちょっとの失言を一瞬で暴かれてしまったぞ。
つんつんどころか、ちゅーちゅーしたし、かみかみもしました、って言えないんだが! ぐ、どう答えればいいんだ。相手が純粋すぎて、誤魔化すのも難しいな。そうか、だから優香さんは理沙ちゃんとお風呂に入りにくかったんだな。
「ま、まあ、ちょっとしちゃった、かな……。優香さん、魅力あるし……」
「香菜江おねーさんもママのこと好きなんだ! ママもね、香菜江さん香菜江さんっていっつも言ってるんだよ。おにあいってやつだねー」
理沙ちゃんって、意外とおませなのか。でも、わたしたちが恋愛関係にあるのを知ったとしても、嫌がらないでくれそうだな。後は、打ち明けるタイミングか……。そこは慎重にいきたいところだ。
「わたしは優香さん大好きだよ。もちろん理沙ちゃんも好き。理沙ちゃんは、優香ママのこと好き?」
「いちばん好き! でもね、香菜江おねーさんも同じくらい好きかも」
理沙ちゃんと湯船で抱き合う。
子どもにとって一番大切なのは母親だろう。それと同レベルに好かれているのは、素直に喜ばしいことだ。
いくら優香さんと相思相愛になったところで、理沙ちゃんに嫌われでもしたら、優香さんとの結婚は諦めなければいけないだろうし。理沙ちゃんの気持ちは、今のところ順調に掴めている。
「うーん。でも、やっぱりママと香菜江おねーさん、おっぱい以外もちがうねー」
「え、今度はなに?」
理沙ちゃん、わたしのからだに興味津々なのか、次々に違いを見つけてくる。将来、えっちな女の子にでもならないといいが……。優香さんがえっちなからだしているし、影響されてもおかしくはないな。そこはわたしが正していかないと……。
「したのおけけが、ママはすご……」
「理沙ーーーー!?」
お風呂の外から、怒号が飛んだ。
……優香さん、もしかしてずっと聞き耳立ててた?
さしもの理沙ちゃんも、顔面を蒼白にして身震いしている。どうやらママは、怒ると恐ろしく怖いようだ。
……きっと、わたしが矯正しなくても品行方正に育ってくれるだろう。